負けイベント進行中
俺の背後からの奇襲は完全にガラドをからめとった。
不意打ち大成功。
俺の鞭は絶妙なタイミングでガラドを縛りつけ、ガラドがまさにヤミンを押し倒そうとしたのを絡め取った。
ガラドは中途半端にズボンを下ろしたタイミングで縛られてしまったものだから、バランスを崩して地面に転がった。
レイチェリオンさん大感謝です。
【束縛】1レベルまで上がってて良かった。
一発勝負だったから、決まった時はしびれた。
「ケーゴ!」
「ケーゴ君!」
リコとヤミンから同時に声が上がる。
「てめえ! 今朝の!! さては、お前、こいつらの手先だったのか!」簀巻き状態のガラドが俺に向かって叫ぶ。
ガラドは無視して、ヤミンに指示。
「ヤミンさん!そいつを制圧して!」
目を潤ませ、今にも泣き出しそうになりながらこちらを見つめるヤミンに向けて、鞭の柄を放り投げると、カムカから貰った短剣を抜いて、リコと対峙している相手に斬りかかる。
敵はさっと後ろに跳び俺の攻撃が空を切る。
かわされた?
【命中】だけなら9あるのだが。
やるな。
「ケーゴ! 何で?」久しぶりの再会を喜ぶ様子もなく、リコが質問を浴びせかけてきた。「ガラドについてったんじゃないの? こいつらの仕事受けたんじゃないの?」
「ブッチした。」
俺は端的に答えて、ランブルスタを出る時カムカから貰った短剣を構えて、リコの隣に並んだ。
「ケーゴ、だめ。逃げて。コイツ強い。私が何とかするから。」
「リコにだって敵う相手じゃないだろ。」
そう言い合いながらも、二人とも敵から目を離せない。
「いいねえ、いいねえ。せいぜい連携してくれ。なんだったら弓が来るまで待ってやっても良いぜ。」
リコと戦ってた男が嬉しそうに笑う。
「おい! ユージ、無茶すんなよ! スキルなら充分上がったろ!」
ヤミンに縛られてる最中のガラドが男に向けて叫んだ。
相手が様子見に回ってくれるようなので、状況把握しとこう。
「ガラドが集めた冒険者たちはどうした。」
「アレならもう死んだよ。おかげで【闘気】が取れた。あとはお前らだけ。お前らを殺せば何か上がるかな?」
他に味方してくれそうな奴はいないってことか。
「援護するわ!」
後ろからヤミンの声が聞こえた。
ガラドの制圧が終わったらしい。
「ヤミンさん、リコを連れて逃げてください! 俺、かわすだけならなんとかできます。」
「なに言ってるの!」
「3人なら行けるわ!」
そりゃ、そう言うよな。
二人だけでも逃げて欲しいんだが。
どうすれば・・・。
「準備が整ったんなら行くぜ。」
ダメだ。
もう相手も待ってくれない。
「一人でも良いから女は残しといてくれよ~。」
後ろの地面際からガラドの声が聞こえた。
「【連斬】!」
男が剣スキルを使う。
【連撃】の上位スキルだ。
いくつも放たれる攻撃の軌道を縫うようにすべて避ける。
「おっ!お前、避けれんじゃん!!」男が嬉しそうに叫んだ。
相手の攻撃をかわして分かった。
強い。
リックなんかより全然強い。
リコはよく一人でコイツの相手をできていたものだ。
今も相手は手加減してる・・・というか技スキルのレベルを上げるために修練の悪いスキルを選んで使っている気がする。
「もっかい行くぜ! 【連斬】!」
あぶねっ!!
頬を剣の先がかすめ、綺麗にぱっくりと割れる。
血がだらだらと流れて来たが、この状況では死ななきゃぜんぜん安い。
「また避けた! いいじゃん! いいじゃん!」
敵は俺相手に【連斬】を連発して、レベルを上げようって算段みたいだ。
たぶん、レベルが上がった時点で、彼は満足して俺を殺しにかかるだろう。
「リコ、だめだ。コイツ強い! ヤミンさんといっしょに逃げて! 今なら逃げれる。」
「バカ言わないで! ケーゴを残して行けるわけ無いでしょ。」
「でも、このままじゃ全員無理だ。」
「おい、次行くぞ! 【連斬】!」
剣が服の脇腹を切り裂く。
今のは鋭かった。
でも、致命傷じゃない。
「良くかわす。いいなお前! レベルが上がるまで何度も試せそうだ。」
くそ!
気持ちが解かる!
「なんだってこんなやり方をする。モンスター狩りで地道にスキル上げしたほうが良いだろ。」
「別にお前らで上げたっていいじゃん。モンスターとお前らに違いなんてねえよ。」
「人間をなんだと思ってやがる!」
「人間? お前たちはモノだ。お前らとモンスターが違う? 同じだね。俺の立場からしたらな。」
「なんだと?」
「お前らもモンスターも、俺の養分と慰めになるために作られたモノだ。お前らを作った神を恨むんだな。【連斬】!」
「【連斬】!」
男が再び技を繰り出す。
くそ、馬鹿の一つ覚えみたいに!
「【牙突】!」
【連斬】の放ちしなを狙ってリコが技を繰り出した。
男が技を繰り出すのを止めてリコの技を単純な【受け】だけで払い飛ばす。
「お前、邪魔。」
男が技を弾かれてバランスを崩したリコに向けて剣を振りかぶった瞬間、今度は男の顔めがけて矢が飛んできた。
「ちっ。」
男は、リコへの反撃を諦めて首をひねって矢を交わす。
すかさず俺が短剣を叩きつける。
が、なんなく弾かれる。
「【牙突】!」
その瞬間をリコが敵を再び突く。
男は身をよじってかわすもそこを再びヤミンの矢が襲う。
「【スナイプ】!」
「【パリィ】!」
男はヤミン放った矢を叩き落とすと、戦闘を中断しようとでもいうよに大きく間合いを取って剣を収めた。
こちらからは無理には攻めない。
本気で殺しあったら負ける。
頼む!
このまま、引いてくれ。
「おい。【パリィ】はまだ結構MP使うんだ。【連斬】の回数が一回減ったじゃねえか。」男は苛立たし気に言った。「じゃまくせぇ。後で可愛がってやるから女どもは寝てろ。」
そう言うと男は何やら集中を始めた。
「しまった! ヤミンっ!!」
リコが叫びながら男に向かって突撃した。
「【サンダーボルト】!」
魔法!!
小さないかずちの矢が、新しい矢を構えようとしていたヤミンを捕らえた。
ヤミンが崩れ落ちる。
「ヤミンさんっ!」
クソっ! 死んでないよな!
「よくもっ!」
男に跳びかかったリコがそのまま男に切りかかる。
「【柄殴】!」
男は剣を抜く動作で、そのままリコのみぞおちに剣の柄を打ち込んだ。
「ぐふっ!」
リコが体中の息を吐いてうずくまる。
うずくまったリコに男が手をかざした。
「このくらいで死ぬなよ。【サンダーボルト】」
「きゃあああっ。」
悲鳴をあげてリコが地面に崩れ落ちた。
「リコ!!」
「まだ生きてるぜ。逃げようなんて思うなよ。」
そう言って、男はリコの皮鎧の肩に剣を差し入れ、胸当てを縫い合わせているひもを剣で引きちぎった。
「かかってこいよ。それとも死ぬ前にコイツが犯されるのを見ときたいか?」
「貴様!」
俺は突っ込む。
男は俺の攻撃をかわすと、再び技を放ってきた。
「【連斬】!!」
少し見慣れてきた。
今度は身をひねってかわす。
が、相手の練度も上がってる。
今度は肩と股の二箇所を切り裂かれる。
致命傷は免れているが出血がひどい。
そう長くは持ちこたえられないかもしれない。
「ぎゃはははは! 良くよける! 天然の【剣聖】相手に良くやってるぜ? 誇っていいぞ!」
クソっ! 天然の【剣聖】か!
天然の【剣聖】とはキャラ作成の段階で【剣聖】を持っているキャラの事だ。一方で養殖というのは神託でもキャラ作成でもなく、冒険の途中で突然【剣聖】に目覚めたキャラの事だ。
ん?
・・・天然?
「お前? まさかアルファンプレーヤーか?」
「!!」
男の手が止まり、その目が大きく見開かれた。
「・・・お前、人間か!」




