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神託

 カリストレムに来て初めての夜が明けた。

 茅葺き亭のベッドはこっちの世界の人生で一番のいいベッドだった。


 昨日、ヤミンに「リコが帰ってくるまで動くのは待ってね。お姉さん一人じゃ新人の面倒は見られないから。大人しく宿にいるのよ。」と言われてしまった。

 

 が、


 もちろん、そんなん守る気ない。

 リコが危ない目に巻き込まれる前に犯人の目星をつけてギルドにチクろう。


 俺は朝も早々、ヤミンに見つかる前に、武器屋と冒険者ギルドの場所をニキラさんに聞いて宿を出た。


 朝の光に照らされた石レンガの綺麗な街並みを冒険者ギルドに向けて歩く。

 人通りの少ない知らない街を歩くのはとても気持ちがいい。

 それも、中世の街並みの現在が広がっているのだ。

 前世でも海外なんて行ったことのない俺は田舎者丸出しできょろきょろとあたりを見回しながら進む。


 冒険者ギルドは街の広場から少し入った裏通りにある。

 武器屋もその近くにあるのだが、開店時間がもうちょっと先だ。


 街の真ん中にある円形の広場に到着。

 朝なので人通りはまばらだが、露店の準備が進められている。

 広場を囲むように大きな建物が何軒も建っている。

 簡素だけどひと際大きい建物。

 あれは庁舎かな?

 その隣のやけに装飾が派手なのは神殿だな。

 大きなアーチのど真ん中に女神像が飾ってある。


 アアルの中にはラミトス、ベルゼモン、ゼキンバードの三大神が居て、それぞれ知恵の女神・力の神・慈愛の神だ。

 女神なので、多分、ラミトス神殿だ。

 広場には他に教会らしき建物は見当たらないってことは、この街で力を持ってるのは知恵の女神ラミトスなのかな。


 ん?

 そういや、アサルなんて神はアルファンにはいなかったぞ?

 あいつの立ち位置ってどうなってるんだ?

 観光がてら、ちょっと寄ってみるか。

 もしかしたら教会の中にある彫刻とか絵とかにアサルの姿があるかもしれない。

 そういえばランブルスタ村の神様って誰だったんだろう? みんな神と神殿とかしか言わなかったし。

 実はあの村の神様こそがアサル神だったのだろうか。


 めっちゃ宗教勧誘とかされたらどうしようとか思いながらも教会の開かれっぱなしの豪勢な門を入っていく。

 アルファンと似た世界なら、ベルゼモン神殿以外では極端な宗教勧誘は受けないはずだ。

 無宗教なのに信心深い日本人としては、まず最初に本殿にご挨拶からだ。

 賽銭代わりの献花を購入し祭壇に備えてから、膝をついて祈る。


 アルファンでは祈るとたまに神託が貰えることがあるらしい。

 場合によってはスキルが開眼する場合もあるとか。

 俺はゲーム内ではそういうのに遭遇したことはなかった。


 が、

 カリストレムの一発目のお祈りで神託を引き当てたっぽい。


 突如身体に浮遊感。

 魂が空に舞い上がる感触のあと、気づけば俺は空の上のような明るく開けた場所で神と向き合っていた。


「やあ、久しぶり。」


 アサル神じゃねえか!


「ラミトス神殿で祈ってたんですけど、あなたがラミトス神だったのですか?」

「なんかねー、アアルの人がそんな感じの名前で呼び始めちゃったからもう、それでいいかなーなんて。」


 神がそんなブレブレで良いの!?

 だいたい、ラミトスって女神じゃん。


「そもそもアサルって名前もなんとなくそれっぽいから僕が勝手に名乗ってるだけだし。本名は内緒。」

 神・・・。

「あ、別に、僕だけがラミトスが僕ってわけじゃなくてね、いろんな神の神託に対してこの世界が形を与えたのがラミトスってことになるのかな。君の担当は僕だから僕が来たわけで、どこの神殿行っても僕が出てくるんでよろしく。」


 おい。アルファンって宗教戦争的なクエストなかったか?


「あ、でも僧侶として生きたいんなら、好きな神様選んで大丈夫だからね?」

 好きな神も何も結局は全部アンタなんだろう?

 でも、突然神託が始まったけど何か恩恵でも貰えるんだろうか。

 レアスキルとかだったら考えなくもない。

「今日はさ、ちょっとお願いがあって来たんだけど、ちょっと頼まれ事聞いてくれないかな?」

 恩恵どころか頼み事だった。

「やってくれたらどれでも好きなスキルを1レベル上げてあげる。」

「やりましょう。」

 さすが神。解っていらっしゃる。

「それで、頼み事とは何ですか。」


「人探し。」


「人探し?」

「スキルをいっぱいあげた転生者を見失っちゃって。」

「課金者だったんですか?」

「うんにゃ、今の君と似たような感じ。」

「え? スキルいっぱい、ずるい!」

「いや、彼女にはちょっとこの世界で色々お仕事してもらおうと思って。その分の対価みたいな感じ。」

「そういうの俺に言ってくださいよ。俺、たくさん働きましたよ?」

 スキルくれるなら。

「そういうのってアルファン経験者には振っちゃいけないことになってんのよ。事前情報でチートできちゃうから。迂闊にこの世界の仕事でそれやられちゃうと預言者みたくなっちゃうからね。」

「アルファン経験者には仕事任せられないって・・・アルファンって日本人がこの世界に来るための練習場だって言ってませんでしたっけ?」

「違うよ! アルファンは君らをこの世界に迎え入れるための僕らのための練習場!!」

 マジかよ。神・・・。

「ま、ともかく、君にもレアスキル上げるのにちょっと余分なリソース割いたからさ、その分働いてくんない?」

「俺、アルファン廃人だったんですけど良いんですか?」

「人探しだし、世界的な問題なんて起こしようないっしょ。もちろん神からの依頼だなんて言わないでね?」

「まあ、世界に波風立てないように動くようにはしますよ。その代わりスキル1レベル、絶対ですからね。」

「はいはい。」

「で、探し出して欲しいのは女の人なんですか?」

「良く分かったね。」

「さっき、自分で『彼女』って行ってましたよ?」

「そだっけ?」

 神・・・。


「探して欲しいのはエルナちゃんって子。今の君と同じくらいの歳の女の子。可愛いよ? 黒髪で清楚な感じの女の子。」


「そう言われても、この世界中から見つけるってなると結構大変ですよ。何かヒント無いんですか?」

「彼女を送り込んだのがこの街だから、多分、この街か王都かに居ると思うんだよね。」

「すでに、死んでるとかはないですよね? この辺り新人狩りが横行しているって聞きましたよ?」

「それは大丈夫。彼女の・・・・なんて言うのかな、部分的な情報量が変化しているから何かしら行動はしてると思うのよ。」

「死体が腐っていってるとかじゃないですよね?」

「そういう考え方もあるか・・・。」

 神・・・。

 この神、全知全能とはほど遠そうだ。

「まあ、生きてても死んでても、見つけたらどっかの神殿でお祈りして。あ、たまに出れない時あるから、そん時は何回か試してみてよ。」

 電話かな?

「さすがにその情報だけだと名前と黒髪ってことしか分らないようなもんなんですが。もうちょっと何か手がかり有りません? 偽名とか使われようもんなら絶対見つけられませんよ?」

「ドーソンって伯爵の令嬢として転生させたんだけどね、ここ3年くらいで見失っちゃった。ご家族もどこ行ったか知らないみたい。一応、彼女にはこの国で偉くなって人々を守るように使命を与えてある。だから、多分、王都に向かったんじゃないかなぁとは思ってる。」

「その使命のこと忘れてたり、やる気が無かったりしたら王都には行かないのでは?」

「それは困るねえ。」

 困られても困る。

「他に、何か、分かりやすい特徴とかないですかね。写真とか、姿絵とか。この情報だけだと、仮に王都にエルナちゃんが居たとしても区別つけらんないです。」

「う~ん。彼女、君と同じ転生者だし、話したらなんとなく分かるんじゃない?」

 んな、アバウトな。


「それに、君、エルナちゃんと会ったことあるから。見れば分かるんじゃないかな?」


「えっ!?」


 ヤミンの時に続いてまたもや心当たりないんですけど。

 今までの俺の人生ってそんなに彩られてたっけ?


「エルナちゃんってのは・・・。」

 神は言った。



「君が車に轢かれるのを身を挺してかばってくれたJK。」



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