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少年ケーゴは剣聖になりたい

 アアル王都の王都ゴゼフから馬で東に2週間程度、エバーレイン共和国へ向かう細い街道沿いにランブルスタという村がある。

 そのランブルスタ村の外れに若葉が丘という場所があった。


 丘の上では、新緑の芽吹く木々の下、昼の陽光を浴びて少年と少女が戯れるように剣の稽古をしていた。


 少年が振り下ろした木刀を少女は笑いながらかわす。

 少女は遊んでいるかのように少年の攻撃をひらりひらりと避け続けている。

 一方の少年には一切の余裕がない。

 ついに、疲れ切った少年は肩で息をしながら膝をついた。

 

「ケーゴ、がんばろうよ! 冒険者になるんでしょ?」

 リコはいつものようにへばってしまったケーゴを励ましながら、そっと手を差し出した。

 リコがケーゴに向けて屈んだ拍子に、後ろで縛っていた綺麗な茶色い髪が右肩からサラリと顔を出した。

「何で、リコはそんなに元気なの?」

 ケーゴはリコの手を取らず、へたり込んだまま必死に呼吸を整えていた。

 木刀は地面に転がってしまっている。


 冒険者になるために剣の修行をしようと最初に言い出したのはケーゴだった。だが、最近では修行の厳しさにケーゴのほうが根を上げていて、リコのほうが積極的だ。


「えへへ! ケーゴと一緒に頑張って来たからだよ。」

 リコはナツメのように大きくて丸い目を細めて嬉しそうに笑った。リコはケーゴに褒められて素直に嬉しかった。


 リコは最初、ケーゴに剣の修業をしようと誘われた時、そこまで乗り気では無かった。

 ただ、大好きなケーゴと一緒に居たいから剣の練習を始めただけだった。

 でも今や、この小さな村を出てケーゴと一緒に外の世界を冒険して回ることは彼女自身の夢になっていた。


「なんて体力だよ。」

 散々動いてなお、そんな素敵な笑顔ができるリコのことがケーゴはとても羨ましかった。

「ケーゴはなんでそんなにすぐばてちゃうのよ? スキルすごいんでしょ?」

 ケーゴが本当に沢山のスキルを持っているなんてことをリコは信じてはいなかった。

 だけど、スキルをたくさん持っていると言うケーゴの言葉が嘘とも思えなくて、リコは戸惑いながら話を合わせている。

「疲れるものは疲れるんだよ。スキルなんて関係ないよ。」ケーゴは答えた。

 ケーゴはリコが自分のスキルの事を信じていないことには気づいていたが文句は言わない。



 この世界には【スキル】と言うものがある。



 【スキル】は人の能力と可能性を可視化したものだ。

 だから人々は天性の【スキル】の有無に一喜一憂し、努力して後天的な【スキル】を得ることで自らの価値を高めていく。

 この世界は才能はおろか努力すらも可視化されてしまう世界なのだ。

 だから、この世界の人々は皆知っている。



 ――【スキル】こそがこの世界の人間の価値を決める。――



 そんな才能の証であるスキルを、ケーゴは生まれつき数えきれないほど所持していた。

 しかし、あまりにスキルの数が甚大で、あまりにスキルのレベルが高かったため、村の人は誰一人その事を信じてはくれなかった。


 この世界の人々は自分の能力や技能についてはスキルとして簡単に認知することができる。

 頭の中で念じれると、ステータスと呼ばれる他の人には見えない数値の書かれた四角い文字盤が現れ、そこには自分のスキルがずらりと書かれているのだ。


 だけど、他人にステータスを見せたり、他人のステータスを見たりすることは簡単にはできない。

 街まで出ればスキルを確認し合う方法はあるのだが、お金がかかるし、貧乏なケーゴには考えられない事だった。


 この村でケーゴのスキルをみんなに見せることができるのは神託を受ける時だけだ。

 神託の時にはこの村の神父が神の御業により各自の能力を垣間見る。

 その時に神父がスキルを読み上げるのだ。

 ケーゴが神託を受けられるのは、成人の儀、16歳になる時だ。

 そして、ケーゴの16歳の誕生日は数日後に迫っていた。



(もうすぐ16歳になる。16歳の神託で自分が正しかったことをみんなにも分かってもらえるはずだ。)



 ケーゴはそう思って今までずっと我慢をしてきた。

 誰もケーゴのスキルのことを信じてくれなかった。

 子供のころのケーゴは、自分のスキルの事を信じてもらおうと必死になって食い下がった。そのせいで、ケーゴは村の人たちから疎まれてしまっていた。

 しかも、それだけのスキルを持っているという割に、ケーゴには何一つ得意なことはなかった。そのため、村人たちはみなケーゴが嘘をついているのだと確信していた。

 母親ですらケーゴの事を邪険にした。


 唯一、幼馴染のリコだけがずっと変わらずケーゴと仲良く接してくれた。


「じゃあ、ちょっと休憩してお話しよ?」

 リコは息切れしてへばっているケーゴのすぐとなりにちょこんと腰を下ろした。


 リコにとって訓練も大事だったが、どちらかというとケーゴといっしょに話しているほうが好きだった。

 リコはすぐ隣からケーゴの顔をじっと見つめた。


「いや、まだまだ、やれる。」

 そう言って、ケーゴは立ち上がった。


 ケーゴにとってもリコと話すのは楽しいことだった。でも、リコにとっても大事な訓練を自分のせいで休ませるわけにはいかなかった。

 リコのやさしさに甘えてはいけないと、ケーゴは無理やり立ち上がった。


「むぅ。」

 リコはケーゴが立ち上がってしまったので口を尖らせた。

 だが、彼女はケーゴが頑張っている姿を見るのも大好きだったので、すぐに立ち上がると笑顔で言った。

「じゃあ、頑張ろ~! 剣聖にならなくちゃだもんね。」


 リコが口にした剣聖というのはすべての戦いの立ち回りが上手くなるスキル【剣聖】を所持している人の事だ。

 かつての英雄のほとんどがこのスキルを持っていた。そして、それは滅多に見かけることのない伝説のスキルだった。

 【剣聖】は生まれつきに与えられるスキルであり、神託以外で人々がそのスキルを得ることは無かった。


 ケーゴにはその【剣聖】が212レベルもあった。


 普通、【剣聖】スキルのレベルが取りだたされることはない。

 2レベル以上の【剣聖】を所持した人が過去、誰も存在しなかったからだ。

 212レベルなど歴史上あり得ない数値だ。

 だからケーゴは自分が村を出て世界を救うような英雄に成れると確信していた。

 彼はレイドボスと呼ばれるこの世界を滅ぼしに現れる怪物たちを倒して、アアルの英雄になれるのだと信じていた。


 だから、ケーゴはこんなところでリコに負けてばかりいるわけにはいかなかった。

「くそう・・・。」

 ケーゴはリコの嬉しそうな屈託のない笑顔を見て、彼女は本当はサディストなんじゃないかと思いながら木刀を拾った。

 

(何だって俺はこんなにも弱いんだろうか?)


 剣聖たちは総じて若いころは人よりも劣っていたという話だ。

 だが、さすがにケーゴには納得が行かなかった。


 リコは【剣】のスキルを2レベル持っている。

 神託前の年齢の子供が【剣】を2レベルも持っていることはすごいことだ。


 だが、ケーゴの【剣】のレベルはすでに80000000を超えているのだ。


 なのにケーゴは今まで一度も剣の試合でリコに勝てたことが無かった。

 何かおかしい、とケーゴも思わざるを得なかった。


(神託の日に多くのスキルに目覚める人も多い。俺も神託の日になれば真の力を発揮できるのだろうか? そうなれば・・・)


 そうケーゴは期待していた。


「じゃあ、行くよ!」

 ケーゴの考えがまとまらないうちにリコが打ち込んで来た。

「ちょ、待って!」

 慌てるケーゴにリコの一撃が襲う。


 子供たちは夕暮れまで、じゃれ合うように剣の稽古をした。

 この日もケーゴはリコから一本も取れることはなかった。




 そして、神託の日が訪れた。

 ついに、ケーゴのスキルが皆に明かされるのだ。


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