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カリストレムの新人狩り

 カリストレムの街から徒歩で1時間半。

 大地のヒビと呼ばれる裂け目がある。

 草木は少なく大地がむき出しで、人通りは無く、動物や魔物すら少ない。


 洞窟のように続くクレバスの底に2人の男が居た。

 空まで届くような深い崖の底に、薄暗い陽光が男たちのシルエットを浮き彫りにしていた。


 一人は尻もちをついてもう一人の男を見上げている。

 もう一人は片手に剣を持ったまま、尻もちをついた男を見下ろしていた。


「助けてくれ!」


 尻もちをついた男が片手を上げて必死に懇願する。

 冒険者のようだ。

 身にまとっている鎧は血で濡れている。

 彼の仲間はみんな死体となって辺りに転がっていた。

 すでに彼の他は残っていない。


「なんで? お前は俺のレベルアップのための存在だろ。もう少し頑張れよ。それがお前らが作られた理由なんだから。忘れんなよ。」

 冒険者を追い詰めている男は懇願する彼を見下ろしながら、剣を突きつけた。

「生き残りたければ必死になれよ。」

「人の命をなんだと思ってるんだ!」

「なに人アピールしてんの? NPC新人冒険者なんて、プレーヤーのレベル上げのための道具だろ。」

「NPC?」

「お前らにゃ解らねえよ。仕事しないならもういいや。」

 男は冒険者に剣を突き刺した。

 冒険者は小さくくぐもった声を上げて絶命した。


 男が冒険者を殺すのを待っていたように、岩壁の影からもう一人の冒険者が現れた。

「ユージ。 終わったかい?」

「ああ。好きに漁れ。金目の物はお前のもんって約束だ。」

「悪いねぇ。後で儲けた金で何か奢ってあげるよ。」

 そう言って、後から現れた男は、周りに転がっている死体を漁り始めた。


 ユージと呼ばれた男は、死体の持ち物に夢中になっている男を眺めながらため息をついた。


 彼にとって今回の狩りはまったくの無駄な時間だった。

 普通これだけ殺せばなんかのスキルが一つくらい上がるのが普通だった。

 だが、今日はなんのスキルも上がらなかった。

 彼にとって周りの死体は、苦労して集めたスキルガチャ券のなれの果てだった。

 無駄に消えた10連ガチャの残骸だ。


 ユージは死体を漁る男を蔑むように見ながら思う。


 こいつらは所詮、モノ。

 虫ですらない。

 モノがモノからモノを奪っている。


 なんて世界だ。 

  人間は俺しかいない。


 ユージはため息を付くと、死体漁りに夢中になっている男に向けて言った。

「おい、ガラド。この街は次で最後にする。次は目立ってもいいから大勢連れてこい。」



* *  *



 場面は変わり、とある酒場。


 大広間のテーブルで二人の若い女性冒険者が話し合っていた。

 一部の飲んだくれを除けば、日の高いこの時間から酒場に集まるのは大抵の場合、仕事などの大事な話し合いをするためだ。


「また、帰ってこないって。」


 茶色の髪の冒険者が言った。

 パチリとした大きな目に整った顔立ち。長く綺麗な茶色い髪を後ろで一本に縛っている。顔立ちは幼く、まだ少女という感じだ。

 ありていに言って、可愛らしく、美人とも言える顔立ちだ。

 安物の革鎧に、腰には長剣を帯刀している。


「これで何人目?」

「23人目。」


 茶髪の少女の前に座っていた女性が答えた。

 明るい茶髪、日に焼けた身体、愛嬌のある可愛らしい顔だちの少女だ。

 頭の上には獣の耳、座っている椅子の後ろにはふかふかの尻尾がゆれていた。

 獣人だ。

 この世界ではマイルウンと呼ばれている。

 マイルウンの少女は笑えば可愛いであろうことが容易に想像できるが、その表情は深刻そうだ。

 彼女は茶髪の少女よりも小さく顔立ちも体つきも幼いにも関わず落ち着いた感じだ。しゃべり方も彼女のほうが年上である印象を与えた。

 彼女の座っている椅子には弓と矢筒が立てかけられている。


 彼女たちが話合っているのは、最近のこのカリストレムの街で起こっている事件についてだ。

 冒険者登録をしたばかりの新人冒険者や街にやって来たばかりの初級冒険者ばかりが行方不明になっている。


「街の人からは行方不明者は出てないって。クエスト中って訳でもないのに、どうやって新人の冒険者だけを見分けてるのかしらね。」茶髪の少女は不思議そうに呟いた。

「ギルドもさすがに問題にし始めたみたいよ。」

 マイルウンの少女が行は儀悪くデザートをフォークで刺して空中で回した。

「いまさら遅いのよ! 何人の新人が行方不明になってると思うの? 」茶髪の少女は不機嫌そうに声を高くした。

「リコ。そんなにカッカしない。」

「ごめん・・・。でも、もう、行方不明の新人たちの装備っぽいのがいくつも市場に出回っているみたいなのよ。」

 リコと呼ばれた少女はそう呟いてうつむいた。

 彼女の前のケーキは一切手がつけられていなかった。

「多分、死んでるわよね。」

「何で新人ばっかり・・・。」


 二人は冒険者として夢を語らったこともある同期や後輩たちを思って言葉を紡ぐのを止めた。


「ヤミン、ギルドが動いたって言ったけど、どこかのパーティーが動いたってこと?」リコが訊ねた。

「まったく。ようやく問題にとして認識したってくらい。今は注意喚起だけ。ギルドのクエスト外の出来事だからってことで関与しないスタンスみたい。」

 ヤミンと呼ばれた少女は肩をすくめた。

「冒険者に対して喧嘩売られてるのよ?」

「そう言われましても。困るのよん。」

 ヤミンはもう一度肩をすくめた。

「このままじゃ、私たちには同期も後輩も居なくなっちゃう・・・。」

「ウジウジ言ってても始まらないよ。私たちもギルドの一員なんだから率先して動きましょ。」

「動く?」

「私たちで、この件を調べるってこと。」

「私たちで!? 私たちだってそんなに強くない。二人じゃ危ないかもしれないわ・・・。」

「別に犯人を捕まえるとこまでやんなくても良いんじゃん? 犯人さえ分かればギルドも動くでしょ。」

「そっか、犯人を見つけるのか・・・。そうね、私達ならターゲットに入ってくるかもしれないし、囮にもなれるわね。」


「リコ、ケーゴ君が心配?」


「別に、そう言うつもりじゃ・・・」

 ヤミンの唐突な問いかけにそう答えつつも、リコは何かを考え込むかのように黙りこんでしまった。

 そんなリコの様子を見てヤミンがニヤニヤと笑う。

「その・・・いいの?」

 リコが上目遣いに対面に座っているヤミンを見つめた。

「いいわよん。別にリコだけの問題じゃないでしょ。」

「うん、ありがとう!」

 ヤミンに笑顔で礼を言いながら、リコは一人心の中で決意するのだった。


 何としてもカリストレムを安全にしないといけない。

 今の状態で無垢なケーゴをカリストレムに迎え入れるわけにはいかない。


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