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旅立ち

「悪いな、こっちから追い出す感じになっちまって。」

「いや、なに、ちょっと出発が早くなっただけです。わざわざ見送ってくれてありがとうございます。」

 村はずれまで見送りに来てくれたスージーとカムカに礼を言う。


 スージーが「追い出す」と言ってるのは、祭りの次の日の出来事のせいだ。


 祭りの次の日、仕事を終えた後、スージーが商店のみんなを集めて俺の優勝祝いを開いてくれた。

 金に渋いスージーがこんなことをしてくれるのは初めてだった。


 そんなわけで俺は先輩たちとご機嫌で盛り上がっていたのだが、その最中、村長が顔を包帯でぐるぐるまきにしたマッゾを連れて怒鳴り込んで来た。

 村長は即刻俺をクビにして村を追い出さないと村での商売を許さないと騒ぎ始めた。

 スージーは試合を止めなかったお前んとこの護衛の兵士が悪いだろと言って反論したが、そっちはとうに解雇して追い出したんだそうな。


 可哀そうに。あの人だって悪くないだろうに。


 魔石の販売が止まれば困るのは村長や村人なのでスージーは強気に村長を追い返したが、どのみち出てく予定の俺のために店のみんなが村長ににらまれるのも嫌だったので、俺は手っ取り早く旅立つことに決めた。

 正直、ダメージ関連のスキルを上げてからにしたかったが、しゃーない。

 【回避】があるので死ぬことはないだろうと思う。


 俺はその場で明日旅立つことを告げ、優勝祝いは俺の壮行会へと変わった。

 姉さんたちが俺のために泣いてくれたのがとても嬉しかった。

 カムカですら寂しそうに俺のことを励ましてくれた。

 こんな村と思っていたが、少しだけ俺の居場所もあったみたいだ。


 そして、今。明けて早朝。

 俺は生まれ育ったこの村、ランブルスタを旅立つことにした。


 あんまりいい思い出は無かったけれど、離れるとなると寂しい。

 これからここは俺の村じゃない。

 故郷ではあるのかもしれないけど、もうここは俺にとって全世界に色々ある村の一つランブルスタだ。


「また計算のできる奴を探さにゃならん。こんなに急に追い出さにゃならんのなら、早めに求人を出しておくんだった。」スージーが嘆くように言った。

「いえいえ、ボス。計算できる人間じゃなくて、数が分かるだけでいいんです。その代わり体力のある人を雇ってください。そんな人ならわんさかいるでしょ。」

「計算できなきゃ役に立たんだろ。」

「魔石入れるのに専念させるんですよ。」

「おお、なるほど。」スージーが感嘆の声を上げた。

「そんなところまで考えてたのかよ・・・。」カムカも呆れたように呟いた。

「そりゃ、もちろん。」

 ホントだよ?

「これは餞別だ。」

 スージーが俺に銀貨の入った袋を投げてよこした。

「銀貨3240枚入ってる。」

 結構な額じゃねぇか!

「ありがとうございます!」


 とは言ったが何か聞き憶えある数字。

 よくよく思い出せば俺の給料の利子分じゃねえか。しっかりしてやがる。

 ま、旅立つ俺のために貯めておいてくれたと思うようにしよう。


「そんだけありゃ、ニ、三ヵ月くらいはなんとかなるから、その間に仕事見つけな。」

「分かりました。なんとかします。」

「これはアタシからだ。」

 カムカはそう言って、俺に短剣を手渡した。

「アタシにゃ無用の長物だからね。」

 俺は鞘から短剣を抜いて確認する。


 短剣だ。

 【鑑定】を持って無いのでそれ以上解らん。


「ありがとうございます。」

「ザニアには何か言ったのかい?」スージーが訊ねた。

「特になんも。俺が負った借金分、あの人貰ってんでしょ? だったらそれが餞別で良いです。」

「まあ、それもそうだね。誰にだって親離れは必要だ。」

「そっすね、直接仕送りすんのやなんで、ボス、何か俺が上手く店に儲け誘導出来たら、俺の取り分を仕送り代わりにあの人に渡しといてくれません?」

「めんどくさい事押し付けんな。こっちだってやだよ。」

 スージーはそう口にはしたものの、しばらく考えて言い直した。

「デカい儲けだったら考えてやるよ。」

「了解。任せて下さいよ。」


 こんなあやふやな約束なんて効果があるのか解らないが守られなかったらそれでもいい。そんくらいの感情しかこの世界の母には持ち合わせてない。

 どっちかってと俺の罪悪感を消すための方便だ。

 それに、なんだかんだでスージーは約束を守ってくれそうな気がする。


「村長も文句言えないくらい立派になって凱旋してくれや。」

「頑張ります。」

 あんま興味ない。

「あと、商店の宣伝もよろしくな。忘れるなよ。」

「はいはい。」

「で、まずはどうするつもりなんだい?」

「まずは街に・・・カリストレムに滞在しようかなと思います。」


 俺は答えた。


「リコが待ってますので。」

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