優勝
『今回の大会! 優勝はなんと、ケーゴ!!』
魔導アナウンスから優勝を告げる放送が流れた。
リックを倒した時はあんだけ湧いた会場なのに歓声は一つも上がらない。
沈黙の中ガスが俺の右手をかかげあげる。
と、ようやく会場からまばらな拍手が上がった。
拍手は徐々に重なり合い、やがて大きなうねりとなって村の広場を埋め尽くした。
「すげえ! 一方的じゃねえか!」
「よくやったぞ! ケーゴ!! スカッとしたぜ!」
「リックを倒せるやつが、あんな豚野郎に負けるもんか。」
「まさか、ケーゴのやつ、本当に強かったのか・・・・。さっきのリック戦も偶然じゃなかったってことかよ・・・・。」
俺に向かって、歓声が上がる。
半分は俺を褒めて、半分はマッゾが負けたことを喜んでいる。
「あいつほんとに【剣聖】だったんだな。」
それは違います。
表彰式としてガスからねぎらいの言葉とちょっとした賞金を受け取ると、再びの拍手が巻き上がった。
あんま、褒められしてない俺、嬉し恥ずかしい。
ヘコヘコしながら観客たちの方へと戻っていくと、店のみんなが出迎えてくれた。
「ケーゴ! 優勝おめでとう!」
「サイコーじゃん!」
姉さまがたが今にも飛びついてきそうな勢いで駆けつけてきた。
飛びついてくれたっていいのよ?
「もっと、堂々と帰ってきなさいよね! あんた強いんだから!」
マリアナさんがそう言って俺の方を肘で軽く小突いた。
「ほんと、もっと自信持ちなさい。」クロエさんも頷く。
恥ずかしいの無理なんです。
すんません。
「これで、ランブルスタ最強だね。」ヌサさんが言う。
実はそうでもない。
そこに、姉さまがたの後ろからスージーがとカムカがやって来た。
スージーが俺に水を手渡してきた。
「お疲れ。優勝おめでとう。まさか、優勝しやがるとは露ほども思ってなかったよ。」
「ありがとうございます。」俺は水を受け取ると素直に頭を下げる。
ふと、スージーが眉をひそめて俺の背後に目をやった。
振り返ると、カウンターを何十発も喰らって顔面をパンパンに腫らしたマッゾが泣きながらガスと審判に肩を支えられ会場から連れ出されていた。
「さすがにあれはやり過ぎだったんじゃないか?」スージーが俺をたしなめる。
やり過ぎも何も仕掛けてきたのは向こうだし、そもそもこっちも他にやりようがなかったんですが・・・。
でも、ダメージが低い事がバレるとなんか文句言われそうなので適当に答えとこう。
「このくらいはやり返さないと腹の虫がおさまりませんよ。」
「お前、怖い男だねえ・・・。」
「ケーゴが殺されちゃうんじゃないかと思ってドキドキしたわよ。」クロエさんがちょっと遠慮がちに声をかけてきた。
「ええ、当たったら危なかったです。」
そういや、レベル上げに夢中でクリティカル引かれたらヤバいとか全部飛んでた。
こっちも木刀の振り過ぎで腕がパンパンなので、ここらで終わってくれたのは良かったのかもしれない。
「でも、これでケーゴ、村から出ていっちゃうことが決まっちゃったのか。」ヌサさんが寂しそうに言った。
「ごめんなさい。でも、またせてるやつがいるんで。」
「そっか・・・・。優勝おめでとう、でいいのよね?」と、マリアナさんが俺に確認する。
「はい。」
俺はそう返事をしてスージーに向き直った。
「これでボスの課題は二つともクリアで良いですよね?」
俺の問いかけにスージーはニヤリと笑ってから答えた。
「ああ、文句ないよ! 次は冒険者として頑張んな!」




