決戦直前
俺たちはルスリーの用意した馬車で、宿に装備を整えに向かっていた。
ちなみに馬はカルトスとバルトス。御者はヘイワーズさん。
もちろん馬車は王都を暴走してる。
「あああ、まさか、こっちよりも重要な話をしてるなんて思わなかったよ・・・。」
「私たちのせいで、世界が滅んじゃうかもしれない・・・。」
今更になって馬車の中ではリコとヤミンの二人がとっても頭を抱えていた。
「ルナちゃんにも悪いことしちゃったし。」
「神様にも怒られたし。」
「ルスリー殿下にも怒られちゃったし。」
「大丈夫だよ。世界を救えばそんなの帳消しだもの。」俺はどんどん落ち込んでいこうとする二人をなだめる。
「もとはと言えばケーゴのせいだぞ。」ヤミンが突如俺に文句を言ってきた。
「うん。来てくれてありがとうね。」
「「・・・・。」」
二人が驚いた顔で俺をまじまじと見た。
「え? 何?」
「ケーゴ、急にどうしたのかしら?」
「少しでもいままでの点数を取り返そうとしてるんじゃない?」
「突然、成長した的なの見せたくなった的な?」
「二人ともこそこそ話すんなら、もうちょっと声小さくして貰えませんかね?」
「「ねー。」」
リコとヤミンは二人で互いに首をかしげあった。
久しぶりにちょっと笑顔だ。
俺もいつもの調子に戻った二人を見て、おもわず顔がほころんでいくのが分かる。
「今日はさ、これでいいよね。」ヤミンが呟くように言った。
「「うん。」」
俺とリコはヤミンを見て、そして頷いた。
邪竜がどれほど強いかは分からない。
アサルは五分五分とか言ってたけど、それがルナやエイイチ基準だとしたら俺はともかくリコとヤミンには少し荷が重いかもしれない。
しかも、自分で作ったくせに思った通りの強さになってなさそうな感じだったから、蓋を開けていたら目茶苦茶強い可能性だってある。バランス調整失敗しましたって運営が明言したようなもんだもん。
俺にしたってエルダーチョイスの鞭が無いから、ルナやエイイチと比べたらだいぶ劣る強さだ。
邪竜を倒せるかは俺にかかっているとは言っても、俺が邪竜に敵うとは限らない。
「リコ、ヤミン。きっとすごい強敵だと思う、俺たちには荷が重いかもしれないし、きっとルナも俺たちの事を完全には守りきれないかもしれない。」
「ケーゴ、私たちが自分の意思で一緒に戦うって決めたんだ。」ヤミンが不服そうに俺を見る。
「私も頑張るから、だから足手まといだなんて言わないで。」リコも懇願するように俺を見つめた。
「うん。だから、頼りにしてる。来てくれて、ありがとう。」
リコとヤミンが嬉しそうに笑った。
「でも、二人とも死なないでね。二人がいない世界なんて俺やだよ?」
「うん。絶対に生き残るよ。」リコが言った。「私、ケーゴからまだお返事貰ってないし。」
「う。」
やぶ蛇。
リコはじっと俺を見た。
とても不安そうな目だ。
「分かった。これが終わったら、ちゃんと言うよ。」
「ルナにもだぞ。」突如横からヤミンが言った。
「え゛っ!?」
「ちゃんと言ってあげなよ。たぶん、ルナルナはそのほうが喜ぶ。」
「その・・・ヤミンは・・・。」リコが何かを言いたげにヤミンの方を見た。
「私はいいんだよ。もう言って貰った。」
「えっ!?」
リコが驚いて俺とヤミンを交互に振り返る。
て、俺、なんか言ったっけ?
「・・・ごめんなさいだって。」
あ・・・。
「そんな顔すんなよ。私は、私たちはさ、ケーゴの本音が知りたいんだよ。」
「本音・・・。」
「心配すんな。何も変わんなかっただろ。」そう言ってヤミンは身を乗り出すと俺をぐりぐりと撫でてきたた。
きっと変わってないなんてとんでもないのだろう。
だけど、二人とも変えてしまいたくないものがあって、それを大事にしたかったから、だから、変わってしまっても同じなんだ。
「うん、大丈夫だよ。私もルナちゃんも。」リコがニッコリと微笑んだ。
「うん。」
・・・俺が大丈夫かな?
「絶対に生きて帰ってこようね。」リコが言った。
装備をまとった俺たちは再び王城の前の広間に戻ってきた。
ここが決戦の場だ。
騎士たちに追い立てられるように避難してくる人々に邪魔されて遅れはしたものの、ヘイワーズさんのおかげでだいぶ早く到着できた。
鋭く尖った三角形の王城の上部には相変わらず今にも落ちてきそうな感じで巨大な輪っかがひっついている。
これ、戦いの最中に衝撃で落ちてきたりせんよな?
その輪っかの少し下、城の中腹にはストップウォッチのタイマーのようにカウントを減らしていく世界崩壊時計があった。
10.00002***
下三桁がみるうちに減っていっている。
そして、今、ついに残り10を切った。
時計の数値がついに10を切ったことに気づいた人たちから悲鳴が上がり、人々は転がるように逃げていく。
逃げ惑う人々を目で追っていると、広場の真ん中あたりでルスリーが誰か3人の男性と話しているのが目に入った。格好からして騎士みたいだ。
「お前らの援護も騎士隊の援護もいらん。神がそう言っとる。近場の住民の避難を急いでくれ。わしも二特もエデル以外は退避する予定じゃ。」
「しかしだな。世界を滅ぼす邪竜だぞ。」
「せめてレンブラントだけでも連れて行くべきだ。」
何か揉めてるみたい。
ふと、気づけば広場のど真ん中に俺の買ったトーテムポールがぽつんとおいてある。
緊張をほぐすためにストレッチを始めたリコとヤミンをおいて、トーテムポールに近づいて行って声をかけてみる。
「えーと聞こえます?」
『聞こえてるよ。そろそろ始まるからね。カウント3になったら邪竜復活するから。でも、その前に倒し方の說明をしたいからカウント5でちょっと集まってね。』
「あっちでルスリーが揉めてるみたいですけど、神として発言してあげないんですか?」
『余計なリスクは犯したくないんでね。』
「ケーゴくん。」
神と話していると後ろから声がかけられた。
振り返るとそこにはケーキ屋のミロクさんが立っていた。
「ミロクさん!? ミロクさんも戦えるんですか?」
「正直言うと、全然。でも、後方支援がひとつだけできるので、それやったら離脱します。」
「後方支援?」
「【完全防御】っていう呪文で、どんな攻撃でも一回だけ防ぐことができます。全員にかけれますよ。」
「おお!」
ダメージ無効の護符の呪文バージョン!
「それ、目茶苦茶生存率あがりますよ!」
「でも、残念ながら一回しか唱えられないんですよ。」
「たしか、戦闘中に一度しか唱えられない呪文をもう一回唱えることのできるマジックアイテムがあったはずです。ひょっとしたら王城にあるかも。」
アルファンで使ったことある。あれって名前何だっけ?
「あはは、私も知ってますよ。」
そうだった。この人、俺以上のアルファンユーザーだった。
「でも、この呪文、戦闘中一回じゃなくて一生に一回の呪文なので、ダメなんですよ。」
「一生に一回!?」
すげースキルだな。
「ここで使っちゃうんですか?」
「ここ以外のどこで使うんです? ラストエリクサー病はダメですよ?」ミロクさんは笑って言った。
「「「ケーゴ様!」」」
今度声をかけて来たのは、二特のみんなだった。
「みんな! 久しぶり!」
「ご活躍されてるって聞いてますよ!」マーガレットが嬉しそうに飛び跳ねながら寄ってきた。
「今回も世界を滅ぼす邪竜の討伐に神様から選ばれたってお聞きしましたわ。」サリアが目を輝かせながら俺を見る。
「【ゼロコンマ】を持ってるってだけで、君たちの隊長より強いとかではないんだよ。」
「それでもすごいですわ!」
二特のみんなが目をキラキラさせて俺を見つめる。
まるで超絶なモテ期でも来たかのようだ。
「すまぬな。本当は横で一緒に戦いたかったが、足手まといだと殿下に一蹴された。」エリーがみんなの輪を割って進み出てきた。
「今回は俺もルナとエイイチの足手まといの可能性があるしね。それより、みんなは避難しなくていいの?」
「ああ。民間人の避難がちょうど終わって今から退散させてもらうところだ。」
「そっか、お疲れ様。」
「直接参加はできないが、我々も微力ながら手伝わせて貰う。」
「ありがとう。」
「また会おう。」
「うん。」
俺はエリーと固く約束の握手をした。
二特が行ってしまうと王城前の広場にはほとんど誰もいなくなってしまった。
ルナとエイイチはまだ到着していない。
俺たち以外だと、さっきの三人の騎士がルスリーと相変わらず揉めている。
「お前たち、いい加減そろそろ帰れ! 巻き込まれるぞ!」ルスリーが癇癪気味に叫んだ
「巻き込まれたからって、我々が簡単に死ぬとでも思ってるのか。」
「この後、戦いについて神から啓示があるのだろ? だったらそれを聞いてからのほうがいい。」
「そうだ。我々にも提案できることがあるはずだ。」
「それに、ルスリー。君を残して行くわけには行かない。」
「わしも話を聞いたらちゃんと逃げるぞ?」
「殿下が逃げられるのなら我々も充分逃げられます。」
「わしには早い馬車があるだけじゃ。」
「じゃあ、その馬車に乗せてくれ。人数オーバーなら捕まって行きゃあいい。」
「知らんからな?」
「ケーゴ。」
三度呼びかけられて後ろを振り返る。
そこにはエデルガルナに着替えてきたルナが立っていた。
「リコとは話したか?」
え?
「ケーゴ、お前、リコにきちんと告白の返事をしていないのだろ? ちゃんと答えてやれ。」
エデルガルナ状態でも言ってくるのか・・・。
「うん。これが終わったら言うって約束した。」
「世界が終わるかもしれないのだ。言えずに終わるかもしれないのだぞ。リコにとっては一生がそのためにあるくらいに大事なことだ。」
「絶対に世界を救うよ。」
エデルガルナは怒ったような顔で俺を睨んだ。
「大丈夫。絶対に言うさ。」
「そうか。」エデルガルナは不満そうに呟いた。
そっか・・・。
「ルナ。」
「なんだ。」
「こんな時に言うのもどうかとは思うけど・・・。」
「?」
「俺はリコが好きだ。だからごめん。」
「うん。そうだね。」
ルナは花のような笑顔で笑った。




