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天王山

 一回戦がすべて終わり、準決勝が始まろうとしていた。


 俺とリックの対戦だ。


「すんなり決着が着いちまうんだろうな。」

「ケーゴはさっき番狂わせやったから、また万が一があるかもしれないぜ?」

「まさかぁ!」

 相変わらず客席からの俺の下馬評は低いが、商店のメンバー以外のファンがついたような気がする。


 ここが山場だ。


 こっちの【回避】は9レベル 【命中】は8レベルだ。


 レベルが上がってきてスライム叩きではレベルが上がらなくなってきたので、いろいろ試してみたところ、体におもりを巻くことで【回避】のレベルアップ効率だけ上げることができた。

 と言うわけでレベル上げ最初のころは【命中】が高かったが、今は【回避】のほうが高い。

 【回避】10には届かなかったが、代わりに【命中】が目標の7より高い。

 ちょっと心もとないが、これなら割といい勝負になるんじゃないかな?


 もしここで負けてしまうようならしかたない。来年だ。


「双方、構えて。」


 ガスの号令にあわせて、俺もリックも木刀を構えた。

「よろしく。」

「はい、よろしくお願いします。」

 挨拶を交わす。


 静けさと緊張感が二人の周りの空気をシンと張りつめさせた。

 リックの強敵感がすげえ。


「始めっ!」ガスが開始の声を上げた。


 今回は両者ともが前に出た。


 ちょ!

 剣が速い。しかも正確。

 スキルのレベルアップ効率を確認する暇がない。


 回避に専念してるにのに徐々に手数で押され始めたので仕方なくステータスを閉じる。

 気を抜いたらやられる。


 こっちは回避に専念してるというのにリックの攻撃は俺を追い詰めてくる。


「どうした、ケーゴ君。逃げてばっかりじゃ勝てないよ。」


 その通りだ。

 リックのアドバイス通りに一瞬のスキを突いて攻撃を仕掛ける。

 リックが慌てて木刀で防御してから、間合いを取った。

 思ったより俺の攻撃が鋭かったようだ。


 ここぞとばかりに攻めに転じる。

「ちょっ!」

 リックが慌てながら俺の攻撃を受ける。

 【連撃】こそ持って無いが、【命中】8レベルだ。

 簡単には防御できまい!

 

 って、追い込めん。

 器用にいなしやがる。

 リアルで対戦すると村の衛士ってこんなに強かったのか。


「おっと!」


 リックの急な反撃をのけ反ってかわして、カウンターを入れる。

 だが間一髪、リックに防がれる。


 十数合打ち合った後、俺たちはいったん仕切り直すかのように間合いを取った。

 俺たちの応酬に村人たちが大歓声だ。


「ケーゴ君、本気で攻撃してきてない?」リックが俺に訊ねる。

「してませんよ!」


 してる。


 なんてったってこっちはダメージが乗るようなスキルは一切上げていない。

 ダメージを軽減できるスキルを持っているはずのリックにダメージが通るわけがない。

 そんな訳で、手加減しなくても相手に怪我を負わせることはない。


 一方リックは職業軍人。

 しかも去年、女の子に血まみれにされた少年が相手だ。

 怪我に注意して剣を振るわなくちゃいけない。


 つまり俺だけ本気で戦ってる。

 計画通り!


「ちょっと、おじさんも本気でいこうかな。」

 そうリックが呟いた瞬間、鋭い突きが身を翻した俺の肩口をかすった。

「!!」


 あぶね!

 リックの剣が明らかに鋭さを増した。


「大人げないっすよ! リックさん!」

「大丈夫、大丈夫。避けれてるし。」

 リックはそう言って、再び攻撃を仕掛けてきた。

 攻撃の回転も鋭さも増している。

 だけど【回避】に集中していれば避けられないって程ではない。

 俺はギリギリバランスを保ちながらなんとか回避を続ける。


「やるな! これもかわすか! ならばっ!」


 リックが構えを変えた。

 手を緩める気は微塵もないらしい。


「『牙突・三段突き!』」


「まっ!!」

 俺は体勢も気にせず、慌てて後ろに跳び退る。


 【牙突・三段突き(剣)】


 いわゆる必殺技、技系スキルと呼ばれるやつだ。

 剣を使った特殊攻撃で、3連撃。【牙突】の上位技だ。

 一発ごとに【回避】や【受け】がしにくくなる。

 このスキルへの対応は【盾】とか【受け】とか何かしらのスキルで一撃目を打ち落とすのが基本だ。


 もちろん、そんなスキル俺には無い。


 ちくしょう、なんだって一般衛士がそんなスキル持ってるんだよ!

 ガスが教えたのか!?


 リックの三段突きが俺を襲う。


 一撃目、なんとか回避。

 体勢が完全に崩されたのが分かった。


 まずいっ!


 二撃目

 かろうじて身をひねってかわす。

 突きで良かった。三段突きの真ん中が薙ぎだったら終わってた。


 三撃目

 もう無理ぽ!


 リックの剣がグンと伸びたが俺を捕らえることは無かった。


 尻もちをついた俺に対して、リックのほうも攻撃でバランスを崩してつんのめっていた。

 俺はその隙に慌てて立ち上がる。


 そうか、1レベル無い技を不完全に出したのか!

 いわゆる練習中の技を出したってやつかな?

 アルファンじゃ1レベルないと選択すらできんかったからな。


「本気の攻撃じゃないっすか! 危ないっすよ!」

 こっちの本気攻撃は棚に上げて文句を言う。

「君こそ全力で攻撃していたように見えたけど?」

「ちゃんと怪我しないように振ってますって。」

 というかダメージ入らんだけだけど。


 だが、そっちがその気ならば、こっちも!


 上段右手。

 これから斜め下に薙ぐ感じで構える。


「なら、俺も『両門咲き』を使わせて貰います。」


「なにっ!? なんで君がその技を知っている!?」

 リックが驚く。


 何でも何も、街では衛士長クラスが良く持っている剣士の基本技だ。

 両方からほぼ同時の剣撃が繰り出される。よほどの【受け】スキルがあっても両方共を防ぐことは至難。

 その代わりダメージは下がる。

 一回綺麗に当てれば良いこの試合のルールに最適な技だし、【回避】でなく【受け】メインのスタイルであるリックにはとても効果的だ。


「行きます! 『閃・両門咲き!』」

 俺は一閃に踏み込んだ。


 リックが慌てて右側の攻撃を受けるため腕を開いた。

 多分右の攻撃を受けてすぐに左も捌くつもりなのだろう。


 ところがギッチョン。

 俺は右からも左からも攻撃はせずに、木刀でど真ん中からリックの頭をひっぱたいた。


 パシーンと心地よい音が響きわたった。


「なっ!?」

 驚いたリックが、やりやがったなとばかりに俺のことを睨んでいる。

 だがもう遅い。


 俺の【両門咲き(剣)】なんてレベル0.0003ちょいよ?

 使えるわけ無かろうもん。


「勝者! ケーゴ!!」


 ガスの声が響き渡り、会場が大歓声に包まれた。


「すげぇ!!」

「やりやがった!!」

「・・・嘘だろ!?」


 マディソン商店のみんなだけではない。

 今度は観客のみんなが俺のことを喝采してる。


 まいったな。

 ちょっと嬉しい。


 マッゾたちは声を失って俺の方を見ている。

 マッコだけが「やばい! やばい! どうしよう!!」と叫けび、マッゾは苦虫を噛み潰したような顔で俺のことを睨んでいる。


 マッゾのことはわざとガン無視して、とりあえず、お姉さま方のほうに戻る。


「ケーゴやるじゃん!!」

「強い!」

 お姉さま方が嬉しそうに飛び跳ねながら駆け寄ってきた。

 スージーはそのちょっと後ろで困ったように後頭部を掻いている。

 カムカはそのさらに後ろで踊りながら大喜びをしている。


 みんなに喜んでもらえてなにより。

 俺も嬉しい。


 よし!

 これで優勝は決まったな!

 

 ガハハ!!


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