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快気祝い

 カフェでエイイチに相談に乗ってもらった後、俺たちはミロクケーキ店に向かった。


 途中の路上で買ったとある大きな荷物を抱えて、ミロクさんのケーキ屋の裏口に到着。


 真面目な話の後だというのに、とんでもないものを俺が買ってしまったものだからエイイチの機嫌が悪い。

 俺だって買いたくなかったよこんなモン。

 なんだってあんな余計な【スキル】を俺は持っているのか。


 店の裏口にはルスリーに見張りを言いつかっていたエリーが真面目に立っていた。

「ケーゴ!」エリーは俺に気づいて声をかけてきた。「元気そうでよかった!」

 エリーも俺の惨状を知っていたからか、めっちゃ喜んでくれているのが見て取れる。

「エリー。心配かけたね、ごめん。ルスリーに連絡してくれたんだって? ありがとう。」

「どういたしまして。だが、それはリコ殿に言ってくれ。リコ殿が必死になってお前を探したからお前の今があるんだ。」

「そうなの?」

「そうだよ。まったく、リコ殿には敵わない。」エリーはなぜか少し寂しそうに笑った。

「今日は表で並んでるんじゃないんだ。」エイイチがエリーに尋ねた。

「ああ。昨今の世界崩壊時計の進みのせいで材料が入りづらいらしくてな。いつも程ケーキを作っていないらしいのだ。今更並んだところで買うことはできない。」

 なんか、一人だけ外に立たせてるのも可哀想だな。

「エリーもいっしょに食べれるように頼んでみようか?」

 今日は俺の快気祝いって話だし。

「すまんが、ケーゴ。それはルスリー殿下からきつく止められている。祝ってやれなくてすまないな。」逆にエリーに謝られてしまった。「それより、二人がここにいるということは、まだ茶会は始まっていないということだろう? 殿下が待ちわびていらっしゃるはずだから、早く行ってあげてくれ。」

「そっか、ごめんね。」

「気にするな。ここのケーキは、ルスリー殿下の謹慎明け祝いに二特のみんなと昨日食べたばかりだからな。」

 まじかよ。

「そっか。じゃあ、今日はありがたく楽しませてもらうよ。」

「ああ、また別の機会に我々ともやろう。それより、殿下を待たすな。お前たちが来たら通すようにミロク殿から言われているから、とっとと行ったほうがいい。」


 俺たちはエリーにうながされてミロクさんの店に入る。

 エイイチの後について前回通された部屋に入っていくと、エリーがうっすら忠告していた通り、不機嫌なルスリーが待っていた。

 

「二人とも遅い!」


 中ではすでにルスリーとルナがテーブルについていた。ルスリーはすでに手にフォークを握っている。

 ミロクさんの姿はなく、テーブルにはまだケーキもお茶も置かれていない。


「今まで何をしとった!」ルスリーがご立腹な感じで俺たちを責めた。

「ケーゴのせいですよ。いろいろモタモタして、しかも、来る途中に訳のわからないものも買うし。」エイイチが容赦なく俺を売った。

「返す言葉もない。」

 俺は素直に謝りながら、いままで抱えていた見るからにダサいトーテムポールを机の上に置いた。


「なんじゃ? それは。」

 ルスリーは俺が置いた高さ60センチ位の丸太を彫り抜いて作ったトーテムポールをペシペシと叩いた。

「露天で売ってた世界を救う像だそうです。」エイイチが答えた。

「えええ・・・なんとも趣味の悪い・・・。」

 ルスリーはトーテムポールのギョロッとした気持ち悪い顔を見ながら顔をしかめた。

 俺だってそう思っとるわい。


「来る途中にケーゴがどうしても欲しいと言い出して買ったやつです。僕の趣味じゃなですよ。」エイイチが念を押す。

 いや、俺の趣味でもねえよ。

「なんでこんなの買ったの?」ルナが不思議そうに尋ねた。

「いや、なんか神様に買うように言われました。」


 ここに来る途中にアサルが突如【天啓】をぶっこんできやがった。

 そして買え買えうるさいので仕方なく買った。

 ぜったい世界崩壊ブームにあやかったただの詐欺商品だ。


 なんでこんなん買わせんねん。

 意外と重かったし。


「また天啓を受けたのか。お前は神と仲が良いのう。」ルスリーはトーテムポールをいじりながら言った。

「仲いいも何も、最近勝手に【天啓】とかいうスキルを持たされて、好き勝手に頭の中に通信してくるんですけど。」

「こんなモン、なんの役にも立たなそうじゃがのう。」

 俺にもこれが何に使えるのかまったくわからない。

「どこぞの遺跡から掘り出されて、世界を救うご利益があるらしいですよ?」

 露天のおっさんが買わせようと必死でまくし立ててた曰くを話そうとしたけど、全部忘れてしまっていたので適当に答えとく。

 

 神め。ほんとにこれ買わにゃならんかったんだろうな?


「あら、ちょうど良かった。」ミロクさんがお茶のセットの乗ったお盆を持って部屋に入ってきた。「ちょうど準備が調ったところですよ。」

「おう、待ちわびたぞ!」ルスリーが嬉しそうに言って、トーテムポールをいじるのをやめて自分の席に戻った。

 ってか、俺たち全然間に合ってたんじゃねえか。

「あら、可愛らしいトーテムポールですね。」

 そうか?

「邪魔ですよね。ちょっとどっかに避けときます。」俺は慌ててトーテムポールをどかそうとした。

「せっかくですし、テーブルの真ん中においておきましょう。」


 ミロクさんはそう言ってお茶のセットを机に置くと、トーテムポールをテーブルの真中に起き直した。

 顔が俺の席の方を向いてる。文句を言う立場にはないのでなにも言わないが。


「エイイチさんが遅いのって珍しいですね。」ミロクがエイイチに言った。

「ちょっと、ケーゴから秘密の相談を受けてた。」エイイチは答えた。

「秘密の相談? 何じゃ。」ルスリーが興味深そうに尋ねてきた。

「男同士の秘密ですよ。」エイイチは澄まして答えた。

「なんぞ、なんぞ、イヤラシイのう。」

「いや、別に秘密ってほどのことはないですよ。そう言えばルナにもちょっと相談したいんだけど、リコって・・・


 隣の席からエイイチの腕が伸びてきて俺の顔面を鷲掴みにする。

 さすがNo.1冒険者。

 【回避】できんかった。


「おい、お前。今何聞こうとした?」

「え、いや、さっきの話、ルナにも相談しようかなと・・・。」

「エデルには聞いちゃダメって言ったろ?」

「でも女の子の気持ちはやっぱ女の子のほうが分かるのではないかと、痛い痛い!」

 エイイチのアイアンクローに力が入る。

「少しは自分で考えやがれ、どあほう。」


「ケーゴ、もしかして、リコリコときちんとお話したの?」ルナが今の話からで察したのか、芯を食った質問を投げてきた。


「え? あ、はい。いや、お話はできてないです。」

「そっかぁ。」ルナは何かを納得したように言った。


 エイイチは俺の顔面を解放して、席につくと諦めたようにため息をついた。


「なんで、OKしなかったの?」ルナが尋ねた。


「えっ!?」

 なぜ分かった。

「ええと、俺の覚悟がないというか、本当に自分がリコのことを大切に思ってるかあやふやというか。」

「何を空とぼけたことを。女子に告られて断るとか、何様じゃお前は。」ルスリーが呆れたように言った。

「いや、ちょっと待って貰ってるだけで、断ったわけでは・・・。」

「似たようなもんじゃ。」

「ねえねえ、ケーゴ? リコとヤミンと私だったら誰が一番好き?」ルナが突然尋ねてきた。

「そんなのみんな好きだよ。優劣つけることじゃない。」


「じゃあ、ケーゴは前世で私がこの世界に来る理由を作ったんだから、私を選んでくれる?」


 ルナの突然の発言に周囲の空気が止まった。


「えっ!?」

「私がリコリコやヤミン姉と同じくらい好きなんだったら、恩義がある私を選んでくれてもいいと思うの。」ルナは周囲の張り詰めた空気など気にする様子もなく、いつものおっとりとして少し甘えん坊な口調で言った。


 俺は唖然として何の言葉も出てこない。

 張り詰めた空気の中、ルナは優しくて、それでいて、心を射抜くような力強い視線で俺を見つめた。


「ケーゴ。答えて?」


 ああ、答えないとダメなのか?

 また昨日みたいなのは嫌なのに。


『えーと、盛り上がってるとこ悪いんだけど。』


 緊迫感を切り裂いて、突然テーブルの真ん中のトーテムポールが呑気な声で喋り始めた。


『ちょっと神託しても良いかな?』


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