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ヤミン

 俺は一人で宿へと戻ってきた。

 リコは少し公園で風に当たってから帰ってくるそうだ。


 なんの気配もなかったところに突然告白されたものだから状況が頭に入ってこない。まさに寝耳に水とはこのことだ。

 どうしたらいいのか頭がフル回転してるが、まったく考えが進まない。

 いや、リコが嫌いとかではないよ?

 ただ、突然の話しすぎて状況がまったく受け止められなかった。


 宿屋に戻ると一階の食堂でヤミンがテーブルに肘をついておっさん臭くビールを飲んでいた。


「ただいま。」

「おかえり。」

 俺はヤミンの目の前に座った。

「リコは?」

 ヤミンは困惑気味にリコを探して視線を泳がせた。

「ちょっと散歩してから戻るって。」

「・・・そっか。なんか飲む?」

「うん、ちょっと飲みたい。」


 俺は食堂のカウンターに大声で注文飛ばす。今はお酒がいい。

 

「なんか、リコに告白されたんですけど。」

 酒が来るのを待っている間に、ヤミン姉さんにご相談願う。

「あんたは、それを私に言うかね・・・」ヤミンは飲んでた酒を咳き込んだ。

「いや、ちょっと誰かに相談したくって。」

「・・・・ケーゴはなんて答えたの?」

「答え待ってくれるようにお願いしました。」

「はぁ!? なんで即答しなかったの? 意味分からないんだけど?」ヤミンが驚いて立ち上がった。「もしかして、ルナ?」

「?? なんでルナが出てくんの?」


 なんか時々、突然ルナの話題になることあるよな?

 こないだもあったはず。なんの時だっけ。


「じゃあ、なんでOKしなかったの?」

 ヤミンは俺の顔をしげしげと眺めると、再び椅子に腰を降ろした。

「え? だってあまりにも唐突すぎて。」

「唐突・・・」ヤミンは何故か頭を抱えた。

「どうしたら、いいっすかね。ヤミン姉さん。」

「私に聞くなよ・・・。」

 ヤミンは俺の情けない質問に心から絶句した様子だったが、それでも諦めたように問いかけた。

「ケーゴ、リコのこと好きなんでしょ?」

「あ、はい。」

「それは即答なのか・・・。」

「でも、俺に覚悟が無いっていうか。そういうふうには見てこなかったんで。そうなった時にどうなってしまうかまったく想像がつかなくて。」

「大丈夫だよ。あんたたちなら、きっと。」

「でも、多分、リコは、俺が冒険者になる前から、俺のこと好きだったみたいで。」

「なら、なおさら大丈夫でしょ。なんで迷うの?」

「リコはきっと失うことも、傷つくことも、傷つけることも、全部、リコは覚悟してた。それなのに、俺はずっと待たせて。また今も待たせて。」

 ヤミンに話したおかげか、少しづつ頭の中が整理できてきた。

「だから、俺が迷ってるとかそういうんじゃなくて。俺が、まだ・・・リコの沸点に合わせる覚悟が俺にはない。」

「重すぎるぞ、お前。」

「でも、リコの事だから。そういう浮ついたので失いたくないんだ。」


 はっと、俺はヤミンを見た。

 ヤミンの目はどんどんと潤んできていた。

 耳が完全に寝てしまっている。


 ヤミンが怒っているのも笑っているのもたくさん見た。

 でも、こんな悲しそうで、泣きそうなヤミンの表情は初めてだった。


「なんでそれをあたしに言うんだよ。それを言うんならリコにだろ! 私だってさ、私だって・・・・つけ入るスキなんて無いじゃないか。」


 え?


「私だって・・・

「ヤミン、それ以上言わないで!」

「黙れ! 聞け!」

 ヤミンは俺を怒鳴りつけ、テーブルに手をついて立ち上がった。

「私だって! お前のこと好きだったんだぞ!」

 ヤミンの目からつつと涙が流れた。


 ああ。

 俺は・・・ホントに覚悟しなくちゃダメだ。


 中途半端で。

 いつまでも。


 俺はリコよりも、ヤミンよりもホントは長生きのはずなのに。

 ヤミンまでこんなに傷つけて。

 こみ上げてくる。

 もう、嗚咽が止まらない。


 俺がヤミンより泣いちゃだめだろ。

 情けないかよ。


「なんで、お前が私より泣くんだよ・・・。」ヤミンが呆れた口調で言った。

「ごめん。ごめんなさい・・・。」

「くそっぅ・・・・。きついなぁ。」

 ヤミンはそう言うと、そっと近づいてきて、泣きじゃくる俺を弟をあやすかのようにそっと抱き寄せた。

「ホント、しょうがないな、ケーゴは・・・。」


 そう言って、ヤミンも大声で泣いた。


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