告白
ルスリーから激重の事実を伝えられ、いまいち頭の中も気持ちも整理されないままに、ぼんやりと城を出ていく。城の外の広間に出ていくとリコとヤミンが待っていた。
よかった。避けられてんじゃなかった。
「よ、おかえり。名実共に犯罪者だな。」ヤミンがキシシと笑った。「でも、本当に無事で良かったよ。ほんとに死んだかと思ったもん。」
たぶん俺、体ぺったんこだったろうしな。
「うん、あんがと。心配かけたね。」
リコもヤミンの後ろからおずおずと出てきて俺を見た。
「おかえり。」
すごく元気がない。
目が真っ赤だ。
「うん。リコ、大丈夫? 目、メチャクチャ赤いよ!?」
リコは目が真っ赤なのを見られて恥ずかしかったのか慌てて後ろを向く。
この後しばらく目合わせてくれないやつかもしれん。
「どうしたの? 結膜炎?」
「違がわい。」ヤミンのチョップが飛んできた。
「リコ、ずっと泣いてたんだよ。あんたのせいだぞ?」ヤミンが言った。
そうだったか。
無事だってのは伝わってたんじゃないのか?
「心配かけてごめんね。」
リコはうつむいたまま、黙って首を振った。
「ヤミンにも心配かけてごめんね。」ヤミンにも謝る。
「なに?どういう風の吹き回し。」
「いや、なんかヤミンも元気なくみえたから。」
「ほほう。ケーゴが私の気持ちを汲んでくれるとはな。」
あんた、尻尾で丸わかりだけどな。
「私は大丈夫だよ。」少しだけ尻尾が揺れたが、またしんなりと垂れ下がった。「ケーゴはリコの事を気にかけてあげて。」
俺たちは路面電車に乗って宿へと向かう。
人の少ない車内で並んで腰をかけたが、3人共言葉はない。
なんだか微妙に気まずい。
リコはずっと俺から顔をそむけてるし、ムードメーカーのはずのヤミンもずっと言葉数が少ない。
なんか喧嘩した訳じゃなさそうだけど、微妙な緊張感が流れてる。
これからなんか起こるん?
「ねえ、なんか、今日ちょっと二人とも雰囲気違くない?」俺は沈黙に耐えきれず二人に尋ねた。
「ケーゴが死にそうになって、二人とも思う所がいっぱいあったんだよ。私も、リコも。」ヤミンが答えた。
何度か死にそうにはなってたけど、今回は体潰れてたしなあ。
自分では分かんないけど結構グロかったんだろうか。
「それに、もしかしたらこうしてられるのも、後少しかもしれないしさ。」ヤミンは静かに付け加えた。
そっか。
世界が終わるんだもんな。
ルスリーの言葉がようやく心にまで染み始めたのが分かる。
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
また、沈黙。
なんか言わんと。
世界が滅ぶのだとしても、こんな重苦しい雰囲気はイヤなの。
リコとか全然喋ってくれないし。
「そう言えば、この間、ランブルスタでマッゾと合う前に、リコ、何か言おうとしたじゃん。あれ、何言おうとしてたの?」
即座に高まる緊張感!
なんで?
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・えーと?」
二人の視線が冷たいというか怖いというか。
俺、今、何をやらかしたんだ?
「その、ケーゴ・・・」
リコはじっとうつむいて俺のことを見ないまま、真面目な顔で言葉を紡いだ。
「うん、なに?」
「この後、少し時間いい?」
「う、うん。」
これ、めっちゃ重たいやつだ。
深刻な話のやつに違いない。
やっぱ男か?
彼氏のパーティーに行くからパーティー解散とか?
だから、ヤミンも元気ないのか!
うわ、全て繋がったし!
べ、べつに動揺とかしないし。
ニッコリ笑って送り出せるし?
り、リコの好きな人くらい受け入れてみせるし。
リコの好きな人ぉ〜?
カシムじゃねえよな?
え、どうしよう。
リコに彼氏か・・・。
あれ、なんだろ?
また動悸が。
やっぱ俺、まだ治ってないんじゃね?
ちょっとストレス受けただけでえらく胸が苦しいんですけど。
「ケーゴ?」
「あ、はい。」
気づけば、俺はリコと二人。
王都にある少し開けた公園に来ていた。
前世の公園のように芝が刈り込まれた綺麗な公園だ。
遠くのほうで子どもたちが世界の終わりなんて来ないかのように無邪気にじゃれ合って遊んでいる。
いつの間にここに来た?
一度、宿に帰ってからリコと二人で出てきたんだっけか?
路面電車の中から意識があんまない。
たぶん路面電車でリコに話があると言われてから、リコともヤミンとも一言も会話してない。
いかん。
俺、今ちょっとパニクってるかもしれん。
こんな調子でリコに彼氏の話とかされて、俺は平常心で受け入れられるのか?
てか、カシムだったらどうしよう。
いや、リコだって話すのは勇気いるだろう、俺が会話のイニシアチブを取って、リコが話しやすい環境を作ってあげないと。
「え〜と、あの〜・・・。」
何故緊張する! 俺!
「綺麗なところだね。」
「あ、はい。」
リコにリードされてしまった。
「少し、若葉ヶ丘に似てるね?」
リコは遠くの子どもたちを見ながら言った。
リコは二人で剣の稽古をしていたランブルスタの丘を思い出しているんだろう。
「そうかな?」
「うん。昔の若葉ヶ丘もこんな感じの短い草だったじゃない。」
そっか。芝なんてこの世界にはあんまないもんな。
「そう言われたら、そうかもね。」
「ねえ、ケーゴ。私・・・。」
「お、おう!」
大丈夫。
カシムでも気絶だけはしない!
「私、ケーゴが好きです。」
「・・・え?」
「ケーゴのことが好きです。」
「あ、うん。俺もリコが好きだよ。」
「そうじゃなくて!」リコは慌てて、俺の顔を掴んだ。「私はケーゴのこと、愛してるの! 異性として好きなの!」
「!? え?」
え?
「いつから?」
「・・・ずっと。」
「・・・そっか。」
「うん。」
そっか・・・。
「・・・・少し考えさせて欲しい。」




