黒い羊 その後
うぇ〜い。
暇だ。
ユージの魔法で崩れてきた岩の下敷きになって死にかけていた俺だったが、今も生きて王都の療養所に入院していた。
もう完全に元気だ。
ルスリーがマジックアイテムで治してくれたって聞いた。
でも、念の為なのかなんなのか、ちっちゃな病室に一週間近く誰とも会うこと無く閉じ込められている。
最初、目が覚めた直後にルナだけが見舞いに来てくれた。
ルナはアルトロワ王子に【転移】をかけられた事を目茶苦茶気にしていて、めっちゃ泣かれて、めっちゃ謝られた。
ルナはまったく悪くないのに。
あの後、どうなったかはルナが説明してくれた。
リコもヤミンも、エリーも二特も、みんな無事だった。
俺が一番危なかったらしい。
てか、俺自身ももうダメだと思ったし。
俺が位置を知らせるためにダメ元で飛ばした訓練用のゴーレムをリコが見つけてくれたらしい。
たまたま手の届くところに訓練用のゴーレムが近くに転がっててくれてホント助かった。
手探りで掴んだゴーレム起動して空からクソ痛いレーザーで俺を攻撃させてたんだけど、どうやらリコがその光に気づいてくれたらしい。
みんなが俺のことを見つけた時、すでに俺の意識は完全に無くて、まさに虫の息だったそうだ。
エリーが例の共感覚みたいな魔法で急いでルスリーに報告し、それを聞いたルスリーが駆けつけて俺を助けてくれた。
王家が秘蔵してたマジックアイテムまで使ってくれたそうな。
おかげで今の俺がある。
黒い羊たちの洗脳はとけたそうだ。
ランブルスタのみんなも正気に戻ったらしい。
戦争も終結したようだ。エヴァーレインの方から降伏してきたとのことだ。
やっぱ、黒い羊が洗脳してたみたいだ。たぶん彼らはハウルオブハートの効果を受けていたのだろう。
マッゾやうちの母がどうなったのかはまだ情報が入ってきてない。
だって、最初にルナが来た後、誰も来てくれないんだもん。
目が覚めて一週間よ? 一週間。
一週間この部屋にいんのよ?
飯とかも入り口の下の小さな戸口からすっと出てくるし。
王城のくせにメシマズいし。
病人食にしたってもっと美味いの作れと。
そもそも俺、もう元気だし。
死にそうになって意識を失ってたのは確かなんだけど、ルスリーの使ったマジックアイテムのおかげか快眠後の朝くらい元気なんですけど。
なんで?
厳戒態勢敷かれてるの?
俺にやばい病気でも見つかったの?
なんかの罰ゲームなの?
ぶっちゃけ、こんなんもうただの監禁やぞ。
しょうがないので、腕立てとか腹筋とかして【筋力】をあげてる。【強打】もちょっと上がるみたいだし。
ただ、やっぱり【力の素質】が低いから上がりにくい。
反復横跳びにしたほうが良いかな?
でも部屋狭いんだよな。狭いビジホでももっと広い。
遊び道具も何もないし。
ホント暇なんよ。
誰か見舞いに来てくれないかなぁ。
訓練できる何かを差し入れして欲しい。
リコとヤミンはなんで来てくれないんだろ。
王城の中だから入れてもらえないのかな?
リコ、最近なんか様子が変だったし、意図的に来てくれないとかだったらどうしよう。
大怪我して心配かけちゃったし、怒らせちゃったかなぁ。
そういや、リコ、若葉が丘で何か重大なこと言おうとしてたな。
考えてみたら、あれからよそよそしいような?
!!
もしかして、男か!?
あの日の前日までカリストレムにヤミンと二人で行ってたし。
カリストレムの誰かと付き合い始めたのか!?
リコ、可愛いし、俺が冒険者として活躍できるようになって心配事もなくなっただろうし、そろそろ彼氏くらい作ったっておかしくない。
くっ。
すげぇありそう。
リコの幸せのために、どんな彼氏だったとしても受け入れる覚悟をせねばならない。
・・・カシムとかだったらどうしよう。
え、あれ?
何かすげぇ動悸がしてきた。
胸が苦しい。
やっぱ俺、元気じゃなかったのか!?
やばい病気なのか?
それで監禁されてんのか?
「おう。遅くなって悪かったの。」
ノックもなしに扉が開いて鷹揚にルスリーが入ってきた。
「わ〜い!」思わず両手を挙げて喜ぶ。だって暇だったんだもん。誰かと話したかったんだもん。「本当に暇でした。来てくれて素直に嬉しいです。」
「すまんかったな。互いにようやく放免じゃ。」
「放免?」
「ようやくお前も1周間の禁固刑から解放じゃ。」
「えっ!? これ、ホントに監禁だったんですか!?
「えっ? 知らんかったのか?」
ルナは何も言ってなかった・・・あれ? そう言えば国を救ってくれたのにごめんみたいな事言われて、めっちゃ謝られてたような?
ルナに泣かれた事で頭いっぱいになっちゃって忘れてた。
「というか、お主、この一週間いったいなんじゃと思っとったんじゃ?」
「え? 大怪我したので大事をとって療養させられてるのかと。」
「・・・・。ルナが絶望的に鈍い男だと言っとったが、これほどとは。」
「そもそも、俺、なんの罪なんです?」
心当たりない。
「いや、お前を救うためにな、わしが王国の秘宝を使ってしまったのは知っとるよな。」
「はあ。」
ルスリーの說明を聞いたところ、ルスリーは俺の危篤を聞きつけた直後、すぐさま城の宝物庫に侵入し、転移の杖と大回復のアミュレットを盗み出して俺を助けてくれたらしい。
「うんで、わしとお前は王家の財宝を盗み出して勝手に使った罪で1週間の禁固刑。」
「え!? 俺も!?」
「その、なんじゃ、一週間の禁固くらいですんだんじゃから堪忍してくれ。」
「まあ、助けてもらった手前何も言えないですけど。」
ぶっちゃけ納得はいっとらん。
「うむ。物わかりが良くて助かる。お詫びに快気祝いをしてやろう。」ルスリーは唐突に余計なことを提案し始めた。
「あんま、気を使わなくていいですよ?」
「遠慮するな。ミロクんとこのケーキじゃぞ。」
自分が食べたいだけじゃねえか。
「それに、日本人連合で話したいこともあるしの。」
「話したいこと?」
「うむ。どうもそろそろ世界が滅ぶらしいのでの。」
「は?」
「世界崩壊時計がもう80を切ったらしい。どんどん減っとるな。」
「マジっすか?」
ちょっとドキドキはするけど、いまいちピンとこない。
なにせ「この数字が0になると世界が終わります」って何の裏付けもなく言われてるだけだから、まったく実感が沸かない。
「ピンとこないっす。」
「ほんとに滅ぶぞ。神からそう聞いとる。」
「マジすか?」
神に言われたとなると本当に滅ぶってことだ。
「おかげで、王都は厳戒態勢じゃ。ルナもエリーも借り出されとる。割と近々滅びそうじゃな。」
「いや、近々って。」
「10年後かもしれんし、3日後かもしれん。そんなわけで、世界が滅ぶ前にミロクのところのケーキを食べに行こう。明日空けとけ。謹慎明けで仕事が舞い込んでこないうちがチャンスなのじゃ。」
「ケーキどころの話じゃないでしょうに。どうにかできないんですか?」
「どうにもならん。それを含めて転生者たちと話をしておきたいのじゃ。」ルスリーは平然と言った。「実のところ、我々にできることなど何もない。世界が終わるって決まってるだけじゃ。」
「本当に世界が終わるんですか? 実は俺、今回の黒羊の件、神に言われて世界救うためにやったんですけど。それで万事解決してたりしないですかね?」
「しとらん。黒羊がのうなっても時計の進みは加速しとる。」ルスリーはきっぱりと答えた。
もしかして俺が何か失敗したんだろうか。
「世界の危機にもいろいろあるということじゃ。ともかく、今回の件はわしらにはなんもできん。」
衝撃的すぎて頭には情報として入っても、まだ心に落ちてこない。
「そんなわけじゃから、せめてこの世界の残り時間を楽しもうぞ。」




