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終末の王都

 終末の王都には重苦しい空気が流れていた。


 暴動が続いたため、通りのそこかしこに騎士たちが見回りをして歩いていた。

 まだ、あちらこちらに先日の暴動の爪痕が残っている。


 戦争が終わり、平和が戻ったといえ人々の心は明るくはならなかった。

 すぐ先に、1年先か、それとも明日なのか、人々の人生よりもはるかに短い未来に、世界の終わりが訪れようとしているのだ。


 彼らはただひたすらにじわりとした恐怖に慄いていた。

 人々は、神に祈り、英雄アルソンフに祈り、ただひたすらに誰かの救いを請うことしかできなかった。


 世界崩壊時計はその数を減らし、数値を減らす速度もどんどんと速くなっていた。

 すでに残りは90。

 今朝も数が減ったばかりだ。

 おそらく、今日中にまた1つ減るだろうと人々は予想していた。

 王都の外にも世界崩壊時計の話は広まり、王国全体で治安の悪化が進んでいた。


 国王は王都の城壁を閉め、時計の情報が外部に伝え出ないように対処した。

 そのため、外部でも内部でも情勢に対する疑心暗鬼が進み、王都だけでなく、それ以外の村や街でも一層の不安に包まれていた。

 しかし、そうなることをもってしても世界崩壊までの時間が数値として伝わるよりもましだと王国は判断しだのだ。


 往来を封鎖された王都は極度の緊張状態に陥っていた。


 そんな中王都のいつもの会議室に騎士隊の代表たちが集まっていた。

 今日も二つの椅子が空いている。


 黒い羊の案件は終わった。戦争もエヴァーレインの降伏に近い形で終了した。

 しかし、この場に集った王と代表たちの表情は暗い。


 今回の会議の議題は世界崩壊時計のカウントダウンを食い止める方法についてだった。


「世界崩壊時計が止まらない。しかもカウントがどんどん加速している。」レンブラントが言った。「100年以上変わらなかったのにだぞ? どうにか食い止める方法は無いのか。」

「なにが起こるのか判らないから対処のしようが無いのだ。」ウェルフェインが頭を抱えた。

「減っていくまでの時間から換算して、1ヶ月程度の猶予しか無いと聞いたが本当か?。」キルロックが尋ねた。

「そんなに早いのか!」レンブラントが初めて訊く情報に驚いて叫んだ。

「減り方に必ずしも法則がないから確定では無い。プラスマイナス1年位ズレるかもしれん。」ウェルフェインは自信なく言った。

「1年マイナスしたら、もう滅んどるぞ。」キルロックが憮然として言った。

「次の瞬間時計の数値が0になっとるかもしれんのだ。」ウェルフェインはやりようがないとでも言うように頭を振った。


 世界崩壊時計はひとつづつ数値を減らしていくとは限らなかった。

 事実、オーンコールの夜空が輝いたその時、時計は数値を2つ一遍に進めた。


「あれが0になると、いったい何が起こるというのだ?」レンブラントが苛立たしげに言った。

 世界崩壊時計について、カウントが0になれば世界が終わることは伝えられていたが、何が起こるのかはまでは誰も知らなかった。

「なにも起こらないかもしれんぞ。」キルロックは軽口を叩いた。それはこの場の全員の願望でもあった。

「かもしれぬ。だが、ずっとそのように教えられてきた時計だ。」ウェルフェインは暗い顔で答えた。「実は何もおこらないのだとしても、人民が何かあると信じていることが一番の問題なのだ。」

「まあ、たしかにそうだな。」キルロックがため息をつくかのような口調で同意した。

「いろいろ試して、時計の進みが遅くなる方法を見つけるしかない。」レンブラントが提案する。

「しかし、いったい何を試せばいいのだ?」キルロックが尋ねた。

「・・・・。」


 誰も口を開かない。

 思い沈黙が流れた。


「ルスリーを蟄居させたのは失敗じゃったかの・・・。」王がため息をついた。


 ルスリー王女は王国の所有する財宝を勝手に持ち出したため、仕置として一週間の蟄居が命じられていた。

 同じくアルトロワ王子も洗脳されていたとはいえ、現場を放棄して黒い羊に加担していたことが重く見られ3ヶ月の謹慎が命じられている。


「ルスリーは聡いゆえ何か見つけ出してくれるやもしれん。」王はすがるように呟いた。

「陛下。ルスリー殿下よりお言付けを預かっております。」今まで黙って誰も座っていないルスリーの椅子の後ろに立っていたエデルガルナが王のため息を聞いて声高に発言した。

「言付けとな! なんと言っておった?」王が期待に満ちた目でエデルガルナを見つめた。

 会議場の視線が希望を求めてエデルガルナに集まる。


 だが、エデルガルナがルスリーから預かってきた伝言は非情な宣言だった。


「『世界は終わるが、我々この世界の人間が抗うべき対処方法は存在しない。』とのことです。」


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