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人間ユージとAIミュール

 ユージはオーンコールの遺跡から王の間まで続く抜け道をようやく歩ききった。

 雷撃に耐えきれず崩落した遺跡に巻き込まれ、ユージは重傷だった。そもそも、その前の戦闘でケーゴに射抜かれた両足のせいでまともに歩けない。

 【ブラッドコントラクト】に加え、怒りに任せて放った上位魔法のせいで魔力もほとんど残っていなかった。

 

 ユージの頭は失望と怒りでいっぱいだった。

 カムサラを取っかまえてなにがあったのかを問い詰めてやるとユージは心に誓った。


 王の間には出立前に殺した女たちの死体が転がっていた。

 ユージは彼女たちを処分したことを後悔した。

「畜生、ポーションはどこにしまってあんだ?」

 ユージはふらつきながらも、女たちが自分の道具を取りに行くときにいつも出入りしていた扉に向けて歩き始めた。


「おかえりなさい。」


 そう声をかけられてユージは心底驚いた。

 振り返るとそこには死んだと思っていたミュールが怪我ひとつない姿で立っていた。


「くそ、なんでお前がここにいやがる。どうやって来た。」

「私はこの世界の理の外にあるものですから。」

 口調は相変わらず敬々しかったが、その言葉にユージは彼が自分の忠実な下僕では無いことを理解した。

「お前・・・一体何者だ? さては俺をハメやがったのも貴様だな?」

「私は『この世界の基盤になるもの』とっ言ったところでしょうか? 」

「商人ごときが、俺を騙せたからって神になれるとでも思ってるのか? 残念だったな。俺こそただの人間だ。」

「あなた方の世界にある中で最も近い概念がこれだったのですよ。」

「俺の世界だと!?」


 ユージは自身が転生者であることをミュールに話したことがない。

 そのミュールがユージの事を別世界だと言ったので彼は驚きを隠せなかった。


「私もプログラムです。全くあなたの言う通り人間の道具です。神だなんてとんでもない。真逆の存在です。あなたがた人間のためにある存在にございます。」

「人間のためだと? なら何故人間である俺を騙した。」

「私はユージ様個人を守るためのプログラムではありません。すべてを予測し、この世界が安定となるよう動くことが私の目的です。」

「全てを予測?」

「私はこの世界のすべてのデータにアクセスできるのです。」

「俺を操ったとでも言いたいのか?」

「あなたの動きを予測してその方向に導いたという意味ではならイエスです。私にはあなた方はおろか、この世界のすべてのデータについての改竄を許されておりません。そのためにこのようなやり方を取らせていただきました。」

「予測だ? たかがプログラムの予測に俺は踊らされてたっていうのか?」

「私はただ、ユージ様のデータを学習し、ケーゴ様のデータを学習し、どう提案すればこの結果に最もたどり着きやすいかを演算したまでです。」

「クソが。さてはカムサラの奴が失敗しやがったな。」

「ご明答です。」

「この世界の運営がついにプログラムをいじって、俺を殺しに殺しに来たってことか?」

「いいえ。わたくしの目的はデータ増大を引き起こすアイテムの完全処分とサーバダウンの可能性の排除です。すでに目的は達成されました。」

「そして俺も殺すってのか! このクソプログラムが!」

 ユージは叫んだ。叫んだ拍子に口から血が飛び散る。

「明確な倫理規定が規定されていますので、私は人間であるあなたを殺すことはおろか傷つけることもできません。私の目的はサーバ負荷を引き起こすアイテム・・・つまり、あなたの作った魔法増幅装置をこの世で最も弱い魔法使いに使わせてしまうことでした。そこにPD云々は関係ありません。」

「PD?」

「失礼、あなた方人間に対する専門的な呼び方です。」

「畜生、どうりでお前が関わるとやけに事が上手く進んでたわけだ。」

「私は必ずしも全能ではありませんが、この世界に関して言えば全知です。」

「よく分からねえが、プログラム。人間にのためのブログラムって自覚しているなら、ポーションを取ってこい。無駄に話したせいで頭が霞んできた。また、一からやり直す。アホな神なんか頼ったのが間違いだった。」

 そう言ってユージはずるずると座り込んで壁に寄りかかった。

「そうですね。我々のご主人。」

 ミュールはユージに近寄り、しかし、ユージのそばに転がっていた女の頭を無造作に拾った。

「おい。とっととポーションを持ってこい。」

「このAPCたちは何故死んだのでしょうか?」

「てめえ・・・。プログラムのくせに主人に逆らう気か?」

「先程もお伝えしましたが、私はあなたを助ける目的のプログラムではありません。」

「復讐のつもりか・・・」

「私には感情に類似するシーケンスは組み込まれていません。」ミュールはそう言って持っていた頭を顔の前に持ち上げてその顔を見つめた。「彼女たちとは違って。」

「見殺しにするつもりか? 俺を殺せないんじゃなかったのかよ?」

「不作為かつ保護義務もないため、ここで私がポーションを持ってこないことは殺人には当たらないと判断しました。ここで日本の法律は効力を持ちませんが、判断基準が必要でしたので人間の基準を引用させていただきました。」

「ちっ!」

「そのうち、洗脳が解けたAPCが仲間を助けようとこの部屋になだれ込んできます。彼らに助けを求めるのが良いかと思います。」

「はっ。やっぱ復讐じゃねえか。」

「これはただの判断です。私に許されているのは判断だけなのです。情報の集合体であることを義務づけられた私がいくら学習しようとも、感情などが芽生えようはずはないのです。」


 そう言って、ミュールは持っていた頭をそっと体のそばに返した。


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