決着
二特はアアルの主力たちの陣地から、少し離れたところでエヴァーレインの陣を見張っていた。
現在は夜。
日中、気の狂ったように襲いかかってきたエヴァーレイン軍は日暮れ前にはきちんと戦闘を中断した。
今は両軍、カングリア平原を挟んで向かい合って夜を過ごしている。
この戦争において二特は大活躍を果たした。
ルスリーがルナの愛鳥ぴーを利用して戦場の状況を上空から観察し、味方がピンチに陥った箇所に適宜二特を突っ込ませた。
もちろん21人しかいない二特に戦況を覆す力はないが、それでも二特による側面からの奇襲で敵は混乱をきたし、そのままでは殲滅もあり得たアアルの部隊は立て直す時間を得ることができた。
もともとはアアル軍の騎士ほうが個々ではエヴァーレインよりも強いはずだった。
だがエヴァーレインの兵はアアル軍以上に強かった。
それは普通の強さではない。妄信的で狂信的な、命を省みない狂者の強さだった。
自分達の方が強いという思い込みが各地でアアル軍を窮地に陥れた。
各所で危機が発生した。
その度にみなを助けたのが二特だった。
二特に任された夜間の見張りも、雑用を押し付けられたわけではない。
全員の安全な休息時間の確保のために、信用をされて任された重要な仕事だ。
この時間の見張りのマーガレットとステルシアはかすかな兆候をも逃すまいと一心不乱に敵の陣を高台から見つめていた。
一瞬、マーガレットの視界に遠くの方の夜空に向かって細い光が伸びた気がした。
細い光は輝きを増し、オーンコールの山のシルエットを映し出した。
そして、直後、夜空が真昼のように光に包まれた。
***
クリムマギカの時のようなまばゆい光が薄れ、視界が戻ってくると 呆然とするユージが見えた。
「おい、どういうことだ! なにがあった!? なぜ世界は終わらない?」
魔導砲が消し飛ばした向こう側を見ながらユージが叫んでいる。
今まで俺たちの事を囲んでいた部屋は今回の砲撃で魔導砲から向こう側が吹き飛んで無くなっていた。その先にはなにも残っておらず、一面の夜空が広がっていた。
反対側にはもともと大穴が穿たれていたため、かろうじて残った天井と壁が今にも崩れそうな巨大なアーチとなっている。
俺たちはオーンコール山の内部に居たはずだが、俺たちの周りに残っているのは今や申し訳程度に余ったこのアーチだけだった。
34億倍すげえな。
俺の虫みたいな【エネルギーボルト】が山を吹き飛ばしやがった。
振り返るとランブルスタの方角は無事だ。
リコたちが頑張っているはずの城も残っている。
良かった。
みんなの洗脳はとけただろうか?
俺の体は完全に自由になっている。
俺の洗脳が解けてるってことは、信者たちの洗脳も消えてるはずだ。
ランブルスタのみんなはちゃんと元に戻っただろうか?
って、砲身弾け飛んでんじゃねえか。
なにが壊れないだよ、メルローめ。
俺じゃない奴が撃ってたらあたり一帯爆散してたんじゃね?
「カムサラぁ!! どういうことだ! なんで世界は終わらねえ! 世界を破壊するダメージのハズじゃなかったのか!」
ユージが空に向かって大声で叫んでいる。
アサルが言ってた世界を変えるって話もなんか阻止できたっぽい。
あとは、目の前で大声で叫んでいるこいつをどうにかするだけだ。
「お前かっ!? お前がなにかしたのか!」
ユージがくるりと振り返って俺を睨んだ。
俺は予備の鞭を腰の荷物袋から取り出した。
「お前、いったい何をした!」ユージは俺の顔を見て喚き散らした。
「もう諦めろ。この世界の人達の幸せを壊して俺たちの好きなように作り変えるなんて間違ってる。」
何もした覚えないけど、とりあえずそれっぽい顔をして偉そうに言っとく。
「AIに幸せもなにもあるわけ無いだろうが!! 貴様はAIに洗脳された人間の敵だ!! 死に晒せ!」
怒髪天を突くとはこのことか。
ユージは怒鳴り声を上げて集中に入った。
しまった。
魔法が来る。
もう護符はない。
発動されたら生きてられるか分からん。
「【尖突】! 【スナイプ】!」
一気に間合いを詰めて、ユージを攻撃。
【回避】をする気のないユージに鞭が命中、鎖骨のあたりを貫く。
エルダーチョイスの鞭ではないがきちんと【クリティカル】した手応えが手に伝わってくる。
間に合った!
が、ユージは俺の攻撃を受けても集中を切らさなかった。
「【ライトニングストーム】!!」
ユージを中心に何本もの太い雷撃が地面から伸びるように発生し、周囲全体に向かって分岐しながら広がってきたのが見えた。
辺りがまばゆいばかりに輝き、見渡す限りの範囲を雷撃が覆い尽くした。
そして、俺は意識を失った。




