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魔導砲発射

「ふう。あぶねえ。」

 ユージは不敵に笑うとよろめきながら立ち上がった。


 俺はまったく体を動かせない。


「鞭をよこせ。」

 体がかってに反応して動き出す。

 そして、俺はユージにエルダーチョイスから貰った鞭を手渡した。


「ぶはははは! 意識はあるんだろ? そのまま黙って見てろ。」

 ユージは俺から鞭を受け取ると興味深そうに眺めた。

「もったいねえな、俺をここまで追い詰めたんだ。相当な武器だろこれ。」


 おっしゃる通り。


 ユージは俺から奪い取った鞭を持って魔導砲に近づいていく。

 そして魔導砲の麓にある円形のリングに備え付けられていた蓋を開けて、俺の鞭を放り込んだ。


 俺は黙ってユージの行動を見ていることしかできない。


 どうなってるんだこれ?

 【ブラッドコントラクト】なんて同意無しでかかるもんじゃないだろ。

 しかも、相手に言うことをきかせるなんて便利な使い方までできる訳じゃない。


「ようやく準備が調ったぜ!」

 ユージは嬉しそうにそう言うと魔導装置の蓋を閉めた。

 

 やばい。

 このままだと魔導砲がぶっ放されてしまう。

 どこに撃つ気だ?

 戦場か?


「ようやく世界が変わる。」ユージは満足そうに言った。

「おめでとうございます。」ミュールが恭しくユージに頭を下げた。


「僭越ながら命をかけてお願い、いえ、ご提案申し上げてもよろしいでしょうか?」


 突如、ミュールがユージの前に出てきて跪き、深々と頭を下げた。

「いいぜ。今俺はとても気分がいい。それにお前はいい道具だ。お気に入りの道具と言ってもいい。道具と話ができるこの世界が良かったと思えるくらいだ。」

「ありがとうございます、大使徒様。」ミュールはもう一度深く頭を下げてから続けた。「このケーゴという使徒は新世界において再び大使徒の邪魔をするやもしれません。」

「おまえ、気をつけて喋れよ?」ユージの声が低くなった。

「もし、大使徒がこの者と共に新たな世界に進むことをお望みでしたら、世界の変革の引き金はこの者の手で引かせるのがよろしいのではないかと存じます。」

 ミュールの提案にユージは目を丸くした。

「それはいい! お前は最高だ! カムサラ! もし聞こえてたら新しい世界でもこいつは俺のそばに寄こせ!」ユージが崩れた天井の向こうに見える夜空に向けて叫んだ。

「この上ない幸せにございます。大使徒様!」

「こいつは攻撃魔法使えんのか?」

「ケーゴ様は【エネルギーボルト】を使えます。」ミュールは平然と答えた。


 なんで知ってる?


「いいね。よし、ケーゴ。お前が魔導砲の引き金を引くんだ。」ユージが俺を見て笑った。「お前のせいでこの世界は終わるんだ。お前が大好きな世界はお前の手で終わる。その反省を胸に次の世界ではきちんと物事を理解してでしゃばらずに生きろ。」


 そして、ユージは俺に命令した。


「さあ、ケーゴ、世界を滅ぼせ。」


 俺は勝手に歩き出す。


 クソ、

 なんだよこれ!


「そうだ! 魔導法さえ撃ってくれれば好きにしていいぜ?」


 ユージがそう言った途端に体の自由が半分くらい戻ってきたのが分かる。

 だが、足は依然、魔導砲に進む。


「俺に何をした!」

 喋れた!


「そうだよな! 【ブラッドコントラクト】にこんな効果があるなんて思わねえよな。」

「これは【ブラッドコントラクト】なのか?」


 【ブラッドコントラクト】

 相手が術契約した内容に反することをしようとした場合、それを止めて契約に従わせるよう命令できる魔法だ。

 ただし、対象が呪文にかかることに同意しないと効果は発揮しない。

 効果時間は1ヶ月程度。


「ソウルプリズムは知ってるんだよな。」


 ソウルプリズム

 ギルドアイテムで世界にひとつしか無い。カリストレム近郊のどこかに存在する。

 その周りでは特定の魔法の効果が向上する。


「ソウルプリズムで増幅しただけでこんな効果が出るってのか!? アルファンでもそうだったとしたらゲームバランスおかしいだろ!」

 アルファンとは効果が違うのか!?


「アルファンでも可能だったんだぜ?」ユージはニヤリと笑った。「ソウルプリズムの効果はソウルプリズムに近いほど高くなるんだ。」

「ソウルプリズムのそばだと【ブラッドコントラクト】の効果がこんなになるってのか?」

「そうだ。【ブラッドコントラクト】は契約しないと効かない? 違うね、【抵抗】値は設定されている。それが極端に低いだけだ。そして効果も。契約に反する? どこまでが契約だ? お前が同意した契約じゃなくても、ソウルプリズムの近くでは従わせることが可能なんだよ。内容もなんでもありだ。」

「この近くにソウルプリズムがあるのか!」


 そいつさえ壊せば・・

 辺りにそれっぽいものが無いか探す。


「探しても無駄だ。」

 ユージは余裕の表情で言った。


 俺はすでに魔導砲の麓に到着し、魔導砲についていたはしごを使って上に登り始めていた。


「ソウルプリズムはこのオーンコールの山そのものだ。お前は今、ソウルプリズムの中にいる。」

「なっ!」

 まじかよ。

「ここでは俺が命令する限り、お前は俺の言うことに従わにゃならない。APCだったら意識も刈り取れる。まあ、外に出ちまうと信仰を植え付けるくらいしかできなくなっちまうがな。」

 

 しまった。

 おかしくなるのがハウルオブソウルの効果で、信仰に目覚めるのは【ブラッドコントラクト】の呪文の効果だったってことか。

 症状が違うのだから、違う2つの魔法がかけられているって気づいても良かった。


 魔導砲を登り切ると、大きく崩れた壁の向こうの星空が見え、砲身がどの方角を狙っているかが分かった。


「戦場を狙うつもりか!」

「戦場? ああ、たしかにそっちのほうを向いてるな。よかったな戦争はすぐ終わるぜ?」

「わざわざ戦争を起こしておきながら吹き飛ばして・・・何が楽しい!」

「何言ってんだ? 戦場もなにも装置から先、筒先の向いてる方角の全てが掻き消えるぞ。ランブルスタもカリストレムも、もしかしたら王都まで届くかもしれねえな。」

 それほどの威力があるのか!?

「お前の城も信者も吹っ飛ぶってことだぞ!」

「構わねーよ。もういらねえ。」


 俺の目線が魔法を打ち込むための魔力注入工口を見つけてしまった。


 ダメだ。

 絶対に【エネルギーボルト】は撃たない!


 俺は【エネルギーボルト】を放った。


 くそ!


 魔導装置全体が起動したのが分かる。

 魔導装置から振動が上がってくる。


 どうにかしないと!

 俺は魔導砲を掴んだ。


「何をしようとしてる? 無駄無駄。」


 このままじゃ、戦場の二特も、カリストレムのニキラさんたちも、ランブルスタのみんなも、下で戦ってるであろうみんなも、エリーも、ヤミンも、リコも全員吹き飛んでしまう。

 魔導砲の向きを変えるだけでもいい。

 なんとかしないと。


 ユージの命令をこなしたせいか体が動く。

 俺は次の命令が来る前にすばやく大砲の筒先をつかんで動かそうとする。


 思ったより簡単に魔導砲の向きは変わった。

 筒先が穴とは真逆に向いて止まる。


「はっ! 俺を狙うつもりか。」

 ユージはゆっくりと魔導砲の前から移動し、射線から遠のいた。

「いや、違うな。狙いはオーンコールか!」


 今更気づいても遅い。

 魔導装置から飛び降りる。

 これで発射前に俺に何かさせようとしても間に合わない。


 俺の【エネルギーボルト】が装置の中でブーストされているのか、魔導装置の麓を一周している環状のパイプから青い光が放たれはじめた。


「くっくっく。いいアイデアだ! やってみろよ! 上手く行けばソウルプリズムが壊れて【ブラッドコントラクト】の効果は解けるかもしれないぜ! だがそれだけのこった!」ユージは高笑いをした。


 頼む!

 俺の最強魔法!

 ソウルプリズムの機能を停止できるくらいの威力にはなってくれ!


「ははははは! これで世界は終わりだぁっ!」


 轟音とともに、クリムマギカのときのようなまばゆい閃光が俺の視力を奪い、34億倍の威力になった俺の【エネルギーボルト】が部屋の壁の向こう、オーンコールの山に向けて放たれた。


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