代理戦争
「AIと人間、どっちが大事か、俺たちで決めよう・・・
「高位の事象より釁隙に至るマナを擂解せよ!」
先手必勝。
ルナから預かっていたアイテムを使う。
「てめぇ!」
「悪いけど、お喋りに付き合ってるほど余裕はないんでね。」
俺が使ったのは魔封じの呪符。
クリムマギカで栗毛たちが使った呪符と同じだ。
というか、あいつらの持ってたやつらしい。
これでこの場では魔法が使えない。
本当ならルナが前線に突貫して、その間に俺がこの呪符で相手の魔法を封じ込める予定だった。
かといって、呪文を封じたからって勝てるとは限らない。
確かユージはカリストレムで会った時は【連斬】を取ろうとしていた気がする。
【連斬】は上級スキルだし、おそらく物理的な戦闘もそうとう強いだろう。
そもそも、たった半年前にリコと二人で立ち向かったのに遊ばれてなお敵わなかった相手だ。
あの時からの成長でどれくらい実力をまくれているか。
勝負!
「【尖突】!」
相手が間合いを詰めてくる前に鞭を振るう。
この距離を保って一方的に攻撃をするように頑張ろう。
「うぉ!」
ユージは慌てて飛び退って俺の攻撃を避ける。
イップス関係なく鞭が当たらなかったのって、久しぶりな気がする。
さすがと言ったところか。
でも、向こうもそこまで余裕がある感じじゃなかったぞ?
戦えるか?
「【縮地】!」
ユージが俺に向けて突っ込んで来た。
迎撃もなにも考えず全力で【回避】。
危なかったが、避けられない攻撃じゃない。
だけど、俺にアドバンテージのある距離では無くなったしまった。
「【連斬】!」
ユージが詰まった間合を離させないよう、続けざまの攻撃を繰り出してくる。
見える。
ユージの【連斬】はあの時と違い技として成立していた。
だが、それでも、俺は連続で繰り出される閃撃の波を【回避】することができた。
とはいえギリギリだ。
やはり相手の剣の間合いで戦うのはできる限り避けたほうがいい。
ユージの【連斬】の撃ち終わりを狙って、バックステップで再び間合いを取る。
相手が【縮地】を持っている以上、俺の有利な間合いで戦いを運び続けることはできないが、それでも相手の間合いからは少しでも出ていたい。
互いに当たらない展開の場合、うっかりクリティカルするほうが勝つのでたぶん俺が有利なはず。
そういう形に持っていきたい。
「やるじゃねえか。」
ユージの顔に余裕の笑顔はない。
「どうも。」
「じゃあ、これはどうだ。【閃・武閃闘斬】!」
なんか飛んできた!
すげー勢いで飛んできた斬撃っぽいのを身を捻ってかわす。
「避けんのかよ!」
ユージが驚いて声を上げた。
知らんスキルなんですけど。
普通だと避けられんやつなのか?
「てめぇ、飛ばし技避けるとか、アルファンガチ勢じゃねぇな。」
「違うし! 【受け】がないから【回避】しかできないだけだし!」
飛ばし斬撃を弾くのがセオリーなのくらいは知っとるわ!
さては今の技【受け】無効のスキルだったな?
「は? 【受け】がねえ? そりゃ、いいこと聞いたぜ。」
あ、しまった。
「【縮地】!【大回転】!」ユージが俺の間合いの外から一気にふところに飛び込んで来て、剣を持って回転する。
【大回転】はかっこ悪い技だが、【回避】の効きにくい範囲攻撃。俺相手に超有効。
後ろに必死に飛び退くも全ては避けきれない。
防具の隙間に斬撃が命中し、血が飛び散る。
痛ってぇ・・・。
前回のままだったらこれで死んでたな。
だけど、今は多少【防御】もあるし、【アクロバット】で攻撃範囲から逃れられたのでダメージはほどほどで済んだ。
でも、あと何回かやられたら倒れる。
ユージは俺に考える時間を与えてくれない。
「【縮地】!」
再び、ユージが飛び込んで来る。
「【カウンター】!【スナイプ】!」
反射的に迎撃。
完璧な手応え!
俺の鞭が再び飛び込んできたユージの足を貫いた。
【縮地】に迎撃なんてそうそう当たらないが、なんせ俺は【クリティカル】の申し子。
「クソっ!」
ユージは悪態をついて膝をついた。
「どうだっ!」
【無力化】発動で部位破壊に成功したっぽい!
これで、もう【縮地】は使えまい!
「冗談だろ? てめぇ、こないだまで初心者だったはずだ。こっちは魔法戦士で58だぞ!? 」
うえ。
魔法戦士58かよ。
俺、今までよく避けれてたな。
「何で、そこまでの実力があるのにお前の情報が俺に入ってこない!」
「なんせ、まだ2レベルだからな。」
冒険者カード更新せんで良かった。
「そんな訳あるかっ!」
ユージは叫びながら立ち上がった。
「【速攻】!」
【速攻】を使って先手を取ったユージは俺のふところまで一気移動してに距離を詰める。
再び間合いを消された。
【速攻】にはこんな使い方もあんのか。
だけど、【速攻】は先手を取るだけの技。
ユージは懐に入って来たが、続く攻撃がすぐには出てこない。
「【鞭疾穿】!」
俺は最近覚えたての鞭の近距離攻撃でユージを狙う。
「【踊刃壁】」
ユージは剣を素早く繰り出すことでダメージを軽減する【防御】系の技で耐えることを選択。
ここの間合いで耐えて、次は攻撃してくるつもりだ。
だけど、それは悪手だよ?
鞭使いを相手にしたこと無いな?
普通ないか。
俺の攻撃は急角度に方向を変え、ユージの剣での防御をすり抜けるようにして、もう片方の膝を貫いた。
「ぐあっ!」
ユージが再び膝をつく。
俺は一目散に後ろに飛んで、再び鞭の間合いに戻る。
「畜生、また【クリティカル】かよ!」
悔しがってるけど、エルダーチョイスの鞭のおかげで俺の【クリティカル】80レベルに近いからな?
50レベルくらいだったら【回避】しなかった時点でほぼ【クリティカル】確定だからな?
両足を貫かれたユージは膝をついたまま俺を睨みつけてくる。
俺は鞭をいつでも振れるように構えた。
「ま、待て! ちょっと考えろ、ケーゴ。」
ユージは攻撃する様子もなく俺に向けて話しかけてきた。
「お前は人間だ。そして、奴らはただのプログラムだ。」
「その話はもう終わった。俺を懐柔しようったって無駄だ。」
「いいから聞けよ。考えても見ろ。この世界には腐るほどAPCが居るってのに、AIの代表はお前だ。」
「だからなんだ。」
「世界の命運を決めようとしているのは俺とお前。結局、世の中を決めるは人間ってことだ。APCなんて重要でもなんでもねえってことだ。」
「アルファンを知ってて、レアスキル貰ってるから転生者のほうが有利ってだけだ。たったそれだけのことで、俺たちがこの世界で好き勝手していい理由にはならない。」
「はぁ? 有利? ぶはははははは!」ユージが素っ頓狂な声を上げて笑い始めた。
「なにが可笑しい? アルファンをやってたおかげでこの世界の未来がある程度予見できて、みんなが知らないような知識もあって、しかも神から好きなスキルまで貰えてるんだ。まさにチートだろ。」
「ぶははっは。」
追い詰められているはずのユージは心から笑っている。
「何が可笑しい。」
「確かにお前の言う通りだ、俺はな。」
「?」
どういう事?
何言ってんの?
「知ってるか? この世界の転生者には2つの格付けがある。環境因子と能力因子だ。」
「格付け?」
「そうだよ。転生時に与えられる生活環境と強さの指標だ。俺らを転生させた奴らが実験的にバラけさせたんだと。俺は環境因子が最低だが、能力因子が最高だそうだ。王国の騎士隊長のエデルガルナも転生者で、こいつは環境因子も能力因子も最高だ。」
そりゃルナは強いわけだ。
たしかに言われてみれば、ルナは生まれも貴族だったはずだ。
いいなぁ。
「そして、環境因子も能力因子も最低なのがお前だ、ケーゴ。」
「えっ? そうなの!? 能力も?」
うそ。
めちゃくちゃ、ショック。
「アルファンのPCにはありえないレベルの弱さって聞いたぜ。」
「誰だよ! そんなこと言ったの! 誰よ!?」
「カムサラっていう俺を転生させた奴だ。成長係数が異常に低いって聞いたぜ。」
くっそ。
心当たりしか無い!
うすうす気づいてたけど、【魔法の素質】どころか、【力の素質】ですら俺より低い奴たぶん存在してないだろ。
マーガレットですら俺の4倍あったし。
なんだったら一番才能のある【速さの素質】ですら一般以下の可能性がある。
こないだ二特のステータス見てよく分かった。
あいつら等みんな俺から見たら才能の塊なんだもん。
「なあ、人間である俺達がAPC共と性能を比べられる実験なんて間違ってると思わねえか?」
「うっさい! そんな才能無い俺にお前は負けてんだろうが!」
俺、超ご立腹。
自分的に大満足だった異世界転生ど真ん中のニューライフをバカにされた感満載。
「もういい、今から腹いせにこの魔導砲をぶっ壊す! 世界を救うのなんてもうついでじゃい!」
ざまーろ。お前の計画はここで頓挫するんじゃ!
俺に現実を見せた罰じゃ!
「ちょっ、ちょっと待て! ちょっと待て、ケーゴ!」
「待つもんかい! 俺は今、猛烈に八つ当たりをしたい!」
俺は鞭の目標を魔導砲に定めて振りかぶる。
「ケーゴ様、少々お時間をいただけませんか?」
突如、ミュールが話かけてきた。
「なんだっ?」
イライラ俺、大声で訊ねる。
ミュールはゆっくりと口を開けると、何かパクパクと口を動かした。
声が出ていない。
「?」
「失礼しました。お時間を頂きましてありがとうございます。」
ミュールは深く頭を下げると今度はユージに向けて言った。
「ユージ様。魔封じの護符の効果が切れました。」
「しまった!!」
うそだよな?
護符の効果時間短くね?
【魔法の素質】が無いから?
才能が最低だから?
慌てて鞭を振り回し、ユージに目標を定めたが間に合わない。
「俺の言うことを聞け! 【ブラッドコントラクト】!」ユージは呪文を唱えた。
契約魔法!?
それ同意が無いと効かない呪文だぞ?
「動くな。ケーゴ。」
ユージがそう言った瞬間、俺の体は動かなくなった。




