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ルナ

 完全にはめられた。

 ミュールの狙いは俺の鞭だ。

 たぶん、魔導砲に組み込むのだろう。

 34億倍の威力の魔法でなおかつクリティカルを狙うつもりに違いない。


 かと言って戻れない。

 魔導砲発射の阻止という任務ができてしまった。


 メルローもエルダーチョイスもクリムマギカで会った時のままだったし、洗脳されたりはされてなさそうだから情報に間違いはあったとしても嘘はないだろう。

 たぶん洗脳してしまって変になったら、技術者としての仕事に支障が出るとか思われたのかもしれない。

 てか、こいつら洗脳もされてないのにそんなやばいもの作ったのかよ。

 そう考えると、こいつらほんとたち悪いな。


 だが、エルダーチョイスもメルローも責められない。

 だって、俺達だって洗脳されてないのにミュールにそそのかされて鞭を持って魔導砲の元に行こうとしている。


「ユージって人が僕らのボス。みんなは大使徒って呼んでるよ。」二人の上司について訊ねると、メルローは無邪気に答えた。

「さっき一緒に動作確認の試し撃ちをしてきたんだ。」

「え!?」

「全力では撃ってないよ? 2周しただけ。たぶん100倍くらいの威力。威力をブーストしてる時はともかく、発射の時は魔法ブーストの宝珠にも反動でダメージがいっちゃうからね。」

「さすがに何万倍とかの魔法を食らったら、わしの魔法具でも持たんぞ。」

「だから、全力の発射は一回しかできないんだ。それはこれからのお楽しみだよ。」

「何ぞ、もう一個、魔導具を組み込みたいらしい。スロットを一個作っといてやった。」

「そしたらどうなっちゃうんだろうねぇ。ぐふふ。」メルローが口から垂れてきたよだれを拭った。


 完璧に俺の鞭待ちじゃねえか・・・。


「二人ともユージってどんな奴か分かる?」

「ん。人間だった。」

「男だぞ。」

 アバウト。

「強さとか解んない?」

「結構な魔法使いだと思う」

「【雷魔法】を使っとったな。」


 そういや、カリストレムで会った時も雷魔法を使ってたな。

 あれ【回避】完全無効だから相性が良くない。


「道がわかるんなら二人は逃げて欲しいの。ここは危ないかも。」ルナが二人に言った。

「逃げる? もともともう帰るつもりじゃよ。選挙戦もそろそろ終わっとるはずじゃし、もう帰って良いとも言われとるしな。」

「今度は遠くから地面が変形するとこ見たいしね!」メルローが興奮気味に飛び跳ねた。

 かんべんしてくれ。


 俺たちはメルローたちに魔導砲までの道のりを訊ねてから二人と別れた。


 メルローには悪いが、そんな物騒な魔導砲はぶっ壊さないといけない。


「ルナ。ユージと戦うことも視野に入れよう。少し作戦をねっておいたほうがいいかもしれない。」俺はメルローたちが行ってしまうとルナに言った。

「うん。」

 ルナと並んで噴水のオブジェに腰をかけて、俺の知っているユージの特徴や彼の使ったスキルを覚えている限り共有する。

 おそらく、あの時からガッツリ強くなっている可能性も考えておいたほうが良い。

 ルナがルスリーから預かっていたアイテム類を俺に分配し、いざ戦う事になった場合の役割分担を打ち合わせておく。


「ケーゴ。」作戦についてある程度まとまったところで、突然ルナが俺に声をかけてきた。「ちょっと違うお話いい?」

「ん? いいよ。なに?」


「ホントはね。私ね、記憶が戻ったとき、すごく寂しかったんだ。」


 ルナのあまりに唐突な発言にびっくりして俺はルナの顔を見る。

 ルナの潤んだ瞳からはすでに涙がこぼれていた。


「誰も頼れる人がいなくなっちゃった気がして。知ってる人が誰もいなくなっちゃった気がして。」


 そっか。

 連れてきたのは俺だ。

 

「だけら、ケーゴと仲良くなれてすごく嬉しかったんだよ。リコリコもヤミン姉も。」

 ルナは流れ落ちる涙を拭こうともせずに続けた。

「今はね、エリーちゃんやみんなと仲良くなれて本当に楽しくなったの。だからね。もう大丈夫。ケーゴ、ありがとうね。」


 そっか。

 きっと、クリムマギカでは俺の事を気遣って。

 ずっと俺を気遣ってたんたな。


 そして、きっと今もそうなんだ。

 ルナはいつもずっとやさしいから。


「私はケーゴもリコリコもヤミン姉も大好きなの。」ルナは笑った。「だから、ケーゴ。いつかちゃんと二人とは向き合ってあげてね。」


「ルナ、その・・・。」

「うん?」

「ごめん。」

「うん。」


 ちゅっ。


 え?

 おお?

 おおう!?


「仕返し!」


 え!?

 何の?


「じゃあ、行こっか。」

 ルナは泣きながら笑って俺に背を向けた。

 何故だか、とても寂しそうに見えた。



***



 王の間。


 エルダーチョイスたちの制作した魔導砲の威力を確認して戻ってきたばかりのユージは上機嫌だった。


「鞭とケーゴ様が遺跡内に侵入致しました。」ミュールが深々と頭を下げた。

「そうか。よくやった。」ユージは嬉しそうに笑った。「さて、変革の夜の始まりだ。明日の朝が楽しみだぜ!」

 ユージが合図すると玉座の周りに侍っていた女たちが、その場を離れユージの鎧を持ってきた。

 ユージが手を上げ下げするに合わせて彼女たちは手際よく鎧を着せていく。

 女の一人が最後にユージの愛用の剣を手渡した。

 そして、ユージは剣を受け取り腰紐に挿すと、すっと抜き放って目の前の女性の頭を切り落とした。

 

 何も分かっていない女性の頭が転がっていき、遅れて体が倒れた。

 残った女たち悲鳴を上げて逃げ始めた。

 正しい判断だが、彼女たちはただ死の恐怖から逃げ出しただけだ。

 そして、それが正しい判断であっても彼女たちは生きることはできなかった。


 たぎる心のやり場を求めたユージは逃まどう彼女たちをゆっくりと追い詰めて殺した。

 

「世界が変わって生き返ってたらいいな。」ユージは血まみれで転がっている女たちにご機嫌に声をかけた。

 そして、女たちが殺されている間も表情を変えることなくかしこまっていたミュールに声をかけた。

「先に魔導砲のところに行っている。ケーゴをそこまで案内してやれ。」



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