技術者コンビ再び
長い階段が上へと続いていく。
マッゾの叫び声が聞こえなくなるまで階段を登ると、ようやくその先に広間が現れた。
広間には誰もいない。
真ん中に枯れた噴水か、もしかしたらそういうコンセプトのオブジェが置かれている。
困ったことに、この広間からは来た道以外に6方向に道が続いていた。
遺跡に入ってからはマッゾたち以外はいなかったとは言え、いつ俺たちを探して信者たちが遺跡まで入ってくるかは分からない。
下にはマッゾたちが転がってるし、彼らが見つかったら俺たちがここに来ているのはバレてしまう。
道を間違いたくはない。だが、悩んでいる時間もない。
真ん中の通路が確率高いとしても、真ん中の二本の右か左かは完全に運!
「真ん中の二本のうちの右に行こう。」
運なら悩んだってしょうがない。
速攻で進む道を選択。
なぜなら、リコが悩んだらいっつも右を取るから。
6分の1、おなしゃす!
俺はルナが来た道が分かるように目印をつけるのを待ってから通路に入ろうとする。
その瞬間、俺たちの進もうとした通路から出てきた二人と鉢合わせした。
誰も居ないとたかをくくって完全に油断していた。
慌てて鞭に手を伸ばす。
「あれ? ケーゴじゃん。」
「ルナちゃんもおるではないか。」
えっ?
また知り合い!?
「珍しいところで会うね。」
通路から出てきた小柄な二人は俺とルナを見て嬉しそうに言った。
「メルロー!? エルダーチョイス!?」
「二人ともなんでこんなところにおるのじゃ?」エルダーチョイスが不思議そうに尋ねてきた。
「それはこっちのセリフですよ!」
「こんなところでなにしてるの?」ルナもまさかの再会に驚いている。
「魔導砲を作ってたんだよ! 今日が最終確認だったんだ! もうバッチリ!」メルローがテンション高めに言った。
こいつらがテンション高い時はろくなことがない。
「わしも別に自分の仕事はあったんじゃが、それはこの間有終の美を飾ったんで、今日はメルローの手伝いじゃ。」エルダーチョイスも何やらいろいろ訊いてほしそうな顔をしている。
「聞いて! 今回の砲身はオーパーツなんだよ!」訊いてもないのにメルローが喋りだした。「 今回こそ砲身は吹っ飛ばないよ! こう、中に込められた魔法は拡散せずに同じところを10回グルグルと回ってから発射されるんだ。」
メルローはそう言いながら人差し指でぐるぐると輪を描いた。なに言いたいかよく分からん。
「そうすると魔法威力ブーストの宝珠を10回通るから、5万倍以上の威力になるはずなんだよ!」
またえげつない大砲を作ってるってことか。
「楽しそうで結構っすね。」
「大砲を作りにクリムマギカからここにきたの?」ルナが尋ねた。
「ううん。選挙戦がきな臭くなったもんだから、ちょっと面白そうなこっちの仕事に転職した。」
こいつ選挙戦で候補にされそうになったからって逃げてきたな?
「わしのも聞いてくれ。メルローの大砲はわしの手柄でもあるんじゃぞ! その魔法威力ブーストの宝珠を作ったのはなにを隠そうわしなのじゃ。」予想通りエルダーチョイスがしゃしゃり出てきた。「それもこの間のと違って使い切りではないぞ!! しかも、魔法威力が3倍じゃ! 」
「もしかして魔法威力が上がる例のガラス玉ですか?」
「そうじゃ! わしの叡智の結晶じゃい!」エルダーチョイスはエヘンと胸を張った。
使い捨てじゃないって、毎回魔法の威力が3倍になるってこと? やばくね?
しかもエルダーチョイスには小数点以下見えてないはずだから、4倍近い可能性すらある。
って、一瞬、俺もテンションが上がっちゃったけど、俺のエネルギーボルトじゃ3倍になったところで3倍の静電気だ。
「しかも、何やら、わしの剣もその中に組み込めるのじゃ!」エルダーチョイスが興奮気味に言った。
「そうなると聞いてよ。まさかの34億倍以上の魔法威力になるんだ! 滾るだろう!!」メルローもテンションマックスだ。
「エルダーチョイスさんも宝珠の研究のためにここに来たんですか?」
「いや、選挙戦がきな臭くなったもんじゃから、ちょっと面白そうなこっちの仕事に転職した。」
こいつもかよ!
ん?
宝珠?
剣?
「エルダーチョイスさん、今、剣がどうこう言ってませんでしたか?」
「そうじゃぞ? お前もクリムマギカで見たじゃろ。あの剣が何故かここにあったんで、さっきメルローの魔導装置に組み込んできたのじゃ。」
げ。
エルダーチョイスの剣と宝珠。
そして俺の鞭。
ユージの狙いってもしかして魔導砲をぶっ放すことか。
クリムマギカの魔導砲が削り取った大地が思い出される。
アサルが世界を終わらせるって行ってたけど、物理的に破壊するつもりなんじゃねえか!
34億倍以上の威力ってやべえぞ?
うわ、なんか頭ん中で繋がった。
きっと戦場に向けて撃つ気だ。
「何だってそんな危ないもんホイホイ作ってんですか!」ご機嫌のメルローとエルダーチョイスに文句を言う。
「重魔攻石をくれたから。」
「どんな威力でも壊れない砲身があったから。」
こいつら・・・。
自分たちが作りたいから作ってやがった。
「だいたい、こんな話どこで聞きつけたんですか・・・。」
「エージェントに頼んだ。」メルローが答えた。
「エージェント!?」
「なんじゃ、知らんのか、エージェント。」
「そうだよ、自分にあった転職先を見つけてくれるんだよ。」
マウントを取りにくる二人。
知っとるけど、この世界にもそんなもんがあってびっくりしただけじゃい。
「いくら払って探して貰ったんです?」
「? 金なんぞ払っとらんぞ。」
会社側が手数料を支払うタイプか。
初期費いらないけど、その分、良い転職先を見つけてくれない場合もあるから全体的に損な場合も多いんだよね。
それに、良いところに入れたら入ったで結構な額ピンはねされることになるし。
「世の中、いい人がいるよね。」メルローがのんきに言った。
「いい人って。ここってちゃんと給料の良いところなんでしょうね?」
「「給料?」」
二人は揃って首をかしげた。
うおおい。
エージェントの奴、二人の給料丸儲けしてないか?
「大丈夫っすか? そのエージェント・・・。」
ほんとに大丈夫じゃないのはこの二人だけど。
「えー。本当にいい人だったよ。」
「好青年じゃったな。」
よくねぇよ。
「なんだっけ、ミューズ?」
「そんな感じの名前じゃったな。」
え?
「もしかして・・・ミュール?」俺は恐る恐る尋ねた。
「そうそう、それじゃ、ミュールとかいう商人じゃった。」
俺とルナは顔を見合わせた。




