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再会と因縁

 エリーと分かれた俺とルナは遺跡の入り口に向かう。

 ミュールからの情報でだいたいの位置は分かっている。彼の記憶が正確であることを祈るのみだ。


 エリーたちを追いかけていった連中がいつこちらに戻ってくるか分からない。

 さらに、普通に働いている信者が時々場内をうろついていたりする。

 そういった信者を避け、周りを警戒しながら場内を進んでいるので進みは思いのほか遅い。


 通路が丁字路に突き当たったので、曲がり角にしゃがみこんで先を覗く。

 右側の道の先から誰か来る。

「誰か先にいる。やり過ごしてから進もう。」

「ケーゴ、音がするの。後ろからも誰か来てるっぽい。」後ろを警戒していたルナが言った。「たぶん大勢。私たちを探してるのかも。」

「げ。」


 慌ててあたりを見渡す。

 駆け込めそうな扉が3つ。


「この中へ!」

 ヤマ感で一番近い扉を選んで駆け込む。

 誰もいませんように!


 鍵もかかってないし、中はただの倉庫!


 セーフ。

 心臓がドキドキ言ってる。


「物陰に隠れておこうか。」

 部屋の中を見渡して隠れられそうな場所をさがす。


 ガチャ!

 

 突然、扉が開いて一人の信者が入ってきた。

 曲がり角のほうにいた信者か?

 ついてねぇ!


 隠れるのが間に合わなかった俺は、入ってきた女性信者と完全に目が合った。

 まじかよ・・・。


「・・・ちっ。」俺のことを見た女性信者が舌打ちする。

「母さん・・・。」


 入ってきたのは、この世界での俺の母だった。


 剣の柄に手をかけたルナが困ったように俺と母を見る。

 母は俺たちなんか見えていないかのように中に入って来ると、俺の足元に置かれていた樽を抱えて俺たちに背を向けた。

「母さん・・・あの・・・。」


 あまりに突然の再会に話かけようにも何の言葉も出てこない。母も俺の言葉を完全に無視した。

 母はそのまま倉庫の扉を開けて出ていこうとする。


 その瞬間外から男の声がした。


「おい、中に怪しい奴はいなかったか。」


「そんなもの居やしませんよ。」母は答えた。


「もし見つけたら教えろ。侵入者がいるのだ。」

「わかりました。」母はそう言って倉庫の扉を閉めて出ていった。


 俺は閉まった扉の向こう側に向けてただただ頭を下げ続けた。





 俺とルナはしばらく倉庫に隠れて、俺たちを探しに来たと思われる兵士たちをやり過ごした後、再び城の中を進み始めた。


 母の姿はもうどこにも見えない。

 少しだけホッとする。

 互いに会わないほうが良いだろう。


 奥に少し進むと、ミュールの言っていたように、壁の作りがガラリと変わっている廊下に出くわした。

 床は平らな石畳ではなく、でこぼこしていて一つ一つの石も大きい。

 ここから先が遺跡なのだろう。

 信者たちにとって遺跡はどうでも良いものなのか、廊下の入り口には見張りの一人もいない。


 俺たちは誰もいない廊下へと侵入し遺跡の中へと進む。

 ここより先はまったく情報がない。


 遺跡内部は城と違って床が水平ではない。

 通路が上に向かって傾いている。

 俺たちは少しづつオーンコール山の内部を登っているようだ。

 一応、黒い羊たちが設置したと思われる灯りが設置されているので、未踏破の通路というわけではなさそうだ。罠とかもない。


 暫く進むと通路は小さな部屋に行き当たった。

 俺たちの来た道も入れて全方向の壁に通路が伸びている。

 分かれ道だ。

 真ん中を進む。

 正解なんて分からないが、奥に上に登ってく階段が見えたから、なんとなく当たりかなって思った。

 これで地下に向かうのが正解だったら運がなかったと悔やむしかない。


 俺とルナは真ん中の道の先にあった階段を登っていく。

 二回の折り返しの後、階段は両開きの大扉がある踊り場に突き当たった。


「大丈夫。罠も鍵も無いの。」

 

 ルナがそっと押すと扉は滑るように動いた。


 扉の隙間から中に滑り込む。

 中は大さな部屋になっていて前方に階段が伸びていた。

 

 そして、その階段にはマッゾが座っていた。


 マッゾはゆっくりと立ち上がるとこちらを挑発するようにニタニタと笑った。


「やっぱ、こっちに来やがったぜ! こすい泥棒がよお!」

「マッゾ・・・よく分かったな。」

 

 うんざりする。


「リコは見えるのにお前はいねえ。卑怯者で嘘つきのお前のことだ。どうせリコを囮にして遺跡の宝物でも漁ろうとしてんだろうと思ったぜ。」

 そう言ってマッゾは剣を構えた。


 見つかってしまったもんはしょうがない。

 城の中じゃなかったのが幸いだ。

 押して通る。


「一対二だ。怪我をしたくなかったら退け。マッゾ。悪いが説得する時間はない。」

「オレ一人じゃねえよ。」

 そう言うとマッゾの後ろの階段からわらわらと黒装束が10人ほど下りてきた。

「ケーゴ。しかたないの。覚悟して。」ルナが剣を抜いた。

「大丈夫。そこまでお人好しじゃない。」俺も鞭を手に取った。

「リコは放ったらかしで新しい女かよっ!!」マッゾが絶叫した。

「もう一度だけ言う。退け。その人数じゃ俺たちには敵わない。」

「けっ! お前が誰かに勝てるわけ無いだろうが!」

 マッゾが剣を抜いた。

 黒装束たちもマッゾの横に並び出てきて剣を抜いた。

「残念だが、コイツラは信者じゃねえぞ。全員俺の金で雇った。ここならお前を殺すのを止めようとする奴はいねぇ。ここでお前を殺す! ようやく邪魔なお前を殺してやれる!」

「そうか。」


 マッゾが魔導装置でおかしくなっているかどうかは解らない。

 でも、話にならないことは分かった。


「貴様さえいなけりゃ、リコも村も俺の立場も全部うまくいったんだ。それをあのマグレが! 卑怯なマグレ試合がっ! 邪魔者ケーゴが! お前がこの村にいてろくなことがねえ。おまえはここで死ぬんだ! ここで死ねぇええ!」


「ルナ、先に進もう。」

「うん。」


 俺たちは前に一歩踏み出した。


「殺せ! 八つ裂きしろ!」

 マッゾが声を上げ、自分も俺に向けて走り出した。

 黒装束たちもマッゾを追い越して俺とルナに飛びかかってくる。


 俺は一歩足を進めるごとに鞭を振るう。

 

 一振りで4つ。

 二振りで8つ。

 三振りで10と2つ


 一振りするごとに、俺の鞭が敵の四肢を縫うように貫ぬいていく。


 俺がたちが5歩進む間に黒装束は全員床に崩れおち、身動きが取れなくなっていた。

 

 マッゾは自分の周りの黒装束があっという間に沈んだので、さすがに躊躇して固まる。


「うそだ! お前がこんな強いわけがない! また何かのズルをしたな! そうでもなきゃ、冒険者すらまともにできねえ貴様なんかが俺と同等に戦えるわけがねぇっ!!」


「ケーゴ、どうしよう?」ルナは俺を困ったように見上げた。

「いいよ。ほっといてあげて。」俺は答えた。「先に行こう。」


「おら! どうした! ビビったのか!」

 マッゾが少し怯えながら剣を俺に向けて構えた。

 

 俺は鞭をしまって奥の階段に向けて歩き出した。

 ルナも紫の剣を鞘に収めて俺についてくる。


「おら!無視すんな! てめえはただのケーゴだ! 嘘つきで弱虫でクソみたいに貧乏で、力もねぇ、才能もねぇ、何も持たねえお荷物が、俺を無視してんじゃねえぞ!」

 

 俺たちは叫び散らしているマッゾの横を通り過ぎ階段へと向かう。


「無視してんじゃねえぇえええ! 死ねぇぇえっ!」


 マッゾがどうして攻撃されても平気なのかは分からない。薬か魔法か契約か、たぶん、洗脳の副作用かなんかだったんだろう。

 でも痛かろうが痛くなかろうが、手足の腱を切ってしまえばまともに動くことなんてできない。


 武器を振りかぶろうとしたマッゾは腕を振り上げることもできず、俺の攻撃ですでに機能を失っていた膝とともにグニャリと崩落した。


「ケーゴ! ふざけるな! 俺を無視するな! お前ごときが! リコも! お前らが俺を無視して良いわけねぇんだ! ケーゴ!! リコぉおおお! 俺を無視するなぁああ!」


 俺たちは床に転がったまま絶叫するマッゾを残し、階段の先へと足を進めた。


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