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情報提供者

 俺たちは店の中に入って話し合いを始めた。


 店外に4人の冒険者を見張りとして残し、他は店のフロアに集まっている。

 今のところ村の連中もマッゾたちもこちらに手を出してくる様子はない。

 今のうちに状況の整理と今後の作戦について話し合っておかなくてはならない。


 まずはリックが村の状態と彼が何をしていたかについて說明をした。


 リックはガスと村長を助け出すため、隙ができるのをずっとうかがっていたらしい。

 そこにマッゾがやってきて黒い羊の兵士たちやロカを引き連れて俺を襲撃に出ていったものだから、これ幸いとレックと門番を殴り倒してガスと村長を助け出したようだ。その後、ガスと二人で俺を助けに来てくれたわけだ。

 そして、リックが信者になったフリをして過ごしていた間、彼をずっとサポートをしいたのがミュールなのだそうだ。

 彼は教団の内部事情に精通しており、今回の洗脳についても教団の幹部しか知らないような詳しい情報を持っているとリックは紹介した。


「失礼を承知で訊ねるが、彼を信用してもいいのか?」ヴェリアルドがミュールを見て訊ねた。

「心配ない。彼はずっと俺の事をサポートしてくれた。信者たちが宝石をいじりだしたら絶対にそれを見ないように忠告をしてくれたのも彼だし、今朝、ケーゴ君を助けに行っている間、村長の事を匿ってくれたのも彼だ。」リックが答えた。

「まずは話を聞こうじゃないか。それから考えても問題あるまい。」エリーが提案する。

「実はわたくし、黒い羊の出入りの商人でして・・・」

「なんだって!?」

「それは奴らの仲間ということではないのか?」

「ええと、その・・・そう言っちゃえばそうなのですが・・・。」冒険者たちの指摘にミュールという商人はしどろもどろする。

「彼は洗脳されていません。」リックがミュールをフォローする。

「はい。」ミュールは頷いた。

「どうやって洗脳を逃れた?」カシムが問い詰める。

「そもそも彼らにわたくしを洗脳しようとする意思がなかったようなのです。」ミュールは不思議そうに言った。「まともな交渉のできる洗脳してない手駒が欲しかったのかもしれません。」

「どうして、俺たちに協力する?」

「正直な所、儲かりますので教団とは仲良くやって聞きたいところだったのですが、なにやら信者たちを魔法で操っているようでしたので私もそうされてはたまらないと。しかも、魔法をかけられた方々はなにやらちょっとおかしくなってしまうものですから。」

「何故、あなたは黒い羊たちが魔法をつかって何かをしていると気づいたのですか? 彼らはあなたを洗脳しようとはしなかったんでしょう?」俺は尋ねた。

「彼らがわたくし以外の方と商談をされる時は何やら宝石をいじっていることに気が付きまして、その宝石について何気なく調べてみたのです。」

「また、よくそんなこと調べようと思ったな。」今度はスージーが尋ねる。

「商人ですので商談相手の癖を憶えることは大原則でございます。それに、彼らはわたくしにはそれを一切しませんでしたので、それは癖というより何かしら意図を持ってやっていることと理解しました。」

「なるほど。」

「そして、調べてみた所、その宝石は魔導具で、彼らがその宝石を使って信者に催眠をかけているのではないかということに気が付きました。逃げようかと思ったのですが、私の商売の領域にはどこにも黒い羊の信者がいて、私は顔を知られてしまっています。故郷には家族もおりますので迂闊には動けません。そこで、あなた方に助けを求めようと。」

「あ、もしかして、マッコに王都に行くように言ったのはあなた?」ヤミンが訊ねた。

「マッコさんというのは村長宅の若い方ですよね? そうです。騎士隊に助けを求めるようにお願いしました。」

「それより宝石についてだ。あれは何なのだ?さきほど情報を持っていると言ってたが。」エリーが急かすように尋ねた。


「あの宝石はただの端末らしくて、本体はたった一つの魔導装置なのだそうです。」


 うーん。そんな洗脳装置なんてあっただろうか。

 アルファンの知識ではぱっと心当たりが出てこない。


「そんなこと、どうやって調べ上げたんだ?」ヴェリアルドが尋ねた。

「調べるもなにも直接訊いたんですよ。」

「訊いたのかよ!」

「宝石については大使徒とは違って彼らにとってのタブーではないようで、簡単に教えてくれましたよ?」

 勝手に警戒して質問すらせんかった・・・。

「さすがに洗脳用の魔導具とは言いませんでしたが。信者の心を安らかにする魔導装置って言っていました。彼らはそれを『ソウルプリズム』とか『ハウルオブハート』とか呼んでいました。」


 ソウルプリズム!! ハウルオブハート!!


 それなら聞いたことがある!

 ミュールは一つの魔導具と言っていたが、ソウルプリズムとハウルオブハートは別の魔導具だ。

 どちらもアルファンの時のギルドイベントでギルド報酬として一位のギルドに与えられたマジックアイテムだ。


 両方とも黒羊が獲得したはずだ。


 ソウルプリズムはソウルプリズムを基点とした周囲で、一部の魔法の効果を上昇する。確か精神系のバフ魔法に効果があったはずだ。ソウルプリズムから距離が離れていまうと効果がなくなってしまう。

 たしか、アルファンのときはカリストレムの近くに設置されていて、オーンコール山周辺のアップデートで出現するようになった強力な敵に対して大きな効果をもたらした。

 黒羊はその効果を金を取ってプレーヤーたちに貸与して大儲けしていた。なにを隠そう俺も借りた事がある。

 具体的な効果は魔法の効果時間延長と効果の重複だ。普段重ねがけできないような呪文でもどんどんと重複していける。同じ呪文ですら重ねがけ可能だ。ただし、同じ対象には一定時間内に何回までしかソウルプリズムの効果を発揮できないみたいな回数制限はあったはずだ。


 もう一つの魔導具であるハウルオブハートは精神感応系の魔術具だ。

 悪意のあるAPCの存在を看破することができるアイテムだったはず。

 こっちは詳しくは知らない。

 アルファンにはプレーヤーの足元をみたり、騙してこようとするAPCも存在した。そういうのを防止できるアイテムとのことだったはず。

 だが、一部のAPCとの会話が立ち行かなくなったり、騙されないと展開が進まないようなシナリオが進まなくなってしまうため、はっきり言って使えないアイテムだったみたいな話をネットで見た。

 もしかして、APCたちの負の感情を増大させて表面に出させるアイテムだった可能性はある。


 そして、いまの話で分かった。

 白い宝石はレアアイテムでもなんでもない。

 ギルドごとに与えられる『ギルドの証』というアイテムだ。ギルドごとに形は違うが、大抵なんかのアクセサリーだった。

 ギルドがそれぞれに定めたギルドスキルやギルドスペルを『ギルドの証』を持っている全員が共有できる。もちろん効果は使用者の強さに依存するが。

 俺みたいなフリーランスは『ギルドの証』の効果を求めて、ギルドを渡り歩いたりする。それのおかげでアルファンでは弱小ギルドでもある程度の人員の活性化がなされていた。


 つまり、ハウルオブハートの精神感応系の効果をソウルプリズムで強化して、それを『ギルドの証』を使って手下に使わせているのだ。


「これはあくまでわたくしの想像なんですが、そのソウルプリズムという魔導具は人の心に何かしらの影響を与えるのではないでしょうか? 彼らのいじっている白い宝石はその出力機みたいなもので、そこからソウルプリズムの力を与え続けていくことで洗脳を行っているのではないかと。」ミュールは自身の推理を述べた。

 俺の推理とそんなに違っていない。


 でも、なんかちょっと違和感がないわけでもない。

 もう一つ収まりが悪いと言うか。


「その魔術具を破壊するか停止できれば騒ぎは収まるかもしれんな。」カシムが言った。

「村をもとに戻せるってことでしょうか?」村長が期待に満ちた表情で尋ねた。

「可能性が出てきたということだ。」

「教団がこいつに偽情報を掴ませていることはないか?」ヴェリアルドは慎重だ。「そんな魔導具聞いたこともないぞ。」


 さすがにミュールの話だけでは、皆、情報の真偽を判断できないようだ。

 しかし、その魔導装置は実際に存在するのだ。


「俺、そのマジックアイテム聞いたことあります。」俺は言った。

 罠の可能性はあるが、情報にはたぶん嘘はない。

 話を前に進めたい。

「なんで、そんな事知ってるのケーゴ?」ヤミンが尋ねた。

 ぶ。

 しまった。

「と、図書館で見かけたんだ。」

 いかん、無理がある。

 だったら王国が洗脳を解く方法に気づいててもいいはずだし。

「本当なの。私もその時一緒にいたの。」ルナが俺の表情を察してくれたようで口裏を合わせてくれた。

「ルナルナ、ケーゴと一緒に図書館なんて行ったことあるの?」ヤミンが予想外の角度から攻めてくる。

「えーと・・・ほら、一番最初の時。」

「そうそう、最初にお城に連行された時だよ。ルスリーに頼んで魔法についての本をいくつか見せてもらった時に、たまたま、偶然開いたページに載っててなんとなく憶えてたんだよ。」

 無理あるか?

「ちょっと待て、ケーゴ!」突如スージーが割り込んできた。「ルスリーってなんだ? もしかして王女殿下か!?」

「そうなの。」ルナが答えた。

「ほほう!」スージーの目がキラリと輝いた。

 はうあ、後でめんどくさそうだ・・・。

「お前、王女と知り合いか。しかも、ルスリーって・・・。」

 スージーの目がキランキラン光る。

「えーと、その面と向かってはちゃんと『殿下』ってつけてますよ? そんな期待されても無理ですからね。」

「話がズレているぞ。」カシムが俺を注意する。

「そうだ。今は今後の作戦について話し合うべきだ。」エリーもルスリーのことが手軽に扱われているのが気に入らないのかむっつりしている。

「だが、魔導具についてケーゴも聞いたことがあるというのなら、もう、やることは決まったように思うが。」ヴェリアルドが言った。

「そうだな。」カシムも頷いた。「敵の本拠地に乗り込んで、その魔導装置をぶっ壊せばいい。それでみんな目が覚める。」


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