ランブルスタでの戦闘
「さあ、前回の恨みしっかりはらさせてもらうよ。」
ロカはそう言うと躊躇なく踏み込んできた。
俺は攻撃をなんなく回避して短剣を抜く。
「祭りでは運悪く負けたけど今は昔の俺じゃない。大使途の教えを経て強くなった。この世の理も知らない無価値なお前なんかとは違う!」
ロカはそう言いながら剣を繰り出してくる。
コンパクトな突きが俺の肩のそばを通過する。
「ロカ、殺すなよ。生かしとけって依頼だ。」
「じゃあ、腕を切り落とすくらいにしておきますよ!」
ロカの攻撃が直前まで俺のいた空間を切り裂く。
以前より攻撃が鋭い。【命中】をしっかり上げてきたようだ。おそらく【打撃】もしっかり上げてきてるだろう。
こちらの様子見の攻撃もきちんといなしてくるので【受け】も訓練したんだろう。
「相変わらず、逃げるのだけは上手いな。だが、俺の成長した剣にどこまでもつかな? 【速攻】!」
ロカの素早い攻撃が俺を襲う。
とは言っても、【速攻】は先手を取れるだけのスキルなので攻撃の鋭さ自体は変わらない。
「どうだい! 君なんかとは違うんだよ! 君なんかとは!!」ロカが勝ち誇る。
「ロカ、目を覚ませ。君は魔法でおかしくなってるんだ。」
「おかしいのは君だろ。昔からずっとおかしなやつだったじゃん。あはは!」
ロカの向こうで、黒装束の連中が左右に展開しているのが目に入った。
俺たちを包囲して逃げられなくするつもりだ。
さらには何人か魔法を唱え始めている奴も見える。
「ロカ! いい加減に目を覚ませ!」
「あっはっは! 防戦一方じゃないか! でも、よく避けてる! 偉いよ偉いよ、君! 頑張りなさい!」高ぶってきたのかロカが高笑いしながら剣をがむしゃらに振り回し始めた。「死んじゃえ! 死んじゃえ!」
これは、もうダメだ。
こっちだってそこまで余裕はない。
「ごめん。」
人間相手にどこを狙えば【クリティカル】しやすいかはもう知ってる。ロカ程度の相手なら短剣を使ってても【クリティカル】を狙うことは容易い。
俺は攻撃をかいくぐりながら、ロカの右腕に向けて攻撃を繰り出し、肘の関節の隙間を切り裂いた。
ロカの剣を持っている手がだらりと力なく垂れ下がる。
「はっは! お前のそんな攻撃なんか効かない! 効かない・・・あれ?」
振り上げた剣がすっぽ抜けていったところでロカは始めて自分の腕が言うことをきかなくなっていることに気がついた。
「嘘だろ? え? あれ? なんで・・・? 畜生、貴様何をした! 何をしやがったぁ!」ロカが腕を抑えながら絶叫した。
ロカの絶叫を合図にするかのように、左右に展開していた黒装束たちが俺に向かって襲いかかってきた。
「ケーゴ! 下がって! 【ファイアーボール】!」
リコの合図で俺が後ろに跳んだ瞬間、リコの【ファイアーボール】が黒装束たちを襲い3人を吹き飛ばした。
が、リコの【ファイアーボール】の威力では彼らを倒すまでには至らない。
「【カウンターレジスト】!」
「【スロウ】!」
今度は敵の魔法使いの手番。
魔法への耐性を減らす魔法や動きを遅くする魔法が俺に向けて飛んでくる。
【魔法耐性】や【抵抗】のようなスキルは能動的なスキルに比べて短期間では伸びにくい。
なので、魔法は短期間でスキルを爆上げしてきた俺の弱点でもある。
体が重くなったのを感じる。
【スロウ】がかかってしまったらしい。
「【アースハンド】!」
「【スリープ】!」
「【バインド】!」
続いて、直接的な無力化魔法が飛んでくる。
【アースハンド】の魔法によって地面から飛び出てきた何本もの黒い腕をジャンプして回避、【スリープ】で発生した眠気をほっぺたをつねりながら根性で乗り切り、【バインド】で飛んできた魔法の縄を素早く回避。
【回避】が有効な魔法が多くて助かった。
「きゃあ!」
後ろで悲鳴が聞こえた。
リコはそれぞれの魔法の特性を知らない。
全部に【抵抗】を試みて、【アースハンド】に片足を掴まれてしまったようだ。
地面から伸びた黒い両手がリコの足に巻き付いて離さない。
リコの移動手段は完全に奪われた。
「リコっ!」
俺は慌ててリコの前に立つ。
勝機と見たのか3人の黒装束が俺たちに襲いかかってくる。
【スロウ】がかかってるからって舐めるなよ。
3人共の攻撃を華麗に回避。
かわし際に一人の二の腕の健を切り落とし、俺にかわされてバランスを崩しているもう一人のケツを蹴り飛ばして間合いの外に転がす。
だが、残り一人が俺への攻撃そのままにリコのほうに抜けようとする。
「させるか!」
「【マッディフロア】!」
俺がリコを助けようと足を踏み出した瞬間、敵の魔法が飛んできて、俺の足元をぬかるみに変える。
「そんなん、効くかよ! 」
滑りそうになる足をふんばりながら、リコに向かおうとしている敵の手首を切り裂く。
再び【クリティカル】したその攻撃は相手の健を切り裂き、持っていた剣がすっぽ抜けて足下に落ちた。
3人の特攻をやり過ごたものの、この立ち回りの間に俺たちは完全に囲まれいた。
無力化したと思っていた3人の黒装束もすぐに立ち上がって俺ににじり寄って来ている。
もはや武器なんて持ってない。
タックルで俺の動きを封じようとしているのだ。
たぶん、死ぬのすら恐れていない。
包囲を一点突破しようにも【アースハンド】の効果時間が切れるまではリコが動けない。
俺は少し下がると、リコの背中を守るように陣取った。
「万事休すだな。」マッゾが俺を見て勝ち誇ったように笑った。「ほらみろ。お前なんかじゃ何もできねぇ。リコを渡せ。そしてお前は大使徒のもとにでも行け。」
「ケーゴ! いざとなったら一人でも逃げて。」俺と背中合わせのリコが言う。
「大丈夫、【アースハンド】の効果が切れるまで耐えよう。」
かと言って、俺が迂闊に【回避】してしまうとリコの背中ががら空きになってしまう。
こういう時【回避】系って役に立たんなぁ。
「何が大丈夫だ。格好つけやがって。見捨てて逃げろよ。逃げるしか脳のないお前じゃ誰かを守って戦うなんてできねえだろ。」
「お前がどんだけ吠えようと、俺がリコをおいそれと見捨てるわけないだろう。リコは俺の大事な妹みたいなもんだ。お前はマッコを簡単に見捨てるのか。」
「は! くだらねえ答えだな。やれ!」
さっきの黒装束が捨て身で飛びかかってくる。
腕はもう動かないが、それでも俺に抱きついて動きを封じようとするつもりだ。
相手の捨て身のタックルに【回避】のできない俺は反射的に膝でカウンター。
慌てて放った膝が飛び込んできた相手の顎に入り相手が卒倒する。
これたぶん大晦日の格闘技で見た事あるやつだったぞ?
やべぇ、【格闘】でも【クリティカル】と【カウンター】って効くのか!?
全然、格闘の訓練なんてしてなかったんだけど。
って、興奮してる場合じゃない。
捨て身で来られるとやばいな。
今みたいな【カウンター】なんて何度も決まるとは思えん。
両端からさらに別の二人が飛び出て来た。
さすがにまずい。
と、
二人は俺の横に並んだ。
「リック!? ガス!?」
「すまん。手助けする。というか助けてくれ。」リックが俺の右に陣取って剣を構えた。
「ランブルスタがまずいのだ。」ガスは俺の左に陣取って斧を構える。
「分かってます。助かります。リコのフォローをお願いします!」
俺はリコの背中を二人に任せて二歩前に跳び出た。
これで好き勝手に【回避】できる。
「リーーーック!! ガーーース! 舐めた真似してくれたなぁ!」マッゾが天をもつくような大声で怒鳴った。「お前ら俺に敵わなかったのを忘れたかっ!!」
マッゾが剣を抜いた。
「魔術師共! 俺に魔法をかけろ! でないとぶっ殺す!」
「【クイックネス】!」
「【パワー】!」
「【プロテクション】!」
マッゾの命令に呼応して、魔法使いたちが次々とマッゾに援護魔法をかける。
マッゾが黒装束たちの包囲を割るように前に進み出てきた。
「マッゾ、お前こそ半年前俺に敵わなかったのを忘れたのか?」
俺はマッゾの前に進み出た。
「てめえええっっっ!」マッゾが金切り声を上げた。「ケーゴごときがマグレ勝ちをいつまでもひけらかしてんじゃねぇ!!」
そう言って、マッゾは俺に斬りかってきた。
「戦ってもらえるだけありがたく思えや!!」
攻撃をかわしてマッゾの真横に回り込んだ俺は短剣をマッゾの太ももに突き立てる。
手応えはあったが、マッゾは痛みなどないかのように、強引に剣を振り回した。
俺は【アクロバット】で素早く飛び退り、マッゾの剣は空を斬る。
「小賢しいっ! また、マグレか! マグレ野郎が!」マッゾが叫んだ。
マッゾの攻撃はだいぶ精度が上がっているし威力も上がってる。
【回避】や【防御】はあまりうまくないが、それほど弱くはないのかもしれない。
それに魔法の援護があるとは言え、今の【クリティカル】にビクリともしない。
相当訓練を積んできたようだ。
だが、俺のほうが成長率は断然高かったもよう。
俺は完全にマッゾの攻撃を見切ってかわす。
祭りのときのほうがよっぽどリスキーだった。
たまに俺に掴みかかってくる黒装束たちをいなしながらでも、マッゾの攻撃には当たる気がしない。
俺の【クリティカル】と【無力化攻撃】が両方成功した時が勝ちだ。
「クソが! 相変わらずちょこまかと! 当たりさえすれば貴様なんか! 貴様なんかっ!」
前回と同じことを言っとる。
俺に当てたければもっと【命中】を上げてこい。
俺の攻撃が再び【クリティカル】する。
「お前の貧弱な攻撃なんて効かねぇっ!」
効いてるはずだろ。
・・・効いてるよね?
俺に何度も切りつけられて右足だけが血まみれだ。
もしかしてバーサーク状態なのか?
「マッゾ、引くぞ!」
魔法使いの一人がマッゾに向けて叫んだ。
気づけばリコの【アースハンド】の効果が解けている。
自由になったリコはリックとガスたちと共に敵の包囲を完全に切り裂いていた。
「黙れっ! まだこれからだ! 引っ込んでろ!」
「今は無理だ。引くぞ。」
「うるせえ! こいつは! こいつだけは許さねぇ! こいつをぶっ殺してリコをもらうぅうう!」
「黙れ、マッゾ。ケーゴを殺すことは職務違反だ。【ブラッドコントラクト】!」
契約魔法!
マッゾは『黒い羊』と呪いの契約をむすんでいるのか!
【ブラッドコントラクト】はかけられた対象が契約事項に反抗した時に、術者が命令をしていうことをきかせることができる呪文だ。
相手の同意なしにかけることができないから、マッゾは何かと引き換えにこの魔法を受け入れているはずだ。
マッゾは俺への攻撃を止め、歯ぎしりをして俺を睨みつけた。
「ん、ぎぃいいい、畜生! 畜生!! 憶えてろ! 憶えていろぉおお!!」
マッゾは人間のものとは思えない喚き声を出しながら黒装束たちと一緒に撤退していった。
俺たちも急がないといけない。
俺を匿っていたスージーたちも狙われるかもしれない。
俺たちはリックやガスとの再会の挨拶もそこそこに、急ぎマディソン商店へと向かった。
丘には気の触れたように喚き散らしているロカだけが残った。




