若葉が丘の二人
俺がランブルスタに来てから5日目の夜半。
リコとヤミンが戻ってきた。
「早かったね。大丈夫だった?」
俺は裏口を開けて二人を迎え入れる。
「二人共ニキラさんに頼んで泊めてもらったよ。」リコが答えた。
「二人は大丈夫そう?」
「うん。ヌサさんはカリストレム初めてみたいで、とても喜んでた。」と、リコが嬉しそうに答えた。
「にしたって帰る場所がないのは心配だろうし、早くなんとかしないといけないよ。」ヤミンが注意した 。
「この辺りの様子はどうだった?」
「隣のミノモとドラフェイはランブルスタと似たような感じみたい。カリストレムやカッセルは大丈夫だけど、そこにも『黒い羊』の信者は居るみたいで問題になってる。」
「まじか。やっぱり規模がでかいな。」
「やっぱり?」
「黒い羊の本拠地がこの近くにあって、どうやらそこだけで信者が1000人くらい居るみたいなんだ。」
「「1000人!?」」
俺の方でも情報収集を続けて分かった内容を二人に共有する。
ランブルスタから4、5日ほど国境側に行ったところにあるオーンコールという山の辺りに黒い羊の本拠地があること。
そこには1000人の信者がいること。
護衛と称して戦える人間を集めていること。
そして、おそらくそいつらは俺が二特にしたみたいに特訓されていて強いであろうこと。なんせ、向こうにはユージというアルファン最大のギルドの構成員が居る。彼は俺よりもアルファンの知識には詳しいはずだ。
「援軍はみこめそう?」
「カリストレムの冒険者ギルドは協力してくれる。すぐ増援をくれるって。もちろん有償だったけど。」リコが言った。
「あと、レモンさんに王都に連絡してもらったからルスリー殿下には話が行くと思う。」ヤミンも答える。
「二特あたりが来てくれるといいんだけどなぁ。」
「うーん。王都からの援軍はちょっと厳しいかも。」ヤミンが暗い声で言った。
「どうして?」
「戦争が起こるかも知れないんだって。」
「戦争!?」
「エヴァーレインが進軍してきたんだって。」
まじか?
なんで急に?
「なんで、こんなタイミングで戦争なんて起きるんだろう。」リコが重々しい口調で言った。
「本当についてないよね。」ヤミンもため息をついた。
タイミングの問題だろうか?
エヴァーレインが黒い羊を操っていることはないだろうか?
もしくはその逆か。
「私たちにできることをするしかないよ。教団を壊滅させるのが目的じゃないでしょ。」リコが言った。
「たしかにそうね。洗脳に使う宝石の情報はなんか入った?」今度はヤミンが尋ねてくる。
「『黒い羊』が洗脳に使ってる白い宝石だけど、いくつもあるらしい。信者にも階級があるっぽくて、黒い服を来ているのが古参で熱心な信者なんだ。その中でも限られた人たちだけが宝石を持ってるみたい。それ以上はあまり情報は得られてない。ランブルスタはもうほぼほぼ全員が信者になってるか、洗脳の影響を受けてる。無事って分かってるのはスージーとカムカとリックくらいかな。」
「リックが無事なの?」リコが嬉しそうに言った。
「信者のフリをして黒い羊に潜入してるっぽい。話を聞きたいんだけど、初日に会って以降は会えてない。ついでにマッゾにもまだ遭遇してない。」
「リックに会えればいろいろ聞けそうね。」リコが言った。
「カリストレムからの援護はどのくらいで来るの?」今度は俺から質問。
「すぐに追いかけるって言ってたから明日か明後日には来ると思う。」ヤミンが答えた。
俺たちはカリストレムからの援軍を待ってから、ガスと村長の救出とリックとの接触を図ることに決めた。
それで何も情報が入らなければ無事な人を連れて一度撤退だ。
リコとヤミンは冒険者ギルドのクエストをこなしに来たということにして今晩は宿に泊まってもらう。
警戒はされるだろうが、2日くらいならランブルスタに滞在したとしても不自然ではないだろう。
明けて朝。
マディソン商店で魔石の袋を作っている俺のところにリコが尋ねてきた。
「どうしたの?」
「ん、ちょっと・・・ねぇ・・・一緒に散歩しない?」
「うん、いいよ。」ちょうど最後の袋を作っていた俺はリコの提案を快諾する。
村は信者ばっかだし、一人で村を見て回るのは心細かろう。
それにリコとランブルスタを散歩するのはノスタルジックで楽しそうだ。
俺は最後の袋を手早く作成して、リコと一緒に誰も居ない村を歩き始めた。
幸い、朝も早かったせいか村人はあまりいない。
たまに遭遇するとやっぱりガンにらみしてくる。
俺たちはそんな視線など無視して、思い出を語らいながら村の中を歩き、いつも二人で剣の稽古をしていた丘の上までやってきた。
俺たちがたくさんの時間を一緒に過ごしてきた場所だ。晴れた日は毎日のように二人でここでじゃれ合っていた。
最後にこに二人で来てからたった1年半しかたってない。
そっか、たった1年半しか経ってないのか。
若葉が丘は俺たちが来なくなかったせいか、昔はくるぶしまでの背の高さしかなかった下草が大きく成長し、今は膝くらいまでの高さになっていた。もう無邪気に走り回るのはためらわれる背の高さだ。
ほんの数年前まではここを元気に走り回っていたのに。
そっとリコを見る。
可愛い女の子だった幼馴染はいつの間にかキレイな女性になっていた。
それでも俺にとってリコは昔のままの幼馴染で、いつものリコで。
「だいぶ荒れちゃったね。」
「うん。昔みたいに遊ぼうかなって思ってたのに。」リコが俺の手をそっと握った。
「今はもう簡単には負けないよ?」
「うん。そうだね。」リコは静かに頷いた。
思い出の丘をしばらく二人で眺める。
リコも口を開かない。
リコにも俺と同じ光景が見えてるのかもしれない。
「ねぇ、ケーゴ憶えてる? 」リコが口を開いた。「私の父さんが死んじゃって、頼れる人が誰もいなくなって、寂しくて耐えられなくて。それで村から逃げ出して。でも、ケーゴが探しにきてくれて。」
「あったね。」
「私、モンスターだらけの森の中に入ってって、それなのにケーゴが一生懸命私の事探し出してくれたんだよね。」
「二人ともよく無事だったよね。」
めっちゃ大声上げてリコを探してた記憶がある。
「あの時、ケーゴ、私になんて言ったか憶えてる?」
「なんか言ったっけ?」
思い出すだけで恥ずかしいのに口になんか出せるか。
「そっか。忘れちゃったか。」
リコは寂しそうにうつむいた。
言えばよかったとすごく後悔する。
「その・・・
「ルナちゃんって強いよね。」リコが突然話題を変えた。
「え、うん。そうだね?」
「ケーゴって昔から強い人に憧れてるよね。」
「うーん。憧れてるっていうか、俺もそうなりたいっていうか。そういう人たちと一緒にいれるようになりたいんだと思う。」
ルナやエイイチに早く追いつきたいとは思ってる。
「そっか。」
リコは頷いてもうひとつ質問をしてきた。
「ねえ。ケーゴにとって、ルナちゃんって特別な人なの?」
「特別?」
「ジャイアントたちとの戦いが終わってから、ケーゴとルナちゃん、ちょっと変わったもん。」
クリムマギカってことはルナが俺を助けてくれた子だって分かった後か。
そういう意味じゃ特別なのかな。
「特別っちゃあ、特別なのかな。」
「うん。やっぱ、そうだよね・・・・。」
「・・・? リコ?」
今まで聞いたことのないリコの声の響きに、俺は思わずリコを手を引っ張ってこっちを向かせる。
リコは透き通るような瞳で俺のことを見つめると口を開いた。
「ケーゴ、わたしね、ケーゴのことが・・・
「よぉ、ケーゴ! 久しぶりだな。」
リコの言葉を遮るように、怒鳴り声が響いた。
振り返るとそこにはマッゾが居た。




