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戦いを前に 各所

「エヴァーレインが動いた。」キルロックが重い口調で言った。

「レレム近郊の国境に6500。向こうは隠しているつもりかもしれんがもう少し南にも2000潜んでいる。」

 円卓のような机を取り囲むのは王と騎士隊の隊長の3人。

「突然にも程がある。今までなんの予兆もなかっただろう。」ウィルフェインは眉をひそめた。

「なぜだかは分からん。最近、エヴァーレイン国内で反アアルの感情が偏執的になっているという噂は捕らえていたが、さすがに急性すぎる。」

「新興宗教も蔓延っていて不安な国内情勢だというに次から次へと問題が起きてくるものだな。」レンブラントがため息混じりに言った。

「そういう状況だからこそ、エヴァーレインも動いたのだろう。」と、キルロック。


「こんな時にアルトロワとルスリーは揃って欠席か。」王が空いた2つの席を見て不機嫌に呟いた。


「は、アルトロワ殿下は現在くだんの宗教の捜査のために王都を離れております。」本来アルトロワの座っているはずの席の後ろに立っていた代理出席の騎士が緊張した様子で説明した。

「なんだって!?」

「本当か!!」

 隊長たちが騎士の言葉に驚きの声を上げた。

「あの馬鹿者が・・・。」王も言葉を絞り出すように唸った。「この状況下にあやつは騎士隊を連れ出して王都を離れているというのか。」

「いえ、騎士隊は連れず殿下お一人でお出かけです。」アルトロワの代理の騎士が答えた。

「そ、そんなのなおさらいかんじゃろ! 何故、放っておいた!」王が驚きのあまり立ち上がる。

「何故!? え、あれ? 何故だろう?」第一特殊騎士隊隊長は言われてみて初めてはっとする。

 彼はその時の話を思い出そうとするが、同席していた商人の持っていた首飾りばかりが思い浮かび、何故、王子か一人で行くことに納得してしまったのか思い出せない。

「でも、きっと殿下は安全です。」

 第一特殊騎士隊隊長は全幅の信頼をアルトロワ王子においていた。だから、彼が大丈夫だと明言したのなら間違いなく大丈夫なのだと信じていた。

 その信頼は魔法の宝石を持ってして常識を超える信頼まで至っていた。

「後で処分を申し渡す。覚悟しておけ。」王が容赦なく騎士に沙汰を言い渡した。

「何故っ!?」

「ル、ルスリーは? ルスリーはどうしている?」 王は狼狽えながら今度は愛娘の心配を始めた。

「ル、ルスリー殿下様は、重要な案件のため!き、緊急の対応中ですっ!」同じく欠席のルスリーの代わりにその場に参加していたカサンが目を白黒させて叫んだ。

「声がでかい!」王は耳を塞ぎながら自分も叫んだ。

「『黒い羊』の拠点について情報が入ったため、その真偽を確認中と思われます!」

「なんだと!? それはどこか!」ウェルフェインが尋ねる。

「カリストレムの近郊ランブルスタにございます。」

「どこでその情報を手にした。」

「なにやらランブルスタに信者たちが集結しているとの情報がもたらされまして、ルナ・・・もとい、エデルガルナ様の愛鳥ぴー様が確認しました所、城らしき建物がありました。殿下たちはその事実をぴー様から事情聴取中です。」

「ルスリーは何故、真っ先にここに報告に来ない。」

「不鮮明な情報で皆様を無駄に混乱させるのを避けるため確認を急いでおります。今の内容もはっきりするまで話すなとのお達しであります!」

「だとしたらお前が喋ってはいかんのではないか?」

「あっ。」

「後で沙汰を申し渡す。」王がため息をついた。

「しまった!」カサンが叫んだ。

「本当に黒い羊の信者が集結してるのだろか?」と、ウェルフェインがカサンにではなく、キルロックに訊ねた。

「分からん。だとしたらめんどくさいな。ランブルスタはエヴァーレインの兵の集結地点とは絶妙に離れている。」

「まるで、試されているようだな。」レンブラントがため息をつく。

「一特や二特に丁度いい仕事なんだがな、どうしたもんか・・・。」と、キルロックは空いている2つの席を見た。

「ああ、無駄に皆さまを混乱させてしまった・・・。」カサンが呟いて頭を抱えた。

「世界崩壊時計が針を8つも進めたこんな時に、どうしてこんなに次から次へと問題が起こるのだ・・・。」王は困ったように嘆いた。


* * *


「世界崩壊時計が針を8つも進めたこんな時に、どうしてこんなに次から次へと問題が起こるのじゃ。」

 ルスリーが苛立たしげに自分の親指を噛み締めた。


 黒羊の動きがなにかしらの目標の中心に向かって加速していっているのをルスリーは感じていた。

 ルスリーは完全に後手後手を引いている。

 それどころか、相手は自分が手を指していることすら気づかぬほど先にコマを進めているのだとルスリーは気づいていた。


 先日、エルダーチョイスの剣が盗まれた。

 犯人はわからないが、時を同じくして姿を現さなくなったアルトロワが関与しているとルスリーは確信している。

 ケーゴも行方不明になった。彼はエルダーチョイスの槍の持ち主だ。

 さらにはエルダーチョイス本人も行方不明になったとの情報が入っている。

 ここに来て、虐殺者タイチが探していた2つの秘宝が消え、その製作者も消えた。

 さらにはタイチの探してた秘宝の代替え品であるコルドーバの重魔攻石が『黒い羊』によって掘り出されている。


 そして、その『黒い羊』はケーゴのように世界崩壊時計の針の進みを予言しているのだ。


「ルスリーちゃんそれダメです。めっ!」

 ルスリーの咥えている親指をルナがペシリと叩いた。

「で、ランブルスタに信者が集まっているというのは本当じゃったと?」ルスリーがこの会議に参加している文鳥のピーに確認した。

「うむ、ランブルスタではなく、その先のオーンコール山の麓だがな。ざっと見1000人程度だ。」ピーが答えた。

「1000人!? 1000人は多いぞ。」話し合いに参加している最後の一人エリーが声を上げた。


 エリーはコルドーバ島で戦った連中を思い出して身震いする。

 ケーゴたちがいなかったら、第二特殊騎士隊だけでは絶対に叶わなかった相手だ。


「情報元は、カリストレムのギルドからの連絡じゃったな?」

「そうなの。」

「たしか、ランブルスタに信者が集まっているという話じゃったか?」

「あってるの。」

「ルナの言うとおりだ。ランブルスタの住人はほとんど信者になっているようだ。オーンコールの信者たちも頻繁に出入りしている。」ピーがルナの返事を補足した。

「ランブルスタはオーンコール手前の見張り砦というわけじゃな。」そう言って、ルスリーは椅子の肘掛けに肩肘をついて困ったように頬を支えた。「さて、二特を出したいところじゃが、さすがに1000人を相手に上手くやれと言っても無理じゃろうし。エイイチも何ぞエルム火山のクエストがオープンになったとか言って喜んで出かけてってしまったしのう。」

 と言いながら、ルスリーはアルファンの有名クエストがこのタイミングで急に公開されたことに違和感を感じていた。

「こんな時にケーゴがいてくれれば・・・」エリーが不安そうに呟いた。

「本当なの。どこ言っちゃったのかなぁ。」ルナも心配そうに呟く。

「ケーゴならランブルスタに居たぞ?」ピーが言った。

「なんだって!?」

「ほんとに?」

「なんじゃと?」

 三人は驚いて立ち上がった。


* * *


「もう動き出しちまったから、ここから失敗だの延期だのはなしだ。」王の間でユージはミュールに告げた。


 ユージはご機嫌にはべらせていた女性の尻ををひっぱたく。

 彼女はなんの反応も示さない。

 正解の反応だ。

 彼女たちは今、自我を求められていない。


「はい、全て堅調でございます。大使徒様。」ミュールはかしこまって答えた。

「エルダーチョイスの剣はすでに手元だ。宝珠も効果を確認した。魔導砲も数日中には完成する。あとは槍だけだな。」

「ご安心下さい。エルダーチョイスの槍と使徒ケーゴはすでにランブルスタにございます。」

「いいね。」ユージは極めて上機嫌で呟いた。「ケーゴは何をしている?」

「こちらのことを探っているご様子ですな。」

「やっぱ敵対するか。道具を大事にする優しいガキだったしな。」

「ケーゴ様には、すぐにこちらに参らせるよう致しましょう。」ミュールは自信満々に答えた。


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