出戻りケーゴ
村に帰ってきた俺だが、日中自由にプラプラしていると怪しまれそうなので久しぶりにカウンター業務につくことになった。
スージーやカムカと話し合った結果なんだけど、なんか上手いこと使われてる気がする。
お姉様方が誰も居なくなって、オレ一人でカウンターを回している状態だ。
とは言え、4万ずつに小分けされた袋を村の人達に売っていくだけなのでむしろ昔より楽。
積極的な情報収集はできないが、客と話していれば分かることも多い。
「ケーゴ君じゃないか。帰ってきたんだね。」
「はい、すみません。俺には冒険者無理でした。」
「そうかそうか、残念だったね。でも良かった、魔石が4万しか買えなくなって困ってるんだよ! 君からスージーになんとか言ってくれよ。」
「いやぁ、なんでも最近この辺りに住み着いた宗教団体の大使途とか言う人が魔石が必要とかで大量に買われてしまっていて魔石が不足中なんですよ。」
「そうか、大使徒様が望んでるんじゃあ、しょうがないねぇ。」
今のパターンは洗脳の浅い信者。
「おっ! ケーゴくん!」
「リックさん! カリストレムではどうも!すみません、冒険者は無理でした。」
「そうか。残念だ。じゃあ、ぜひランブルスタの衛士なってくれよ。最近人も増えてきてるしね。」
「ぜひ雇ってくださいよ。マディソン商店に戻ってきたのはいいんですけど、なんでも最近この辺りに住み着いた宗教団体の方の大使途とか言う人に魔石を買われて、売る魔石がないもんだから商売上がったりなんですよ。」
俺のその言葉を聞くなりリックは俺の胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「ケーゴくん。『黒い羊』は宗教じゃない。それに大使徒は【人】じゃない、【人間】だ。我々と同列に扱っちゃダメだよ、いいね!」
そして俺の顔面すれすれまでギリギリにまでにじり寄って俺をにらむ。
しばらく、リックは怯んでいる俺を睨みつけた後、乱暴に突き放すと、「二度と大使徒の名を軽々と口にするな!」と言い放って、魔石も買わずに帰っていった。
こんな感じで訳のわからないキレ方をしてくる人が居る。
このパターンがめっちゃ洗脳されている信者。
でも、今回の場合はそれを装っている非洗脳者。
リックのやつ俺の胸元にメモを忍ばせていきやがった。
後で読もう。
今の所、
軽洗脳者 4
重洗脳者 10
非洗脳者 1
洗脳されてるからってみんな何かをしてくるわけじゃないんだけど迂闊なことはできんな。
いつ妙なキレかたされるか解らんし。
もし、ヌサさんを助けたのが俺だとバレたら村中を相手にせにゃならんかもしれない。
負けんとは思うけど。
「あら! ケーゴじゃない!」
と入ってきたのはマリアナさんとクロエさん。
二人揃ってクビになった職場に登場。
俺のことを探りに来たかな。
「マリアナさん! クロエさん! お久しぶりです。辞めたって聞きましたよ。なにがあったんですか」
「辞めた!? クビになったのよ!」
「私たちに給料払うのが嫌なんだって!」
「はぁ? そうなんですか? 仕事が回らないってカムカさんが嘆いてましたよ? だから俺も戻してもらえたんですけど。」
「そりゃ回らないでしょうよ!」マリアナさんはご立腹の様子で言った。
「なんで、私たちには給料払わないでケーゴには払うのよ!」
「へ? 俺? 給料貰ってないですよ?」
ここらへんの設定はスージー、カムカとも織り込み済み。
てか、ほんとに貰ってねえし。
「は? タダ働き? 馬鹿なの?」
「でも、宿は出してもらえますし。働いても働いても借金が増えてく状態だった昔に比べたら全然マシですよ。」
・・・よく考えたら昔の俺やばくねえか?
「あんたねー。」
「また稼げるようにすればいいんです。」
「今のスージーがそんなの許すと思う?」
「やっぱそうですか? ボス、気難しくなったような気がするんですよね?」
「気難しいってもんじゃないわよ。超ドケチの守銭奴になってるじゃない。」
「それはもとからじゃ?」
「そのうちあんたにも分かるわよ。」
と、二人は露骨は目配せをすると、ニタリと不気味に笑ってカウンターに身を乗り出してきた。
「そんなことより、ケーゴさあ・・・
先手必勝!
「そう言えばヌサさんはご一緒じゃないんですか?」
こっちから先に質問する。
「「は?」」
機先を制されて明らかに狼狽する二人。
「い、一緒なわけないじゃない。」
「なんで一緒だと思うのよ?」
「みんな揃って辞めたって言うからてっきり、ヌサさんもお二人と一緒にいるものかと。」
「こっちこそヌサを探してるのよ。ケーゴは見かけてない?」
「いいえ。まったくもってちっとも知りません。」
顔に出てないかな?
「そう言えばスージーもヌサさんだけ探してるみたいですけど、なんかやらかしたんですか?」
「別に、特になにもないわ。」
「そういえばさ、ケーゴって馬車に乗ってきた?」
「俺っすか? いや、普通に歩きですけど。そんな金あるわけないじゃないですか。」
「・・・それもそうね。」
「なんかあったんですか?」
「男一人と女二人が乗った乗合馬車が村の人を襲ったんだって。一人は鞭使いで一人は弓を使うみたい。」
「ここに向かう途中は一台だけ馬車とすれ違いましたけど。でも、男一人と女3人乗ってたはずです。」
マリアナさんとクロエさんがコソコソと話し合う。
「その馬車はどっちに向かってた?」
「普通にすれ違ったのでカリストレムだと思いますが。昨日のもう夕暮れギリギリです。他にも見た人はいると思いますよ。」
実際にその時間マッコとヌサさんを乗せた馬車がカリストレムに向かってる。
囮にするのも打ち合わせておいた作戦のうち。
仮にヌサさんまで行き着いたとしても、ニキラさんが守ってくれるはずだ。
「ふーん。」
マリアナさんがぐっと顔を近づけて俺を試すように見つめる。
どっちかってと緊張よりドキドキする俺、情けない。
「・・・ありがと。」
マリアナさんはニコリとも笑わずにそう言うと、二人は魔石を買うでもなく店を出ていった。
椅子にどっしりと腰を落として、吹き出てきた汗を拭う。
『俺はヌサさんを知らないこと』
『ヌサさんを助けた馬車が俺とは関係ないこと』
この2つを二人に植え付けられただろうか?
半信半疑でもいい。彼女たちの言葉から敵が馬車に関して調べてくれれば、実際にそんな馬車があったことはすぐ分かるはずだ。
そうすれば多少は時間稼ぎができる。
仮にどっちも信じてもらえなかったとしても『スージーが守銭奴の洗脳から解けていない』という点が刷り込めてれば最悪OKだ。俺の身はなんとでもできるし。
自由に動けるうちに、相手の目的、それが分からなくても、洗脳を解く方法と洗脳に使われていると思われるマジックアイテムの情報を手に入れないといけない。




