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逃亡者

 マッコを加えた俺たち4人はカリストレムの近くにあるコルマリという街まで乗合馬車を使って移動。

 そこか幌馬車をチャーターしてランブルスタを目指す。

 ちょっと足を伸ばせばカリストレムだけど、それは帰りに寄ることにする。


 あと数時間でランブルスタに到着といったところで、ヤミンが何かに気がついた。


「この先で誰か襲われてるみたい!」

「御者さん! 急いで!」リコがそう言いながら剣を抜いた。

「ええっ!? はい。」御者が驚く。

「戦いの少し前で止めてくれていいですから。」御者に声をかけて、俺も自分の鞭に手を伸ばす。

「は、はい。」御者さんが緊張気味に馬車のスピードを上げた。

 ヘイワーズさんも最初会った時はこんな感じだったよなあ。


「逃がすな! 殺しても構わん!」


 前方にヤミンの聞きつけた騒ぎが見えてきた。

 一人の女性が追いかけられている。


「ケーゴ! あの人達!」リコが叫んだ。

「うん。」


 追っている方は見覚えがある。

 正確には格好に見覚えがある。

 6人の黒い衣装の集団。

 コルドーバ島で襲ってきた連中と似た格好だ。

 うすうすそうかもと思ってたけど、マッコの言っていた宗教の奴らってのは俺たちのことをコルドーバで襲ってきた奴らと同じで間違いないだろう。


 逃げているのは、女性一人。

 こちらは普通の格好で、よくいる・・・・ん?


「ヌサさん!?」


 マディソン商店で働いてた時の俺の先輩のヌサさんだった。


「たすけてぇ!」

 ヌサさんが俺たちの馬車に気づいて声を上げた。


「ここで! 大丈夫!」御者に声をかけて馬車を急停止させる。

「マッコはここで待ってて。」

 俺とリコは急停止した馬車の慣性を利用して馬車の外に飛び降りて同時に駆け出した。

 ヤミンも馬車の御者台に踏み込んで弓を構える。

 

 黒装束の集団がヌサさんに迫るが、振り上げた手をヤミンの矢が射抜く。

 ヌサさんの真後ろまで迫っていた黒装束が悲鳴を上げてうずくまる。


「なんだ!貴様ら!?」

 黒の集団はこちらに気づいて声を上げるも、ヌサさんを追いかける足を止めない。

 数人がヌサさんに迫る。

「それはこっちのセリフだよ! 【無力化】! 【同時攻撃】!」

 エルダーチョイスのちょっとだけ伸びる鞭を振るう。


 【無力化】と【同時攻撃】はコルドーバで新しく憶えたばかりのスキルだ。

 コルドーバっていうかイップス明けに突然憶えた。

 なんかこれ以外にもイップス明けにものっそスキルが伸びてる。

 アルファンでもスランプ後スキル一気に伸びる説なんてのが流れてたし、そういう仕様があるのだろうか?


 俺の鞭がヌサさんに斬りかかろうとしてた男たちの手をきれいな円弧を描いて貫いていく。

 【ウィークポイント】がなくてもこのくらいは朝飯前だ!


「【カバームーブ】!」

 男たちが怯んだ瞬間にリコがヌサさんと黒装束との間に回り込んで、盾を構えた。


「クソ! ダメだ! ひけっ!」

 一人遅れ気味にこっちに向かっていた魔法使い風のリーダーが大声で命令を飛ばす。よく見れば肩に矢が刺さっている。

 

 リコの前の集団は泡を食った様子で俺たちとリーダーを繰り返し見ていたが、ついに、快走を始めた。

 こちらも、無理には追わない。


「ありがとう、殺されるところ・・・って、リコちゃん!? ケーゴ!?」

 ヌサさんがここで初めて俺たちに気がついたのか驚いた声を上げた。

「お久しぶりです。」

「良かったぁ〜。」

 ヌサさんは知り合いにあったので安心したのか、ヘナヘナと座り込んでしまった。


 俺たちはヌサさんを馬車に乗せると、落ち着くのを待って話を聞くことにした。


「何があったんです?」

 リコの持ってたポーションを水で薄めてヌサさんに飲ませながら、事情を尋ねる。

「ランブルスタに怪しい宗教団体が来てるの。」

「はい。マッコから聞きました。」

「マッコ? え? なんであんたこんなところにいるの?」

 ヌサさんが馬車にマッコが同席していることに気がついて驚きの声を上げた。

「え、その、あの、王都に助けを求めに行ったんです。」マッコがしどろもどろで答える。

「そうか。あんたはあっちがわの人間じゃなかったんだね。」

「あっちがわ?」

「そう、奴らの味方。『黒い羊』とかいうの。」


 黒羊!

 ユージの案件だったか。少なくとも転生者側の案件ではあるだろう。

 こうなってくると、話は変わってくる。

 ランブルスタの件にも何かしらのチートがあっておかしくない。


「ヌサさんを追ってきたのが黒い羊の人たちなんですか?」

「そうよ。今はもう村の殆どが奴らの味方よ。後はおかしくなっちゃったか、行方不明になってる。」


 信者になるか、おかしくなるか。

 もしかして、洗脳系の魔法か?

 アルファン時にそういう魔導具がなかったわけではないが詳しくない。


「村の人達はその宗教にそんなに心酔しちゃってんですか?」リコがヌサさんに尋ねる。

「そうよ。もう、みんなあいつらの言いなり。」

「ヌサさんはなんで追いかけられていたんです? 信者じゃないから狩られてるとか?」

「私って宗教とかそういうの苦手じゃない?」

 知らんがな。

「それで、みんなのこと冷めた感じで見てたんだけど、マリアナとかクロエとかも付き合いみたいな感じでそいつらのセミナー?に行ったのよ。でも、私そういうのセミナーみたいなのあんまり好きじゃないじゃない?」

 知らんて。

「だから、私だけ行かなかったんだけど、なんか二人とも戻ってこなくって。おかしいなって思って、昨日、こっそり二人が行った村の集会場まで行ってみたの。こっそり覗いた感じ、黒い羊の偉い人みたいなのが、みんなに白い宝石をみんなに見せながら使徒がどうこう言ってるだけで別段怪しいところはなかったんだけど。」

 怪しいって。

「その時ちょうど別の信者たちが来たから見つからないよう隠れてたら、『アイツラはまだ信仰が浅い。教化して新世界のために犠牲となる覚悟を植え付けなきゃダメだ』って話したのよ! これはやばいって逃げ出したんだけど、逃げるところを見つかっちゃったみたいでマディソン商店にまで連中が私を探しに来たのよ!だから慌てて村から逃げ出したの。」

「うえ。それ、ヌサさん、ランブルスタに戻るのやばいっすよね?」

「うん。たぶん。」

「とりあえず、マディソン商店に行こうと思うんですけど、スージーやカムカは信者になってたりはしないんですか?

「信者ではないけど・・・」

「ないけど?」

「スージーがちょっとおかしくなっちゃって。」

「どう?」

 ヌサさんも言うのなら、マッコの言った通りスージーもおかしくなってるってことか。

「お金のことしか言わなくなった。」

 それは以前と何が違う?

「マリアナもクロエも首になっちゃって。」

「へ!? それで店は回るんですか?」

「今は量り売りをしてないのよ。4万の魔石セットしか販売してないの。」


 スージーがついに効率化を憶えた!

 感無量!

 もう洗脳されててもいいじゃん!


「しかも、決められた個数売っちゃうとお店閉めちゃうし。」

「それで儲かるんですか?」

「残りは『黒い羊』に高値で買ってもらってるみたい。」

「兄ちゃんもヘンになったんだ。」マッコが口を挟んでくる。

「あんたの兄貴なんてヤバイの最たるもんよ。もとからヤバかったけど。」

「とりあえず、マディソン商店に行きましょう。」俺は提案する。「ランブルスタで信者を相手にするのはリスクが高そうです。それだったら金への執着が強くなっただけのスージーのほうがくみしやすい。」

 最悪、スージーとカムカなら制圧も楽だ。

「そうね。それがいいと思う。」リコも賛同する。

「二人は俺たちが守りますんで、ひとまずはついてきてもらえますか?」

 俺の言葉にマッコとヌサさんは緊張した顔で頷いた。


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