マッコの依頼
「すげぇ・・・。」
マッコは宿に入ってからずっと、ぽかんと口を開けたまま、高価そうな調度品や高い天井をせわしなく眺めている。
最初にこの宿に来た時のリコとヤミンもこんな感じだったなぁ。
「最初に宿に来た時のケーゴみたいだね。」
「ほんと。」
ヤミンとリコが俺の後ろで感想を述べた。
とても不本意。
宿に圧倒されているマッコを引き連れて、俺の部屋にやって来る。
マッコは通された部屋が小さくも綺麗だったので、勧められた椅子に座ることもなくしばらく部屋の様子を見渡していた。
マッコは一通り部屋を見渡し終わると、安心したのか椅子に腰掛けて俺のほうを向いた。
「お前・・・すごい宿に泊まってるんだな。」
「まあね。」
支払いはリコだけど。
「そんなことより、何があったんだ? どうしてこんなところに?」俺はマッコに尋ねた。
「兄ちゃんがおかしくなっちゃんたんだ。」そう言ってマッコは涙ぐんだ。
「マッゾが?」
ランブルスタに居た時のマッゾを思い出して思わず顔がしかむ。
「兄ちゃんだけじゃなくて、村のみんなもおかしいんだ。」
「どういうこと?」リコが心配そうに尋ねる。
「なんか、怪しい宗教が来てからランブルスタのみんながすごく変になっちゃったんだ。中にはその宗教に入っちゃった人たちも出てきたり。みんなすぐ怒るようになっちゃったし。」
「ちょっと待って、順を追って話してくれる? ちょっとついていけてない。」
「ご、ごめん。ど、どこから話そうかな?」マッコは少し考えてから說明を始めた。「二ヶ月くらい前から村に黒い服をきた怪しい人達が出入りするようになったんだ。」
マッコの言葉に俺たちは顔を見合わせる。
コルドーバで俺たちを襲ってきた連中の仲間だろうか?
「宗教の人たちみたいだったけど、迷惑な布教とかをする様子でもなかったし揉め事を起こす感じでもなかったんで最初は仲良くやってたんだ。でも、そのうち村の中にも信者になる人が増えてきて、ちょっと問題になり始めてきた。」マッコは說明を続けた。
マッゾのことかと思ってたら、何やらきな臭い話になってきたので真面目に聞くことにする。
「そして一ヶ月くらい前から、そいつらが兵士を募りだしたんだ。未経験者可で手厚い社内教育あり高待遇、出来高残業なし。」
そこはかとないブラック企業の匂い。
「そこに兄ちゃんも参加したんだ。」
「意外。いわゆるガードマンだろ? マッゾがそういうのやりたがると思えないけど?」
「今思えば、その時にはもうおかしかったのかもしれない。兄ちゃんはお前に負けたのがずっと悔しかったみたいで、あれからずっと剣の訓練してたんだ。それを見た宗教の奴等が戦いかたを教えてやるって誘ってきたみたい。最初は試しに行っただけだったんだけど、教え方がいいって大はしゃぎで帰ってきたんだ。」
そういや、コルドーバの奴等もやけに強かったな。
リコとエリーの二人を相手にしてた奴とか30レベルくらいあったんじゃないだろうか。
ルスリー曰く30レベルって相当強いらしいんだけどな。
「そして、そこに通うようになった兄貴はどんどん変わっていった。」マッコは話を続ける。「最初は明るくなって、自信もついてきた感じで、俺も父ちゃんも喜んでたんだけど、なんかだんだんイライラするようになってきて、ちょっとしたことでもすぐ怒るし、暴力を振るってくるようになったし、人の話もまったく聞かなくなったし・・・。」
それ、俺の知ってるマッゾそのままなんだけど?
「ついには宗教の奴らについて悪いことを言った父ちゃんを殴りつけて閉じ込めちゃった。今は自分で村長代理を名乗って宗教の奴らと仲良くしてる。」
さすがに村長監禁はやりすぎか?
でも、いつかやりかねない感じはあったような。
「うーん。おかしくなったというより、マッゾ自身の意思なのでは?」
「絶対におかしいんだ。唐突にぶつぶつつぶやくし。」
「ぶつぶつ?」
「だいたいお前の悪口。兄ちゃんめっちゃお前の事恨んでるし。」
「お、おう・・・。」
「兄ちゃんだけじゃなくて、他にもおかしくなった人はいるよ。村のみんなはだいたい宗教の奴らの言いなりになってる。そうでない奴は性格が悪くなってきてる気がする。」
「スージーは?」
「スージーもおかしくなっちゃった。高く買ってくれるからって宗教団体に魔石を流すようになって、村では魔石が不足気味。」
それも平常運転では?
「リックとレックは?」
「リックとレックは二人共、村長代理になったマッゾ兄ちゃんの命令を聞いてるし、ロカは完全に兄ちゃんとつるんでる。なんせ最近兄ちゃんの後ろに宗教の奴らの兵士たちがつくようになったんだ。ランブルスタの衛士程度では歯が立たないよ。」
「ガスはなんて言ってるの?」
本来ガスがリックとレックの上司のはずだ。
「ガスは兄ちゃんに負けちゃった。」
「ガスが!?」
「ガスさんって20レベルくらいあるんじゃないの?」リコも驚く。
「マッゾってそんなに強くなったの?」
「うん。なんか魔法の援護はあったみたいだけど。」
まじか?
俺が言うのもなんだけど、マッゾって弱かったぞ?
「ガスさんはどうなったの? 無事?」リコが心配そうに尋ねる。
「今、ガスと父ちゃんはうちに監禁されてる。俺でも会えない。」
リコと俺は顔を見合わせた。
さすがに、ちょっと行き過ぎた行為だ。
いよいよもって、村の異常さが理解できた。ってか何故、最初にそれを言わん。
「誰も止めなかったの?」
「最初は反対はする人もいたけど、兄ちゃんが適当な理由をつけてごまかしちゃうんだ。」
「そうは言っても、話だけ聞いてると宗教団体がやってきて村長と村の警備を監禁したって聞こえるんだけど。どうして村のみんなは黙ってるのさ?」
「あいつら表向きはものすごい普通なんだ。むしろ、近所づきあいってかんじで食べ物や酒なんかを差し入れしてくれてるから、村全体として宗教の奴らをどうにかしようってのはないんだ。しかも、村の半分くらいの人がその宗教に入っちゃってる。今はもっとかもしれない。」
「そういえば神父さんは?」
「神父さんも改宗しちゃった。」
「うそでしょ!?」
故郷の異常な状態に俺とリコは顔を見合わせる。
「ランブルスタが宗教団体に占領されてたってことまでは分かった。それで、マッコはどうしてここまで?」
「父ちゃんとガスが閉じ込められちゃって、旅の商人さんが王都に行って騎士隊にお願いしてみたらいいってアドバイスをくれて。」
「旅の商人?」
「そう。誰に相談したらいいかも分からなくて途方に暮れてたら、たまたま通りすがりの商人がうちに訪問販売に来たから相談してみたんだ。」
村には信用できる人間がいないってことか。
「王都に来て騎士隊にお願いしようとしたんだけど、相手にされなくって。途方にくれていたところにお前が通りかかったんだ。」
そこまで言って、マッコは深々と土下座をした。
「頼む! お前たちしか居ないんだ。兄ちゃんたちを助けてくれ!」
「その・・・俺の母はどうなってる?」
「ザニアは信者になった。」
「そっすか・・・。」
酒くれるんじゃしょうがねえか。
「えーと・・・
リコとヤミンを振り返る。
「私は別にいいけど?故郷の危機なんでしょ? ケーゴ以外は幸いふところに余裕もあるし。」ヤミンが俺の問いかけを待たずに答えた。「それにこんなにお友達が困ってるんだもん。見捨てるわけにはいかないよね。」
お友達・・・。
「ありがとう! ありがとうございます!」マッコがヤミンに向けて何度も頭を下げ始めた。
俺はリコと困ったように顔を見合わせる。
「様子を見るだけでも行ってみましょ。村のみんなも心配だし。」と、リコも言った。
「うーん、そうだね。」
まあ、いっか。
アサルもなんか不穏なこと言ってたし。
さすがに状況がワケわからなすぎて心配。
こうして、俺はランブルスタに里帰りをすることになった。




