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大使途ユージと商人ミュール

 とある遺跡の広間。

 正確に述べるなら、大使徒ユージが誰にも見出されていなかった遺跡を発掘し、増築するように建てさせた城にある王の間と呼ばれる場所。


 広間には玉座がひとつ。

 そこには若い青年が威厳を示そうとする様子もなく、ただふてぶてしく座っていた。

 玉座の前にはかしこまっている男がひとり。

 さらに裸の美女が四人、王座の両脇に控えている。

 彼女たちはただのインテリアだ。ユージーが命令するまではただ黙って控えている。そして、ユージが望むときは使われる。

 その時に彼の望む反応を示すのが彼女たちの役割だ。間違えれば殺される。


 裸の女たちが取り囲む玉座に深く腰をかけているのはユージという青年。

 彼に対面するのはミュールと名乗る商人。

 ミュールはユージの前に身を小さくして座り、ユージを見上げるようにして、王都での行動の報告を行っていた。


「大使徒の障害となりそうなのはエデルガルナとエイイチ、後は気にするべきはレンブラントくらいでしょう。アルソンフはここしばらく姿を現していません。王都ではエデルガルナのほうがエイイチよりも強いとの評判にございます。」

「やはり、気にすべきはエデルガルナとエイイチか。」とユージは呟いた。「俺とどっちが強い?」

「魔法があればユージ様でございます。ただ、単純に剣の腕のみでは大使徒様と言えど敵いますまい。」

 商人のあまりに正直な返答に周りの女たちが小さく息を飲んだ。

「正直で良いな。」

 ユージは商人の率直な意見を気にする様子もなく商人を褒めた。

 なぜなら、ミュールが今、ユージより強いと述べた彼らもまた転生者であることをユージは知っていた。


 エデルガルナとエイイチの二人は転生時に強い能力を与えられた二人だ。

 この世界に送られた転生者は環境と能力に差分をつけて生まれている。実験のためだとカムサラはユージに告げていた。

 そして、能力について優遇されたのがユージ、エイイチ、エデルガルナことエルナの三人だ。


「ただ、エデルガルナはジェイク様との戦いにて負傷し、本調子ではないようです。」

 ユージは眉をひそめた。

 ジェイクに大怪我を負わされる程度の強さだとしたら、それはユージにとって脅威とはなりえない。

「エデルガルナが負傷している今こそ王都を攻めるチャンスにございます。エヴァーレイン国の進軍を促しましょうか?」

「王都を落とすことが目的じゃねえ。新たな理を導くのが目的だ。戦争はあくまで時間稼ぎに使う。だから、発射の見通しが立つまでは切り札として取っておく。そのカードを切るとしたらエルダーチョイスの剣と槍が見つかってからだ。」ユージははやるミュールを嗜めるように言った。


「すでにそれらは2つともこちらに向かっております。」ミュールは得意そうに言った。


「なんだと!?」ユージが身を乗り出す。

「剣はアルトロワ王子が王城に保管されていたものを持ち出しまして、もうすぐこちらに到着します。槍のほうはこちらにはまだ届きませんがすぐ近くのランブルスタという村に向かっております。」

「すげーな! お前!」ユージは喜びを全面にミュールを褒めた。「いったいどうやった?」

「王子には大使徒より頂いた魔導具を使い、妹殿下に対する劣等感につけこみました。槍の持ち主については面識がございませんでしたので、彼の知り合いを利用しておびき寄せました。」得意そうにミュールは言った。

 ユージは表情を崩さなかったが、内心、ミュールが相手の心を理解して的確に魔導具を使いこなしていることに密かに戦慄していた。

「よく王子を呼び寄せられたな。」

「大使徒の魔導具のおかげでございます。」ミュールは恐れ多いとばかりに頭を下げた。「それに我々のもとにはエルダーチョイス本人がおりますので。王子殿下も王城から盗んだ剣をそのまま王城で使うわけにはいきますまい。見ても分からぬように剣の在り方を変えると言えばイチコロにございました。」

「なるほど、エルダーチョイスもそろそろ宝珠が作れそうだと言っていた。仕掛けるのもありかも知れないな。」

「御意。バルザックたちが捕まったので王国もある程度は我々の情報を手に入れていましょう。動くなら早めが良いかと。」

「槍はいつ手に入れられる?」

「槍はひと月もたたずにランブルスタに到着するでしょう。ケーゴという青年が今の所有者にございます。」

「ケーゴ?」聞き覚えのあるユージは記憶の中を探る。

「カリストレムでマスジェネを食い止め、新人狩りを食い止めた冒険者にございます。」

「ケーゴ! あいつか!!」

 ユージは喜んで立ち上がった。


 ケーゴもユージと同郷の士、日本からやってきた転生者だ。彼にとって、この世界における数少ない人間の一人だ。


「お知り合いで。」

「おい! そいつを生きたまま俺のもとまで連れてこい。」

「は?」

「絶対にだ。」ユージは有無を言わさぬ口調でミュールに命じた。


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