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王国の功労者たち

 王城の前の広場。

 荘厳な舞台の中央には王がたち、眼前の舞台下にかしこまる部下たちを見下ろしている。

 王の両側には近衛騎士たちが王の威厳を誇示するかのように並んでいる。

 そして、王の視線の先には第二特殊大隊副隊長エルマルシェを先頭とした22名の騎士たちが膝をついてかしこまっていた。


 彼女たちの事を見守るかのように、第一から第三騎士大隊と第一特殊大隊が広場の両側に並んでいる。

 彼らに混ざって、同じ第二特殊大隊の隊員であるルスリーとエデルガルナも彼女たちのことを嬉しそうに見ている。

 一方、そんなルスリーのことを第二特殊大隊を挟んで反対側からアルトロワ王子がものすごい顔で睨みつけていた。


「此度、王国の発展に大きく貢献し、さらには王都の危機を救った功勲を称え、第二特殊大隊に紫玉褒章を授与する。」国王が高らかに宣言した。

 

 紫玉褒章はアアル国で国に対して大きな大きな貢献を成した騎士隊に叙される勲章だ。

 第二特殊大隊がこの褒章を与えられるのは始めてのことだった。


 第二特殊大隊はコルドーバ島にて、巨大な魔石窟を発見した。

 彼女たちの功績はそれにとどまらない。

 彼女たちはつい十日前に反政府団体と指定された団体『黒き羊』の中核を成すバルザック司祭を逮捕した。

 さらには、『黒き羊』によってコルドーバ島の魔石窟へ拉致監禁され労働力として働かされていた人々を助け出した。

 そしてその人々は、ここひと月の間、王国各地で発生し問題となっていた行方不明事件の被害者たちであったのだ。

 

 行方不明事件の解決は本来第一特殊大隊に課せられていた仕事だった。

 第一特殊大隊の責任者であるアルトロワは本来自分の手柄になるべき案件をさらっと横からかっさらわれてしまったので、この叙勲式の開始からずっと妹のことを怒りの形相でにらみ続けていた。


「代表、第二特殊大隊副隊長エルマルシェ! 前へ!」

 王のすぐ隣の騎士が直立状態のまま大声を張り上げた。

「はっ!」

 エルマルシェはよく通る声で返事をして立ち上がり、舞台上へと進み出た。

 堂に入った仕草だが内心はかなり緊張している。


「此度の活躍見事であった。貴殿らの活躍により多くの民が救われた。また王都各地で起こっていた行方不明事件を解決し、さらには反政府組織による襲撃計画を察知することもできた。王国を代表する騎士隊に素晴らしき働きである。」

 王はそう言って、振り返ると後ろに控えていた騎士から紫の小さな宝石のついた銀鎖のペンダントを受け取った。

「よって、第二特殊大隊に紫玉褒章を授与する。代表としてエルマルシェ、前へ!」


 エルマルシェは王の前に進み出て膝をついた。

 王は少し屈んでエルマルシェの首に紫玉褒章のペンダントをかけた。


「今後もルスリーと国のために尽力してくれ。」

 王がエルマルシェにだけに聞こえるように言った。

「はっ・・・ははっ!」

 エルマルシェは王からの直接話しかけられたのは始めてだったので、感無量で深々と頭を下げた。


 観覧の兵士たちが大きな拍手を捧げ、叙勲式は無事終了した。

 それは第二特殊大隊にとって、彼女たち自身の手によって掴み取った始めての栄誉だった。


 叙勲式が終わり、観覧の騎士たちが整然と帰っていく中、エルマルシェと第二特殊大隊の元へルスリーとエデルガルナがやってきた。

 コルドーバ島に行く前は松葉杖をついていたエデルガルナだったが、今はいつもの堂々とした佇まいでルスリー王女の横に控えていた。

「良かったぞ。」ルスリーが叙勲式でエルマルシェの立ち振舞いを褒めた。

「もったいなきお言葉にございます。」エルマルシェがルスリーに頭を下げた。

 そう言ったものの、エルマルシェは極めて不安そうだ。

「何をそんなに困ったような顔をしておる。皆、強くなったとケーゴから聞いているぞ。」

「何分、今回の探索の結果が運に恵まれすぎていまして・・・。」

 エルマルシェとしては、コルドーバのモンスターの危険度を調べ、あわよくば上陸に好ましい場所と園周辺の安全確保の見積もりが出せれば良いと考えていた。

 それが、最近王都で問題になっていた新興宗教の司祭を捕らえ、その後、希少な魔石の眠る鉱山を発見し、さらにはその鉱山で奴隷として働かされていた市民を発見し救出した。しかもその市民たちは第一特殊騎士隊が血眼になって探していた王国の行方不明者たちだった。

 エルマルシェの予測していなかった幸運がコルドーバ島の最後の数日でその手に転がり込んできたと言っても過言ではない。


「そうだ! お前らなんてただ運が良かっただけだ!」


 ルスリーたちを指さしながら遠くから歩いて来たのは王子アルトロワ。

 彼は叙勲式そのままの険しい顔でルスリーたちを睨んでいた。


「お前らなんて!お前らなんて、運だけだ!」

「語彙がないのう。たった今言ったことの繰り返しではないか。」ルスリーが言葉足りないアルトロワを揶揄する。

「うるさい! うるさい!」

 もともと彼に課せられていた仕事を横取りされて、アルトロワは面目が潰されたと怒り心頭だ。

「国民が無事に見つかったのだから兄上は喜ぶべきであろう。」

「ぐっ!喜んでるやい! 僕はただお前たちの手柄はただの運だって言ってるだけだ!」

「運で結構。」実際ルスリーは失踪者まで見つけてくるなんて露ほども思っていなかった。「行方不明者を見つけられなんだ兄上の運が悪かったのじゃろうて。」

「そうだい!」

「そうじゃな。」

「なっ!」

 ルスリーに全く相手にされなかったのでアルトロワは顔を真っ赤にして歯を食いしばった。

「お前らなんかの実力じゃ、すぐに馬脚をあらわすに決まってるさ。」

 そう言って、アルトロワはくるりと振り向くとガニ股で去っていった。


「兄がすまんの。気にする必要はないぞ。」アルトロワが行ってしまうと呆然としている騎士たちに向けてルスリーは謝った。

「は、はぁ。」エルマルシェは呆気にとられたまま生返事を返した。

「他人の言葉に翻弄されるな。お前らがどのくらいの位置にあるかはお前ら自身が理解しておろう。」ルスリーは続けた。「コルドーバに行く前のお前たちと比べてどうじゃ? そして今のお前たちはどうだ?」


「強くなりました!」

「己の未熟さを思い知りました。」

「まだ、もっと強くなれる気がします!」


 騎士隊の面々が自信満々に答えた。

 それは、謙遜や王女に対する建前ではなく、本心からの言葉であった。

 コルドーバの二週間がどれほど彼女たちにとって有意義であったことか。


「殿下。」

 エルマルシェが突然、王女の前に跪いて頭を下げた。

「己の位置を確認するために、一つお願いがございます。」

 今までルスリーの横で黙って聞いていたエデルガルナもエルマルシェの隣に跪き、頭を下げた。


「なんじゃ? 言うてみい。」

 困惑した様子で尋ねたルスリーにエルマルシェは真剣な顔で言った。


「エデルガルナとの決闘を許可いただきたい。」


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