襲撃
「武装した集団がこっちに向かってきています!」
突然のマーガレットの報告にみんな色めき立つ。
「すまぬが決闘は中止だ。」エリーがリコに頭を下げてから、周りでうろたえている騎士たちに叫んだ。「みな落ち着け!」
「まずは現状確認を! ヤミン!」リコもすぐに状況に順応する。
「50人以上の集団がこっちに向かってきてる。全員きっちり武装してる。魔法使いも何人か居るみたい。」すでに木の上に登っていたヤミンが遠くを見渡して状況を伝える。
50人以上って結構な集団じゃねえか。
「急いで、武器と盾を準備してここに集合。鎧は間に合うだけでいい! エリーは全員集まったら隊員への指示をお願い!」
俺の指示を聞いて騎士たちが慌てて走り出す。
ヤミンも魔法で狙撃されないように木から降りてきて弓を準備した。
騎士たちも武器と最低限の防具を装備して集合する。
俺とエリーとリコとヤミンが前に出て、残りの騎士はエリーの指示に従い背後を作らないように円形に陣を組んで応戦体勢を整える。
相手側はこちらが狼狽しているのに気づいていないのか、突撃してくる様子もなく、ゆっくりと俺たちのもとに姿を現した。
黒い服に鉄の胸当てをつけた質素な格好で武器はまちまちだ。
統一されていない武器の集団は統率が取れてないだけで扱いやすいケースか、それぞれ個別の才能に合わせて武器を選んでいる合理的な相手で非常に苦労するケースのどちらかだ。
この敵は間違いなく後者だ。
彼らは俺たちの前に横二列に整列して足を止めた。
「なんだ! お前たちは。」エリーが相手を威嚇するかのように大声をあげた。
エリーの声に呼応するように、敵の列の真ん中を割って一人の男が歩み出てきた。
「あなた達こそ、こんなところでいったい何をしているのですか?」
彼は鎧は着けておらず武器も持っていない。黒いダボついたローブのような服を着ている。
背中に何かを背負っているが剣ではなさそうだ。
なんだろう? 杖だろうか?
「あ! あんたっ!」ヤミンが声を上げた。
ヤミンの知り合いか?
「貴様っ! あのときの!」男の方も声を上げて人差し指を突き出した。
「俺!?」
男の人差し指は俺を指し示していた。
俺も知り合いなの?
「まさかこんなところで再会しようとは!」男が叫ぶ。
「誰だっけ?」ヤミンに尋ねる。
「ほら、カリストレムの冒険者ギルドに来た感じ悪い司祭。」
ああ!
カリストレムのラミトス神殿の司祭か!
街からも教会からも追放になったって聞いたけど。
名前なんだったっけ?
「くっくっく! まさかこんなところで再び相見えようとは!」司祭は邪悪な笑みを浮かべた。「まさに大使徒様のお導きよ!」
大使徒?
「このような場所にわざわざやってくるということは、この中に外界の使徒が紛れ込んでおられるのであろう?」
使徒?
さっきから、相手の言ってることが宗教的すぎて分からん。
ラミトスの関係?
「カリストレムの司祭とやらがなんでこんなところに居る?」エルマルシェが司祭に尋ねた。
「司祭? 私は司祭などではありませんよ。ただの人です。人間に仕えしものです。私は外なる世界より来たれり新たな使徒を探しているのです。」司祭はにこやかに笑いながら答えた。
外なる世界?
転生者ってことだろうか?
「新たな使徒? 貴様が何を言っているのかさっぱり分からぬ。」
「そうかね。ならば、この魔導装置でみな死ぬがいい!」
司祭はそう言って背中に背負っていた何かを構えた!
マシンガン!!
「みんな伏せろぉっ!!!」
俺はとっさにリコに飛びついて押し倒し、覆いかぶさって庇うように抱きしめる。
司祭が乾いた炸裂音をさせてマシンガンを掃射した。
「け! ケーゴ?」突然押し倒されたリコが驚いて声を上げた。
「き、貴様、破廉恥な。この一大事に何をしているかっ!」エリーが怒声を飛ばしてくる。
あれ?
みんな無事?
なんか、みんなが抱き合って転がっている俺たちのことを白い目で見ている。
ちょー恥ずかしい。
マシンガンぶっ放されたと思ったのに。
空砲だったのか?
マシンガンを掃射した司祭が驚きの目で俺を見ている。
「ばかな、貴様が・・・なぜ、この武器を知っている!! 貴様が!貴様が使徒だと言うのかっ!」
司祭はマシンガンを投げ捨てて自分の両頬を両手で鷲掴みにした。
「ちょっと、ケーゴ、一体どうしたの?」リコは俺に抱きしめられたまま身じろぎもせず俺を見上げている。
「ええい、二人ともとっとと離れろ!」
エリーが地面に転がったままの俺たちを引き剥がしにかかった。
「こいつが! こいつが! こんな奴が使徒だと言うのか!」
司祭は苦悶の表情を浮かべながら自分の顔をもみくちゃにする。
「とっととリコからどかぬか、痴れ者。」エリーが叫ぶ。
「そんな言い方ないでしょ! ケーゴだけが気づいた何かがあったからだもん。」リコが反論する。
「この状況で何に気づいたと言うのだ。不埒な貴様は男に抱きつかれて嬉しいだけだろう。」
「ヤミンお姉ちゃんも、その喧嘩混ぜて?」
「ラミトスのときに加え、また私の邪魔をするのか!この小僧は、この小僧は、この小僧は!!」
「はぁ? 何を言ってるの? 男の人が女の人に覆いかぶさってるの見たからって、すぐそういうの想像するほうがおかしいんです。」
「そそそ、そういうのだとっ!?」
「おやおや、エリーさん。そういうのって何だと思ったのかな〜?」
「ヤミン! 混ぜっ返さないで!」
「リコリコ、エリーさんまた顔真っ赤だよ。」
「違うっ! そんな訳はない。こいつが使徒であるはずがない! これはなにかの間違いだ!」
「こ、これは、貴様が不埒なことばかり言うからだ。」
「不埒なのはあなたじゃないの。むっつりスケベ。」
「むむむ、むっつりスケベだと?」
「そうだ! こいつはまたも騙っているのだ。今回もまたそうに違いない! こんな奴が使徒であってたまるものか!」
「貴様ら、愚弄しおって! やっぱり、さっきの続きといこうか!」
「望むところよっ!!」
「あ、弓士なんで物理的な喧嘩はご遠慮します。」
カオス!!
えっと。
俺、もうとっくにリコから離れてましてよ?
今よく見ると、司祭の持ってたの、黒く塗っただけのマシンガンっぽい形の木彫りのオブジェに見えます。
足元には爆竹も落ちてます。
早合点して、本当にごめんなさい。
にしても、どうしてこうなった?
このカオスを収めるべく説明を始める。
「あのー。俺、てっきり魔導武器の攻撃がくるものと思って、リコをかばおうとですね・・・。」
「ケーゴは黙ってて!」
「もはや、これは我々の問題だ!」
「そうだ! お前が神の使徒であるわけがない!」
「いつもいつも、ケーゴがにぶすぎるのが悪い!」
ええぇ・・・。
「みなさん! ほんとにいい加減にして下さい!それどころじゃないですって!」後ろからマーガレットが叫んだ。
その声にようやくみんなが我に返る。
「そうでした。信者たちよ! その身を大使徒のために捧げよ!こいつが使徒のはずがない。この場の全員、殲滅しなさい!【祝福】【戦意高揚】! 」
「ちっ、一時休戦だ。」
エルマルシェはリコに吐き捨てるように言うと敵に向かって剣を構えた。
「別にあなたと戦ってるつもりはありません!」
リコも答えながら剣を抜いた。
「いいから、やるよ!」ヤミンが魔法の弓に矢を召喚した。
「さあ、皆殺しです!」司祭が叫んだ。
こうして戦闘が始まった。




