コルドーバ島はまだ落ちつかない
コルドーバにある鉱山の中に作られた広い一室。
一人の司祭が信者たちの前の簡素な椅子に座り、部下の報告を受けていた。
司祭とはいっても出で立ちはかなり質素だ。
「何者かが上陸してきただと?」
部下の報告を受けた司祭は眉を潜めた。
「は。数は20名ほど。女ばかりでございます。」
「女とな?」
「は。女にはございますが、武器の扱いに長け、何かしら戦いを生業とする者たちかと存じます。」
「ふむ・・・。」
司祭バルザックは眉を潜めながら考え始めた。
バルザックはもともとカリストレムのラミトス神殿の大司教だった。
だが、神の信託を聞いたと騙る若者のせいでその座を追われた。
そして、あてもなくさまよっている所を大使途ユージに拾われた。
バルザックは大使途ユージと話してこの世界の真実を知り、自分のことを貶めた教団どころか、ラミトス神自体がまがい物の存在であることを知った。
もともとが盲信的な性格だった彼は、世界崩壊時計が時を刻む瞬間を大使途ユージが見事予言したことによって完全にユージの信奉者となった。
バルザックにとって、自らを貶めた世界が、アアル王国が、ラミトス神殿が、すべてまがい物であり、王国人の都合のために都合よく捏造されたものであるという大使途ユージの言葉は非常に納得のいくものであった。
今、彼の目の前に居る多くの信者たちもそうだ。
みな、このおかしな世界において、不条理に貶められた人間たちだった。
世界の歪みが彼らを貶めた。
彼らは間違ったこの世界を正すため、大使途の元で世界を本来の形に戻そうとバルザックの前に集っているのだ。
「こんなところにわざわざやってくるということは、この島の鉱山のことを知ってるに違いありませんね。」バルザックは言った。「もしかしたら彼らも外界からの使徒の可能性があります。念の為に私も参りましょう。」
バルザックには大使途から預かった外界の魔法装置のレプリカがある。
今回やってきた上陸者の中に使徒が居るのであれば、これを使ってあぶり出すことができる。
「もし、その者たちの中に使徒が居るようでしたら、くれぐれも丁重に。絶対に怪我をさせてはなりませんよ。」バルザックは首飾りを掲げながら目の前の信者たちに命じた。
「たとえあなた達の命を失うことになろうとも、決して粗相のないように。」
バルザックの前に控えていた50名を超える未来の殉教者たちはうやうやしく頭を下げた。
彼らはいずれも大使途自らが手駒とすべく鍛え上げた戦士たちだ。
そこらの兵士よりはずっと戦えるのだ。
「我らの命など、使徒や人間様の爪の垢にすら及ばぬことをゆめゆめ忘れないようにしなさい。」
バルザックはそう言ってから思い出したように付け加えた。
「いい忘れました。使徒以外の者たちは恭順しないようなら殺してしまって構いませんので。彼らの命もまた路傍の石と何ら変わりはありません。」
* * *
12日目。
ようやく状況が落ち着いてきたので、今日は俺とリコとヤミンだけ別行動を取らせてもらって、この島で一番強いストーンラクーンという推奨40レベルのモンスターを狩っている。
たまにA級の魔石を落とすので、レベル上げだけでなく俺たちの財布にも優しい。
久しぶりに訓練し放題でちょっと楽しい。
午前中だけで8体狩ってしまった。
こいつについてはハメ戦法がない。魔法も使ってくるし、行動がランダムだ。
二特にはちょっと荷が重い。
足が遅くて縄張り意識も強いモンスターなので逃げるのは簡単だから他のみんながやられるは心配ないが、念のためできるかぎり間引いておきたい。
レベリングができればリコの機嫌も治ってくるかなと思ったけど、相変わらずちょっと不機嫌な気がする。
長年の付き合いのせいで、俺の中のセンサーが反応してしまうのだ。
もしかして、カジノで有り金全部すった件がまだ尾を引いてるのだろうか?
船に乗る前あたりは海とか見て機嫌良かった気がしたんだけどなぁ?
「全然機嫌悪くないわよ?」と不機嫌に言うリコを連れて俺たちは拠点に戻ってきた。
現在の拠点はみんなの成長に合わせて上陸した海岸から移動してある。
今は狩り場にアクセスしやすい小さな林の中だ。
ちょうどお昼のために戻ってきた二特のみんなが俺たちと合流する。
「ケーゴ様。おかえりなさい。そちらはどうでしたか?」フレイアが俺に駆けよってきた。
「ストーンラクーンを8体とヘルドラゴンフライを1体だね。魔石も当たり引いた。」
「おお、さすがケーゴ様ですわ。」ミリアも駆け寄ってきてぴょんぴょんと跳ねる。
他のみんなも次々と駆け寄って来た。
「私たちも、ヘルドラゴンフライを4体倒したんですよ!」
「それもエリー様のサポートなしですの!」
「レッドドラコニブルやゲルブローブなんかも倒せた。おかげで今日もスキルが上がったぞ。」
「わたくしもですわ! 是非ケーゴ様にスキルをチェックしてほしいですの。」
みんなが俺のことを取り囲んで口々に今日の成果を報告してくる。
みんな良い生徒で嬉しい限りだ。
「お前たち! よさないか。ケーゴは色々と忙しいのだ。」エルマルシェがレベルアップに喜んでいるみんなを諌めた。「ケーゴ。この後、食事でもしながら午後の動き方について話し合おうか。」
愛称を許してくれるようになったエリーは俺に対してもだいぶ人懐っこく接してくれる様になった。
もともとはこういう感じの娘なんだろうな。
「うん、エリー。かまわな・・・
「ケーゴを休ませてあげてくれませんか。ケーゴにだってやりたいことはあるんです。」
俺の返事をかき消すようにリコが割り込んできた。
俺のセンサーなんて必要ないほど苛立ってるのがまる分かりなんですが。
「悪いが、これは今後の探索に関わる重要な話し合いだ。是が非でも参加してもらいたい。」
「なら、私もご一緒しますわ。いいわよね? ケーゴ。」
と、いいながらリコが俺の腕に腕を絡ませて勝手にどこかに行かないようにするかのようにロックした。
「え? まあ、そりゃ、かまわな・・・
「リコ殿がいたところで話は変わらないし、ケーゴ殿の負担も変わらん。これは隊長同士の大事な話し合いだ。」
俺の返事をかき消すようにエリーが割り込んできた。
エリーもなんか苛立ってません?
「うちのパーティーの隊長はヤミンですけど? ヤミンと話したらどうですか?」
「私はケーゴと話があるのだ。」
「ご自分一人では何も解決できないんですか?」
「人に頼ることは大事なことだ。私は貴殿のように常にケーゴ殿にぶら下がっているわけではない。貴殿こそケーゴ殿を自由にしてやったらどうだ。」
「ちょ、ちょっとふたりとも・・・」
「「ケーゴは黙ってて。」」
「あ、はい。」
二特のみんなもリコとエリーの言い合いを遠巻きに気にし始めた。
でも止める様子はない。
なんでみんなちょっと楽しそうなん?
そしてリコに腕を抱え込まれている俺、二人の間から逃げられない。
「ケーゴの人の良さにつけ込むのは止めてください。」
「貴殿こそ、ケーゴに付きまとうのはやめたらどうだ。」
「私はケーゴの仲間だから一緒に居て当然です。あなたこそ、あなたの騎士団のことでケーゴに負担ばかりかけないでください。」
「ケーゴ殿は二特を強化する上で必要な御仁だ。これはひいては国のためである。」
「弱いからって、いくらでもワガママ言っていいわけじゃありません。」
「貴様、二特を愚弄するか!」
エルマルシェが手にはめていた篭手を地面に投げつけた。
周囲のみんなの動きが完全に止まった。
静寂があたりを包んだ。
その静寂を切り裂いてエルマルシェが叫んだ。
「貴様に決闘を申し込む!!」




