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非効率なステータスシート

 ここ数日、一日の探索が終わった後にみんなのスキルをチェックして、空き時間にどんな訓練をしたらいいかをアドバイスしている。

 これは騎士団のみんなからお願いされて始まったことだ。

 毎晩食事の後、ひとりひとりに時間を取ってあげている。

 呪文とか一部のスキル、普通は【クリティカル】もなんだけど、訓練じゃないと伸ばしにくいスキルってのがある。そこらへんをどう伸ばしていったらいいかの相談をすることが多い。


「ありがとうございました!」

 カサンは俺に深々と礼を礼をすると、にっこり微笑んでから戻っていった。


 今日はカサンが最後だ。

 みんなとても真面目だ。アドバイスが終わった後も可能なら個別レッスンにつきあって欲しいと迫るようにねだってくる。

 俺が未だ人型に対して鞭を振るえないのと、そもそも彼女たちが訓練すべきスキルを教えられないことが多いので、そこらへんは全部リコとヤミン任せだ。

 二人とも、めっちゃ積極的に受け持ってくれるので助かる。


 みんな【ゼロコンマ】をあてにしているのか、俺がリコやヤミンに指導をお願いすると、ちょっと残念そうな顔をする。

 心が痛い。

 早くイップスを治して、すこしでもみんなの成長の手伝いをしてあげたいところだ。


 みんな真面目なおかげでレベルの上がりが速い。

 全員、何かしらのスキルが3レベルは上がっている。

 一番成長したのはカサンだ。【回避】から何から伸びやすいはずの基本スキルが全部1以下だったんだから当然っちゃ当然だ。

 今は、そこらへんがどれも4レベル以上になって、リコに一発で剣をはたき落とされることも無くなった。


 この感じなら、いわゆる冒険者で言うところの職業レベルで最低でもみんな20レベルくらいまでは持ってけそうだ。

 ただ、みんなスキルに対する理解が乏しすぎるのが心配だ。

 No.3とされるカサンがあの状況だったのを考えると、帰ってからスキルの座学もしたほうが良い。

 ルスリーに上申しておこう。


 残る問題は一つ。

 エルマルシェだ。


 最近彼女は一人みんなの輪には加わらず、みんなも彼女のことを触れてはいけないもののように距離を置き始めた。

 俺がレッドドラコニブルを倒してから彼女は自信をなくしたように影を薄くしている。

 俺に突っかかってくることも無くなった。というか、今日一日は声も聞いてない。

 もちろん、俺のエネルギーボルト披露会にも彼女だけ来てない。


 そんなわけで、夜半。

 俺はみんなが寝静まった拠点を抜け出して、ちょっと離れた森の奥へとやってきた。


 森の奥に小さな灯りがたゆたっている。

 俺は灯りのもとへと進んだ。


「何だ、笑いに来たのか?」

 木にかけられたランタンの灯りの下で素振りをしていたエルマルシェはこちらを見ることもなく尋ねた。

「まさか。」


 彼女は俺の返事に何も言葉を返すこともなく素振りを続ける。


 汗びっしょりだ。

 どのくらい振っていたのだろう。

 シャツが汗で張り付いちゃっていてちょっと目のやり場に困る。


 彼女はここでいつも遅くまで頑張ってる。

 でも、それじゃダメだ。

 ただ一生懸命やってもだめなんだ。

 近道を使ったほうがずっと速い。

 それはズルじゃない。その事を教えないといけない。


「ずっと、素振りばかりですか?」

「・・・・。」

「それじゃ、ルナには追いつけないですよ?」

「・・・・。」

「もっと、どうやったら効率的にスキルを上げられるのかを考えないと・・・」

「やはり馬鹿にしに来たのか!」


 エルマルシェが声を上げてこっちを振り向いた。

 ランタンのチラチラとした灯りに煽られて視界が赤く揺らいでいるせいか、瞳が揺らいで泣いてるように見える。

 

「訓練の邪魔だ。」

 そう言って、エルマルシェは汗を拭うように額と目頭を腕で拭った。


「ルナを倒したいですか?」

「当たり前だ。」

 そう言ってエルマルシェは再び俺に背を向けて素振りを始めた。

「なんで?」

「あんな卑怯な能力に負けるわけにはいかない。普段は何もできない町娘のような性格のくせに。」


 そっか。

 【コスプレ】のズルだけでルナが強くなったと思っているのか。


 ちょっと話してくれそうな雰囲気を感じたので、こっちから話しかけることはなく、近くの地べたに腰を下ろしてエルマルシェの素振りを眺める。


「本当はエデルがどうこうとかではない。」エルマルシェはややあってから語り始めた。「私は二特の手本たらなくてはならぬ。エデルだけではダメなのだ。第二特務大隊がなんと言われているか知っているか? エデルのお荷物だそうだ。」

 なるほど、そんな背景もあって、ルナは疎外されているのか。

 嫌われてると言うより、別世界の人間なんだろうな。

「みんな肩身の狭い思いをしている。だから私がエデルを超えなくてはならない。そうすればもう二特はエデルのお荷物ではない。」


 なんだよ。

 ちゃんとした理由じゃん。

 不器用な。


「エルマルシェさん一人でやるんですか?」

「貴様のような背負うもののない小僧には分かるまい。逃げ惑うだけで名を馳せることのできる冒険者と騎士はちがうのだ。」

 エルマルシェはそう言ったものの、少し間をおいてから再び口を開いた。

「言い過ぎた。分かっている。お前は私より強い。エデルも私よりずっと強い。」


「もう、一人じゃ無理ですよ。」


 エルマルシェの素振りが止まった。


「よくここまで、たった一人で騎士団を引っ張ってくれました。」俺はエルマルシェの背中に「きっとルナはルスリーのお使いでほとんど居なかったんでしょ?」


 うなだれたエルマルシェの肩が大きく振るえだした。


「ルスリーだって分かってると思いますよ? だから、今回の探索を始めたんです。」

「だが・・・結局・・・何もできないまま・・・みんなに不甲斐ない思いをさせて・・・今だって全部お前ら頼みだ。」


「頼むのは良いんですよ。でも、俺たちができるのはみんなのレベル上げを助けることだけですから、騎士団を引っ張るのはあなたがやってくれないとダメなんです。」


「・・・私に? ・・・本当に私で良いのだろうか。」

「大丈夫ですよ。みんなあなたの事、信じてるみたいですから。」

「・・・・」

 向こうを向いたまま、エルマルシェが涙を拭う。


「一緒に強くなりませんか?」


 エルマルシェは何も答えることなく黙って俺の隣に座った。

 俺がステータスを見れるメガネをかけると、エルマルシェは黙ってステータスを開いた。

 彼女のステータスを覗く。


 沢山のスキルが並んでいる。

 どんなことにも必須のスキルも、そうでもない尖ったスキルもあってレベルもまちまちだ。

 取り方は乱雑で必ずしも効率的ではない。


 俺はこれを知ってる。

 見たことがある。


 アルファン初期から攻略法も何もない状態で全力でレベル上げをしてきた先駆者たちの泥臭い、非効率なステータスシートだ。

 だけど、彼らのおかげで色々なスキルの意味がわかった。

 スキルの上げ方も分かった。

 俺が騎士団のみんなに『効率的にスキルを取るように』なんて偉そうに言えるのも彼らのおかげだ。

 きっと、みんなが【剣】のスキルだけやけに高くなっていたのも、エルマルシェの効率化のおかげだったのだろう。


 これは試行錯誤だらけの尊敬すべきステータスシートだ。


「どうだ?」

「努力してきたのがよくわかります。」


 俺の言葉を聞いて、エルマルシェは何かを押し殺した。


「俺は冒険者です。」俺はエルマルシェに言う。「だから、クエストを達成できる強さと実績が全てでランクは後からついてきます。騎士のように【剣】を上げて等級を上げるみたいなやり方はしません。それはいいですね?」

 エルマルシェは今までの頑なな態度が嘘のように従順に頷いた。


「だから、エルマルシェさん、ここでは2つだけ頑張ってください。」


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