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リコ凱旋

 訓練を始めてから2か月。

 祭りのイベントの闘技会まであとひと月。

 日も迫って来て、そろそろ村の人たちも祭りの準備をし始めた。


 俺は村の外れでスライムをタオルで殴打してたことが噂になったせいで、過去最高に皆から白い目で見られている。

 とりあえず、スージーとカムカには理解をしてもらったが、そんなアホな修行で強くなれる訳がないと呆れられた。

 あと、店をサボってたのもバレて叱咤減給された。


 マッゾに見られた件ついても、噂は広められたものの、そろそろ俺が何かしでかすんじゃないかと思ったのか、あれから直接的な嫌がらせがなくなった。

 人生何がどう転ぶかわからん。

 というわけで、俺は今でも仕事の合間をぬってスライムを叩きにも行ってる。


 そんなある日のことだった。


「おい! ケーゴ、カウンターに行って客の相手しな!」

 裏で帳簿をつけていた俺の元にカムカがやって来た。

「え? あ、はい。」


 なんだろう?

 今更、俺が客の対応ができないと思っている訳でもないだろうが、今までカムカがわざわざ俺に接客を任せに来たことなんてなかった。

 不思議ではあったが、仕事は仕事。

 店頭に向かう。


 そこには、商隊のお客さんがいた。

 馬車や何やらの魔導力の充電のためだ。

 商隊は俺たちが充電までやらなきゃならんので、時間がかかってめんどくさい。


「ケーゴ、はいコレ。あの商隊の分の魔石。充電ヨロシク!!」

 マリアナさんが俺に魔石の入ったバケツを渡してきた。

 なんかニヤニヤしている。

「ありがとうございます。」

 ますます不思議に思いながらも、充電器を棚から下ろして台車に乗せる。

 小隊は荷物を軽くするため、大型の充電器は積んでいないことが多い。そのため、充電器はこちらで無償貸出する。


 バケツとくっそ重い充魔アダプターを台車で運びながら店の脇のスペースに止まっている馬車に向かうと、声が飛んできた。

「こっちだ。」

 馬車の前で商人が待っていて手を振っている。

 商人の向こうには護衛の冒険者たちが居た。


 うえ。

 なぜかマッゾとマッコも居やがる。


 マッゾとマッコは何やら商隊の冒険者の一人と話をしていた。


 リコだった。


 全然変わっていない。


 明るい滑らかな髪。

 つぶらな瞳。

 まっすぐに伸びた長い眉。


 隣で見てきた。

 でも、初対面のような。

 ずっと仲良かったような。


 良かった。


 立派に冒険者をできているみたいだ。

 身にまとっているのはまだ安物の皮鎧だったが、それでも様になっていた。


「お兄さん。早いとこ魔石入れてくれ。」

 思わず、リコに見惚れてしまった俺を商人が急かす。


 先に仕事を済まさねば。

 充電待ちの間にあいさつに行こう。

 充魔器の設置をしながら、遠くのリコの様子をうかがう。


 リコはマッゾたちと話している、というか、マッゾに話しかけられている。

 揉めているような感じだが、商人も他の冒険者の仲間も気にしている様子はない。


 俺はアダプターの設置をしながらマッゾとリコの会話に聞き耳を立てる。


「リコ、ずいぶんと立派になったとはいえ、まだまだ、俺の村の護衛よりも安そうな装備じゃん。」

「そうね。」


「強くなりたいんなら、俺が良い鎧を買ってやるし、この村専属の冒険者にしてやってもいいぞ?」

「結構よ。」


「俺も、相当強くなったからよぉ。もう【剣】5レベルだぜ。お前はいくつだよ? 剣の稽古の相手をしてくれよ。ガス以外なかなか良い修行相手が居なくってさ! この村強い奴いないから。」

「そう。まあ、私には関係の無いことだけど。」


「同年代には俺と話せるような頭の良い奴も、俺と稽古できるような腕のいい奴もいなくてよ! 他の同年代があまりに使えなくて、俺は弟のマッコしか分かり合えねえんだ。ま、同年代っていうか、役立たずのケーゴの事だけどよ。知ってるか? ケーゴの【ゼロなんとか】いうスキル、全然使い物にならないスキルだったんだぜ! レアスキルなのに役に立たねえなんて超レアじゃね?」

「人のスキルの事を気にするより、自分のスキルの事を気にしたら?」


「今だって俺のほうが全然強いぜ! ってかあいつと比べたら誰だって強いけどな。」

「あらそ。」


「だからさ。話し相手居なくてお前も寂しいだろうし、冒険者なんて辞めて村に戻ってこいよ。金なら俺が面倒見れるからさ!」

「何言ってんの? 嫌よ。」


 マッゾよ・・・お前、頑張ってるけど、たぶんお前リコにそうとう嫌われてるぞ?

 モテたことのない俺には分かる!


 リコたちの話を盗み聞きながらも、商隊への充電の準備が整った。

 魔石を充魔器に入れると商人に確認する。


「魔導機器は全部繋いでありますか?」

「ああ、充電を頼む。」

「1時間くらいかかりますので休憩してらっしゃってください。二軒隣がパブですよ。」

 ちょっと長めに設定。

「分かった。」

 商人はそう言うと、振り返って冒険者たちに合図をした。

 冒険者のリーダーっぽい戦士がリコを振り返って声をかける。

「おい、リコ! 馬車の見張りを頼むぞ!」

「はい!」リコは相変わらず話しかけてくるマッゾを無視して、元気よく返事を返した。

 商人はリコ以外の冒険者を連れて村の食堂へと向かい、リコだけが馬車の見張りに残された。


「ケーゴっ!」


 商人たちが酒場に行ってしまうのを待って、リコが相変わらずリコにさえずりつづけるマッゾたちを置き去りに俺のもとに駆け寄ってきた。


 可哀そうに、マッゾとマッコが馬車の近くで俺のことをめっちゃ睨んでいる。

 リコみたいな優しい子に嫌われるなんて相当だ。

 イケメンでもないのに優しくされただけで舞い上がっちゃうからだ。


「ケーゴ! 会えて嬉しいわ!」

 リコが嬉しそうに笑って飛びついてきた。

「ああ、俺もあえて嬉しい。元気そうで良かった。」

 俺は優しくされたからって勘違いはしない。幼馴染は幼馴染だ。


 俺にしたって転生物にありがちなモブ顔黒髪だ。

 迂闊に舞い上がるとマッゾの二の舞になってしまう。

 モテたことのない俺には分かる!!


「もうすっかり冒険者だね。順調そうで良かった。」

 俺はリコの立ち姿を見て言った。


 泣き顔で旅立って行ったリコのことを心配していたが、杞憂に終わって良かった。

 だって、今のリコはこんなにも笑顔だ。

 自分の知らないところでリコが幸せだったのが嬉しい一方で、何故だかすこしだけ寂しさも感じた。


「そんな順風満帆ってわけでもないわ、これでも結構苦労してるのよ。」

 リコは満面の笑みで言った。


 と、そこにマッゾとマッコが割り込んで来た。


「おいっ! 俺たちの話の邪魔すんな、役立たず。」

「そうだそうだ!」

「邪魔してるのはそっちでしょ? 私はケーゴと話してるんですけど?」

「ケーゴみたいなクズと話すな。クズが移る。そいつはスキル無しみたいなもんだぞ!」


 いや、もう【ゼロコンマ】以外のスキルもあるぞ。

 実は、前世から持ち越してきたスキルを除いても【暗算】【回避】【命中】と何気に【目分量】なんてスキルが1を超えてたりする。


 まあ、わざわざ訂正する必要もないか。

 マッゾを逆なでするだけだし、自分のスキルの話をして良いことあったことないし。


「私はケーゴと話したいの。あなた達とは話したくないんですけど?」


 リコさん?

 さすがに言い方可哀そうじゃない?


「ケーゴ! お前ただでさえ役立たずなのに仕事サボってんじゃねえ! 働かねえ役立たずはこの村に入らねえ! とっとと仕事に戻りやがれ。」

「そうだ! そうだ! 邪魔くさいんだよ。」

 マッゾとマッコが矛先を変えて、俺に怒鳴り始めた。


「人の店の軒先で騒ぐんじゃないよ!!」


 と、まるで見ていたかのようなタイミングでスージーが出てきてマッゾたちを怒鳴りつけた。

「ケーゴが悪いんだ。あいつがサボってリコとだべってるのはまずいだろ!」

「そうだ、そうだ! 仕事もできないこいつが何でこんなところで油売ってんだよ!」

「ケーゴはうちの店番だっ! 店番が店に居て何が悪い。お前らこそ魔石を買いに来たんじゃないんだったら、邪魔だからとっとと帰んな! 親父とガスに言いつけるよっ。」

 スージーはそう叫んで、マッゾたちを無理やり押し出して追い払ってしまった。

 マッゾたちが見えなくなるとスージーは両手のほこりを払うかのようにパンパンと二回打ち合わせて俺とリコの所に戻って来た。


「お客様の相手を頼んだよ!」


 そう言うとスージーは店の中へと引っ込んでいった。

 スージーの行方を見送って店の中に目をやると、俺に店頭を任せたはずのカムカがいつの間にかカウンターに座っていた。


「・・・・。」

 俺は二人に深く頭を下げた。

 二人とも俺の事なんて見ていなかったが、俺はそうせずにはいられなかった。


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