エネルギーボルト
「さて、皆さん。特にカサンさん。」
夕食後、焚き火の前で体育座りをして俺のことを見ているみんなを見渡しながら俺は言った。
「これから、皆さんが【剣】スキルだけを伸ばしたように、スキルひとつだけを伸ばした時にどうなるか、悪い例をお見せしましょう。」
パチパチパチ。
リコとヤミンと騎士団のみんなが俺に向けて拍手をする。
みんなの前で何をしているかと言うと、
わたくし、ついに【エネルギーボルト】を覚えました。
嬉しさのあまりうっかりマーガレットに話しちゃったので、なぜだか、みんなで俺の魔法を見ましょうみたいな流れになってしまった。
せっかくなので、スキル上げ講習を兼ねることにした。
「わたくし、どうしても魔法が使ってみたかったため【エネルギーボルト】を頑張って1レベルに上げました。ですが、【魔力】も【魔法命中】も【魔法威力】も一切訓練していません。」
本当は訓練したけど、【魔法の素質】がなかったから、ちっとも上がらなかったんだけどね。
ちなみにアルファン時に魔法の威力に関連すると言われていたスキルは【魔力】0.00001145、【魔法威力】0.00000289、【無属性魔法】0.00072267って感じ。ちなみに頑張って上げてこれ。
騎士団のみんなの中には、この辺りのスキルの小数点一桁目が0の人すらいなかった。
どうも俺、思っている以上に魔法の才能がないと見た。悲しい。
ただ呪文そのものの取得には【魔法の素質】以外の素養も影響するのか、他の魔術系のスキルに比べて上がりやすかった。なので、中でも上がりの良かった【エネルギーボルト】だけをずっと集中して上げてきたのだ。
「今から【エネルギーボルト】しか訓練しなかった場合の【エネルギーボルト】がどれだけのものかをお見せしましょう。」
俺は騎士たちの見守る中、10メートルくらい先の岩の上に置かれた空き缶の的に向かって片手を伸ばす。
唸れ俺の最強魔法!
「【エネルギーボルト】っ!」
俺の手のひらから、ホタルよりも小さい、薄ぼんやり光る蚊みたいな魔力の塊が出現。
フラフラと的に向かって浮遊していく。
ちょ〜〜遅い。
「こ、これっ!?」
「かわいい!」
「こんなちっちゃい魔法始めてみた!」
「これ進んでるの?」
「私にも見せて!」
騎士団のみんながワイのワイの騒ぎながら、漂ってるエネルギーボルトをよく見ようと群がってきた。
うん。喜んでもらえて嬉しいよ、畜生。
「あっ!」
髪の毛すら舞わせないようなそよ風が吹いた。
俺の渾身のエネルギーボルトはそよ風に流されて騎士たちの中心から舞い上がり、みんなの見上げるなか、ふわふわと漂って、腹を抱えて笑っているヤミンのところに舞い降りてきた。
ヤミンが目の前に降りてきたエネルギーボルトを指先でちょんと触る。
一瞬、ピッと光を増して俺のエネルギーボルトは消えた。
「チクッとした。静電気よかは強いかも?」
ヤミンが再びゲラゲラ笑い始めた。
「笑いすぎよ。ヤミン。」と、リコがヤミンを叱る。
エネルギーボルトが消えてしまったので騎士団の女子たちが再びワイのワイの騒ぎはじめた。
「ヤミン様、そんなに笑っては可愛そうですわ!」
「風に流される魔法なんて始めてみた。」
「可愛かったのにもったいない。」
く・・・。
「以上がわたくしの【エネルギーボルト】です。驚きましたか?」
「驚きましたわ!」
「こんな攻撃魔法がこの世に存在しようとは!」
「驚いた! 驚いた! ぶはははは!」
みんなの言葉が痛い。
特にヤミンは自重しやがれ。
「仮にこれを2レベルにして、威力が倍になったからって何なのでしょう? 【魔力】や【魔法威力】をまったく鍛えていないとこのような虫も殺せないような【エネルギーボルト】になってしまうのです。」
自分で言っててなんか泣けてきた。
これでもすげー苦労して取ったんだぜ?
「だから、みなさんも【剣】だけにこだわるのではなく、必要なスキル構成を見極めて自分に必要なスキルをバランスよく上げていきましょう。」
「な、なるほど。」
カサンが感銘を受けたように俺の言うことを逐一メモしている。
メモするほどのことかね?
「大事なスキルが全然だとこんな酷いことになるのですね!」
「才能のない分野を頑張ってもあまり意味がないというふうにも捉えることができそうだな。」
「一つのスキルだけ上げてもあのエネルギーボルトみたいに意味のないものが出来上がってしまうということか。」
「うっかりすると無駄な努力になりかねんな。」
みんなの理解が深まってくれたようで嬉しい限りだが、すべての言葉が俺に刺さってるんですが?
こんな感じで俺と騎士団のみんなとの仲はどんどん深まっていった。
コルドーバ合宿が順調に回り始めた気がする。
だが、その一方でエルマルシェが孤立し始めた。




