ゼロコンマ道場 コルドーバ合宿
はええよ。
20人の女騎士たちが俺の前に体育座りをして、俺のことをキラキラとした目で見つめている。
朝礼前にステータス見ながらスキル上げの方法を打ち合わせしようって話はしたけどさ、マーガレットたち4人だけじゃなかったの?
なんか、口コミで俺の凄さが広がってったらしい。
ちょろすぎん?
なんだろうな。なんかもっとこう、紆余曲折と言うか、俺の育成方法の凄さにみんなが驚く機会とかさ、もっとあってもよくね?
ルスリー曰くの様式美が足りてないんだけど。
「君は剣をもっと大きく重くして【打撃】を上げるようにして。もちろん【命中】は基本だからおろそかにしちゃダメだよ。」
「あなたは【回避】タイプじゃない。かと言って【力の才能】があるわけでもないので、この遠征では【盾】を軸にした防御をするように心がけてください。あと、馬に乗らない時は鎧も重くしないほうが良いと思います。」
「技スキルを憶えてください。スキルがなくても良いから【連撃】と【牙突】を実戦内でどんどん使ってください。多分今日中に取れます。そしたら、それを軸にして実戦で【命中】を上げていきましょう。」
次々とアドバイスをかましていく。
みんな、アドバイス守ってくれるかな?
20人にアドバイスをし終えた。
ってか、みんな【剣】スキルだけやけに高い。
マーガレットくらいバランス良いのは珍しいくらいだ。
【剣】スキル至上主義なの?
こんなん別にアドバイスしなくても実戦さえしてれば【命中】や【回避】なんて勝手に上がってくから強くなるぞ?
さて、あとアドバイスをできてないのは、エルマルシェとカサンだけだ。
エルマルシェが来ないのはまあ当然として、さっきから木陰からカサンがじっとこっちを覗いている。
めんどくさいので、手招きする。
カサンは突然の手招きにオロオロと木陰に隠れた。
「いいから!」
イラッとして大声で呼びつけると、カサンは怒られた子供のように背中を丸めて俺の前までやってきた。
「ごめんなさい。よろしくお願いします・・・。」
イケメンは小さな声で頭を下げた。
「えーと、気にしないでいいので、ステータスを見せてください。」
「はい。」
カサンがステータスを開いたので確認する。
「すげーな、あんた! これどうやった!?」
【剣】20レベル以外のスキルがどれも1超えてねぇ!
「ひたすらに【剣】を精進した結果です。」カサンは堂々と胸を張った。
「いや、すごいけど、すごいけど・・・・。」
効率的にはすごいけど、ホントどうやったらこうなるんだ?
カサンは褒められてると思ってるのかちょっと嬉しそうに微笑んでいる。
「えーと、これはさすがに戦闘に出せないので【命中】と【回避】と【防御】と【打撃】が1超えるまではあなたは訓練です! リコ、ごめん。模擬戦で面倒見てあげて。」
「えっ? 【剣】以外を上げるんですか?」カサンが驚いて俺を凝視する。
「えっ? じゃないですよ。【受け】も【防御】も1レベルもないんじゃ、リコに剣をはたき落とされるのは当たり前ですよ。」
「しかし、騎士とは本来【剣】を持ってして戦うがあるべき姿。【命中】、【回避】などの無粋なスキルなぞなくても戦えます。【剣】だけを30レベルに上げる方法を教えて下さい。」カサンが大真面目な顔で言う。
「アホか! そんな馬鹿げたスキル上げなんか絶対許すか!」
俺、思わず怒号が口をつく。
他人のスキル取得に口出すのは失礼だが、物事には限度ってもんがある。
こんな人生を投じたネタキャラ育成に付き合うわけにはいかない。
「だいたいよく見たらお前、【馬術】すらねえじゃん。なんで、馬に乗ればリコに勝てるなんて言ったんだ?」
「同じ【馬術】0レベルならば公平。ならば『騎士』である私のほうが馬上の戦いに長けるのは自明のこと。」カサンが自信満々に胸を叩いた。
「アルファンに職業補正なんかねぇ!」
まじふざけんな!
騎士団のNo.3がスキルに対してこの理解なのか?
「我々騎士にとっては【剣】のレベルこそが全て。等級を上げるための尺度でもあるのです。冒険者のような戦い方など騎士の恥・・・。」
「うっせぇ! マーガレット、こいつと木刀で模擬戦! お互い鎧と盾は無し!」
くそ、なんかみんな【剣】ばっか高ぇと思ったら、騎士の等級制度のせいか!
「馬鹿な・・・私はマーガレットよりも弱かったのか・・・。」
マーガレットに瞬殺で木刀をはたき落とされたカサンがガックリと崩れ落ちる。
「ご、ごめんなさいぃ。」
「マーガレット、謝らんでよろしい。カサン、というわけでどうする?」
「わ、私を強くしてくださいっ。」その場で頭を地面にこすりつけて懇願するカサン。
「この遠征中に【命中】、【回避】、【打撃】、【受け】を最低でも全部7以上に上げるように。そしてマーガレットに勝つこと。」
絶望の表情でマーガレットを見上げるカサン。
「この差を短期間で埋めろと言うのですか。」
「あ、多分それはすぐ埋まる。」
「え?」カサンが何を言っているか理解できていない様子でぽかんと口を開ける。
「私、すぐ、抜かれちゃうんですか?」マーガレットがちょっと残念そうに言った。
「【命中】、【回避】、【打撃】、【受け】なんて、10レベルくらいまでは実戦をこなすようになればすぐに上がっていくからね。そこらへんの基礎ができてくると、今度は【剣】の20レベルが生きてくるようになるはずだ。」
ぶっちゃけこいつこそ俺の指導なんていらない。【力の才能】も【速さの才能】も高かったし、普通にレベル上げさえしてくれりゃあいい。
「はあ。」カサンは相変わらずぽかんとした顔で生返事を返してくる。
「とりあえず、俺を信じて他のスキルを上げなさい。」
俺はほかのみんなも見渡した。
「みんなも、とりあえず3日でいいから、俺の言うとおりにやってみて欲しい。それでだめだったら好きにしていいから。」




