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ギャンブル

 モンスター育成所のオーナーとヤミンに引きずられるようにして俺たちは王都の一角にあるカジノにやってきていた。

 スロットとか前世でも見たことあるような機械が薄暗くきらびやかなホールに並んでいて、大勢の人たちが夢中になっている。


 【ゼロコンマ】のせいか、マシンの中から壁を突き抜けてなんかの数字がはみ出ている。

 多分、スロットの設定の小数点以下の数字なんだろうな・・・。

 下数桁だけ見えても甘い設定なのか判断などつかないので、見えたところで意味などないのだが。


 ってか設定があるってことは当たり易さが調整されてるってことだろ?

 普通にやっても店側が儲かるように出来てるってことじゃん。


 かといって、バカラみたいのとかルーレットとかもディーラー次第っぽいからやりたくない。

 そもそもルールがよく分からんし。

 何で数字じゃないとこにもチップが置いてあったりするの?


 リコとヤミンはすでにカジノをお楽しみ中。

 最初はギャンブルをすることを渋っていたリコだったが、スロットのぐるぐる回るのが面白かったらしく、銅貨でやれるやつに捕まった。

 もちろんヤミンは金貨のやつをやってる。


 気晴らしに来たのに賭けることもできないままウロウロと見物をしてると、エイイチに声をかけられた。


「君は賭けないの?」

「うーん。」

「そもそも、君の気晴らしのために来たんだけどなぁ。」

「ごめん。」

「闘技場のほうに行ってみる?」

「そうする。」


 エイイチに案内され、俺は闘技場の観客席にやって来た。

 闘技場はカジノの地下にあった。

 体育館のような広いホールがくり抜かれていて、真ん中に丸い試合場、それを囲むように階段状の観客席が見下ろしている。

 俺たちはその観客席の一番上を囲むように通っている通路に出てきた。

 すでに何試合目かが行われていて、観客たちが大盛り上がりしている。


 試合場の中央の天井に魔導モニターが下がっていて、モンスターの強さとスキルが表示されている。

 これをしないと【鑑定】スキル持ちが有利になっちゃうからだそうな。

 例によって魔導系の表示なので俺には小数点以下がはみ出て見えている。他の人には見えていない1レベル以下のスキルも俺には表示されて見えている。

 スクロールすれば他の1レベル以下のスキルも見えるんだろうけど、さすがに手が届かない。


「どういうシステムなの?」俺はエイイチに闘技場の賭け方について尋ねた。

「基本的には勝てば倍になって帰ってくる。換金時に手数料は取られるけど。」

「なるほど。」


 めっちゃ分かりやすい。

 てか、アルファンでいろんなモンスターの特性を知ってる俺、有利なほうが分かる予感がする。


 すでに次の試合のベットが始まっているようだ。

 なになに・・・

 

 トルネードバニーvsトリホーンボア


 どっちが有利かまったく分かんないぜ!

 さすがにモンスターの特性だけで簡単に予想できるような試合は組まんか。


「強さまったく変わらねえな。」

「そりゃおめえ、強さ違ったら賭けになんねえだろ。」

「こりゃ予想が難しいぞ。」

 周りから声が聞こえてくる。


 モニターに表示されているモンスターの強さをチェックする。


 トルネードバニー : 総合レベル判定 4.98947033

 トリホーンボア  : 総合レベル判定 4.00124643


 これ、もしかして、みんなにはどっちも4レベルって見えてるんだよな?


 てか、総合レベル判定だけじゃなく、トルネードバニーのほうが【命中】や【打撃】も0.5くらい高い。


「ちょっと賭けてみたい。」エイイチに声をかける。

「お、やってみる?」


 エイイチに教えてもらって急いで窓口に向かい、駆け込みでトルネードバニーに金貨一枚を賭ける。

 窓口のお姉さんがモンスターの名前とシリアルナンバーが書かれた札を出してきた。

 これを窓口に戻すと換金してくれるシステムらしい。


「おいおい、兄ちゃん。金貨一枚とは豪華だねえ! まさかトルネードバニーを買ったのかい。」

 受付の近くに座っていた歯が何本も抜けたおっちゃんが話しかけてきた。

「あ、はい。」

「あのトルネードバニーはすこぶる毛並みが悪りぃ。強さが同じ時は状態の良さで決まるんだぜ? 兄ちゃん素人だねぇ。」

「これが初めての闘技場です。」

「どうりで。金持ちは羨ましいねぇ。ドブに捨てるみたいに賭けれんだから。ま、楽しむといいさね。でも、考えて賭けたほうがいっそう楽しいぜ。」

 きちんと考えてるがな。


 おっさんは放っといて、エイイチのところに戻ってくる。


「どっちにかけたんだい?」

「トルネードバニー。どう思う?」

「うーん。レベル全く同じだからね・・・時の運としか。」エイイチは答えた。


 と、競馬のようなファンファーレが会場に響き渡った。


「さ、始まるよ。」


 試合会場の端から三本角のイノシシのような魔物が現れた。こいつがトリホーンボアだ。

 反対側の端からトリホーンボアと同じくらいの大きさの細いうさぎが現れた。こっちがトルネードバニーだ。


 ブザー音が鳴り響き、強さの書かれていたモニターが『FIGHT!』と言う文字を表示して消えた。


 先に仕掛けたのはトリホーンボア。

 素早い突進でトルネードバニーを突き飛ばす。

 吹っ飛ばされたトルネードバニーに追い打ちとばかりに突進していくトリホーンボア。

 だが、トルネードバニーの立ち上がりのほうが一瞬早い。ぎりぎりでトリホーンボアの突進をかわす。

 攻撃をかわされたトリホーンボアは一瞬トルネードバニーを見失なう。

 その間にトルネードバニーが蹴り攻撃を仕掛け、こちらもヒット。


 行け! そのまま行ってしまえ!


 トルネードバニーは攻撃の手を休めない。続けざまに二撃三撃と打撃を命中させていく。

 そして、そのままトリホーンボアを圧殺!


 予想外の一方的な試合展開に会場から歓声や悲鳴が上がった。


「おお! 当てたねえ。」エイイチが感心したように言った。

「換金してくる。」俺はエイイチに親指を立てるとそそくさと立ち上がった。


 窓口に札を返して銅貨5枚の手数料を払う。

 そして帰ってくる金貨二枚。


 これは・・・

 この調子で儲けて行けばすぐに大防御のアミュレット買えるんじゃないか?

 次の試合も賭けてみるか。


「ビギナーズラックかよ。良かったな、アンちゃん。」

 歯抜けのおっさんが俺が換金しているのを見て再び話しかけてきた。

「でも、気をつけろよ、最初に調子づかせておいて沼にはめてくるのがギャンブルだからな。そうやってどんどん沼に飲まれて行く奴らを俺は今まで散々見てきたからさ。で、こんどはどっちを買ったんだ?」

「クイックスターワスプです。」

「はぁ? さすがにそらないぜ。」おっさんはまたケチをつけてくる。「いくらクイックスターワスプに【毒攻撃】があったって【クリティカル】を持ってないんじゃキラータートルにはダメージが通らねえ。それじゃ毒なんて効果がでねぇ。そのうちクイックスターワスプが疲れてとっ捕まるのがオチよ。」


 でも、このクイックスターワスプって【クリティカル】0.99999948だから、この戦闘中に上がるんだぜ?


 とは言わない。

「まあ、見ててくださいよ。」とだけ自信満々で応えておく。

「ヘン。経験者のアドバイスは聞いとくもんだぜ。」おっさんは舌打ちして眉を潜めた。


 クイックスターワスプとキラータートルの試合はまさに泥仕合だった。

 攻撃が効かないか当たらないかなので、見てる方にとっては退屈な戦いが続き、観客席からは怒号が飛び続けた。


 そして長い戦闘の後、クイックスターワスプの【クリティカル】がついにキラータートルを捕らえた。


「また当てたね。調子いいじゃない。」エイイチが熱くなってクイックスターワスプを応援していた俺を見て嬉しそうに言った。

「これで金貨5枚ゲットだよ!!」

「え゛っ!? 金貨5枚も賭けてたの?」

「まだまだ、これからよ!」


 換金所で換金。

 金貨10枚が帰ってくる。


 ぐふふ。


 さっきの歯抜けのおっさんが羨ましそうにこっちの見ていたのでニッコリと笑い返す。


「ぐぬぬ。」

 おっさんは俺の顔を見て悔しそうに唸った。


 これ、いい!

 【ゼロコンマ】はこのためにあったとすら言っていいかもしれん。

 コンマいくつの強さの差を見極めて、ちょっとでも勝ちやすいのに賭けていけば、確率的に儲かる方へ絶対に収束していくはずだ!


 やっべえ、楽しくなってきた!


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