ビートスライム
ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ。
村はずれの森。
持っているのはタオル。
そして、現在、スライムと戦闘中。
今日はかれこれ2時間くらい。
スライムの攻撃を回避しながらタオルでぺちぺちと叩く。
素手じゃダメかというと、ダメだ。
素手で思いっきり叩くとスライムにダメージがいっちゃう。かと言って思いっきり叩かないとレベルアップ効率も悪い。
それに素手だと【格闘】が上がってしまう分【命中】の上りが悪い。
というわけで、身近にあって武器スキルが上がりにくいタオルの出番とあいなった。
タオルならスライムを倒してしまうことが無いので次のスライムを探しに行く手間もないし、知能の無いスライムはこっちの訓練に無限に付き合ってくれる。
弱いから万一【回避】できなくても一撃では死ぬことも大怪我をすることもない。
スライムは足も遅いので、いざとなったら逃げれる。
スライムを村の近くまで釣りだして戦っていれば他のモンスターに襲われる心配もない。
昔、味方同士に弱い武器を持たせて互いに永遠と殴り合っていると無限にレベル上げが可能なゲームがあったが、そんな感じ。
本来、アルファンでは戦闘でもスキルは上げる事ができるが、どのスキルを上げるかを明確に選択することができなかった。
とくに選択的にスキルを上げたい場合は訓練場というところがあって、そこで上げる。
この村だと衛士長のガスがそれにあたる。
一度だけお試しでガスの所に行ってみたことがある。
【回避】と【命中】に限定して訓練したい訳だから当然だ。
だが、【ゼロコンマ】のおかげで訓練場よりモンスター狩りのほうが全然効率的にレベルを上げることができることが解った。
タオル・スライム=メソッドだと【命中】はだいたい一振り0.00003くらいは上がる。
それに対して【命中】特化の訓練の素振りでは0.00000015くらいだ。
実践に勝る経験はないとか言うがまさにその通りだ。
アルファン時にこれやってたらめちゃくちゃ楽だったろうなぁ。
まあ、アルファンではタオルなんて装備できなかったから絶対倒しちゃうんだけど。
地味な作業だが超効率的。
スライムをひっぱたくたびに小数点の下の方が目まぐるしく増加していく。
開始1か月にして、早くも【回避】3レベル、【命中】は4レベルに上がっている。
まさにチートの道も一歩からだ。
衛士たちのスキルレベルが10前後しかないのに、こんなに簡単にレベルが上がってしまって良いのだろうかとも思ったが、彼らはモンスターを狩ってのレベリングをしないのだ。
そりゃ、別に彼らは冒険者ではないのでモンスターを倒しても金にならないし、何より危険を犯してまでモンスターと闘いたがる方がおかしい。
つまり、彼らはモンスターをひっぱたくことでどれほどスキルレベルが上がるかを知らないのだ。
ちなみに、マディソン商店の仕事については心配ない。
カムカが俺の修行時間を作ることに協力してくれることになったからだ。
カムカ自身もシフトに入って俺の修行のための時間を作ってくれている。
どうやらこの間のスージーと俺の会話を聞いて、来年の祭りまで居座られたらたまったもんじゃないと思ったらしい。
ありがたい話だ。
しかし、このスライム叩き、俺が強くなってきたせいか効率が徐々に落ちてきた感がある。
最初のころは0.0001とか上がってたのに、いまはその3割だ。
かといって、俺がこの方法を使える弱いモンスターは他に居ない。
よし! 効率が落ちてきた分は、速さでカバーだ!
「ちょわぁああああっ!」
奇声を上げながらタオルの速度を上げる。
スライムから心地よいペシペシと言う音が聞こえてくる。
リズム良くスライムを叩くうちに何か楽しくなってきた。
スライム殴打ハイに入ってしまったらしい。
ペシペシペ、ペシペペシペシ、ペペペシ、ペシ
ペッペシ、ペペッシ、ペッペッペ、ペッペペペシ、ぺぺぺぺぺぺぺ
「YEAH!」
回避も上がって来て余裕になって来た俺はハイテンションでスライムを叩く。
一発のレベルアップ効率は落ちたが、それを上回るDPS。
「ハイテンション俺、スライム殴打! 最高潮コレ、エラい伸びそうだっ!」
このライムどうだっ!
なんて。
こんなん誰かに見られたら恥ずかしくて恥ずか死するだろうな。
「お前何やってんの?」
「!?」
スージーが過去に見たことがない程呆れた顔で俺を見つめていた。
え?
なに!?
何でこんなところ通りかかるの?
「え、あの、その・・・訓練で・・・。」
固まった俺にスライムが体当たりする。
痛い。
「そうか・・・頑張ってな。」
スージーは仕事サボってこんなところに居る俺を怒鳴るでもなく、見てはいけない物を見てしまったとばかりに逃げるように村へと去って行った。
「ぬあぁああああああ!」
ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ
絶叫しながら、効率無視でスライムをタオル連打。
あああああああああ!
恥ずかしいよおおおお!もおおおおっ!
絶対、店に帰ってから今見られたこと噂されるんだろうな・・・。
なに言われるんだろう・・・。
のぉおおおおお!
いかん。
前向きだ!
前向きに考えるんだ!
・・・・どうやって?
ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ
そうだ!
マッゾ!!
見られたのがあいつじゃ無くてよかった!
あいつに見つかってたら、何を言われたことだろう!
それに村に悪意をもった噂も流されるに違いない!
見つかったのがスージーでまだ良かった。
これがマッゾだったらどうなってたこ・・・
「・・・・。」
マッゾと目が合った。
うそでしょ?
今日このあたりで福袋の販売かなんかあったの?
思わず膝から崩れ落ちる俺。
崩れ落ちた俺にスライムが俺に体当たりする。
痛い。
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
マッゾはしばらく黙って俺の事を眺めていたが、困惑と哀れみだけを残してその場から逃げるように去って行った。
ああああああああああ!!!!
悪口で良いからなんか言ってくれぇええええええ!!




