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報酬

 さて、第二特殊騎士団との試合と顔合わせが終わった後、俺たちはルナが療養している病室に集まっていた。

 ルスリーも用があると言って一緒にやってきている。

 エルマルシェもついて来ようとしたが、「冒険者に一勝もできなかった不甲斐ない結果を反省せい」とルスリーに言われて渋々引き下がった。


 リコとヤミンがさっきまでの第二特務大隊との試合についてルナに話し、ルナはベッドに腰を下ろしたまま、複雑な顔でその話を聞いていた。


「ねえ、ルナ。エルマルシェさんに俺の鞭が当たらなかったのが何だったのか知りたい。」俺はルナに尋ねる。「エルマルシェさんって、なんか特異なスキル持ちなの?」

「エリーちゃん、そんなスキルは持ってないよ?」ルナは首をかしげて答えた。

「でも、なんか絶対ヘンだったよ?」と、ヤミン。

「その・・・エルマルシェさんが変というか・・・・。」リコが口ごもって俺を見た。


「そうじゃな。ケーゴ、お前のイップスじゃ。」ルスリーが言った。


「えっ!?」

 俺?

「お前自身が、無意識に鞭を外しとるんじゃ。」

「ええぇ?? そんなことしてないですよ。」

「心のどこかでこの間のクリムマギカでの戦いが尾を引きずっとるのじゃろうて。」ルスリーが言った。

「ケーゴ、人間と戦うの初めてだったから・・・。」

「ああ、そうか。」

 リコとヤミンもルスリーの意見に同調し始めた。


 たしかに、人を殺しちゃったかと思ってすごくショックだったけど・・・それなりに折り合いはつもりなんだけど?


「いやぁ、多分違うと思うけどなあ。」正直まったく納得いかない。

「ケーゴは繊細なのにとても鈍いから・・・。」ルナがつぶやくように言った。

 みんなが満面の同意顔で頷く。

 なんでだよ。

「ほら、レベルが高い相手には攻撃が当たりにくい的なシステムがこの世界に実装されたとか、今まで散々クリティカルする方に確率が傾いてた分、確率調整で乱数がファンブルの方に傾いてるだけとかでは?」

「ケーゴは何を言ってるの?」リコが心配そうに俺を見つめた。

「あ、はい。」

 ホント何言ってんだ? 俺。

「これは相当よね。」ヤミンも呆れたように言った。

「エルマルシェさんになにか特殊スキルがあるんですよ。やっぱ。」

「エリーに攻撃をそらすような妙なスキルは無い。【防御】型じゃから、むしろ【回避】は下手な方じゃ。完全にお前の側の問題じゃ。」

「そりゃそれなりに思うところがまったくないとは言いませんけど、気には病んでるまでは無いと思いますよ?」


 あっけらかんとした俺の態度に周りのみんなが顔を見合わせる。

 みんなして人を病人みたいに。やめてくれよ。


「コルドーバ行きまでまだ何日かある。ちょっと確かめて来い。」ルスリーは言った。

「確かめる?」

「闘技場用のモンスターを飼ってる知り合いがおる。」

「闘技場用のモンスター?」

「そうじゃ。そいつらと戦わせてもらってこい。そこでなら、もしお前が鞭を使えなくなっていたとしても安全じゃ。」

「そんな、大げさな。」

「ダメだよ、ケーゴ。命がかかってるんだ。」ヤミンがいつになく真面目だ。

「ヤミンの言うとおりじゃ。きちんと確かめておいたほうが良い。」

「まあ、別にそれでみんなの疑いが晴れるんならいいですけど・・・。」

「後でエイイチに連絡を入れさせる。場合によっては今回のコルドーバ行きについても考えねばならん。」

「・・・・。」


 空気が重い。


「・・・戦えなくなってたらどうしよう。」リコが不安そうに呟いた。

「場合によっては冒険者を辞めることも考えないと。」ヤミンの口調も重い。

「ええぇ、多分、大丈夫だと思うけど・・・?」


 ・・・みんなして大げさじゃない?

 そんな俺、変?


「そう暗くなるな。明るい話もある。」

 ルスリーはそう言って、部屋の片隅に置いていた革袋を持ってきた。

「カリストレム以降の活躍に対して報酬をガッツリ用意しておいた。」


 ルスリーが重そうに持ってきた袋をヤミンが受け取って中を覗く。


「えええっ! 大金貨!?」

「117枚あるぞ。」

「ええっ!?」

 一人大金貨39枚も!?

「3で割れるよう2枚おまけしといた。」

「大金貨を2枚おまけ!?」ヤミンが驚いて叫ぶ。

「大金貨30枚あったら、ランブルスタなら豪邸が立てられるよ?」リコが戸惑いながら言った。

「遊んで暮らすにはまだちょっと足りないか。」ヤミンは舌なめずりしながら袋の中を覗き込んでいる。

「ねえ、ケーゴ。二人分合わせれば引退してどこかで農業でもしながらゆっくり暮らしていくにはいい額だよ?」リコが俺のことをじっと見つめた。


 なんで引退勧告すんねん。

 俺は戦えるっちゅーねん。


「でも、大防御のアミュレットって大金貨50枚くらいしなかったけ?」

 マジックアイテムに手をつけだしたらお金なんていくらあっても足りないよね。

「なんで、マジックアイテムなんか買うの!?」

「もったいない!」

 二人が同時に反対する。

「えぇぇ・・・。だって、命あっての物種だよ? 冒険者なんだからそこはお金かけようよ。」

「そんなにマジックアイテムが欲しかったらクリムマギカで作ってもらえばいいじゃない!」と、リコ。

「そうだよ。ちょっと褒めれば簡単にくれるんだから。」ヤミンも賛同する。

「おい、お前ら。人の研究所のもん勝手に持ち出すなよ? 言っとくが、鞭と弓の分、報酬から引いとるからな。」ルスリーが不機嫌にリコとヤミンを叱る。

「じゃあ、返還したらもっと報酬上がるんですか!?」ヤミンが目をランランに輝かせて尋ねた。

「おうっ? まあ、エルダーチョイスの武器じゃしの。倍くらいにはなるぞ。」

「なんですって!? ケーゴ?」リコが俺を睨んだ。

「え!? いや。せっかくいい鞭だからお返ししたくないんだけど・・・。なんで、二人とも急に金に意地汚くなったの?」

「むしろ、ケーゴはなぜそんなにお金にドライなのか?」ヤミンが質問には答えず、訊き返してくる。

「今までが出来すぎだったんだからね? これからもこんなにうまくいくとは限らないんだからね?」リコも目の前の大金に目の色が変わっている。

「みんな後ろ向きだなぁ。俺たちようやく強くなってきたんだよ?」

 むしろ、これからじゃん。

「なんで、ケーゴはそこまでして強さばっかリ求めるのさ?」ヤミンが本気で不思議そうに尋ねてきた。

「だって、お金って普通、自分を強くするために稼ぐもんじゃない?」

「「違うよっ!」」

 リコとヤミンが同時に声を上げた。


 あれ?

 普通の人って、武器の強化やキャラの育成よりアバターの衣装や家具収集のほうがメインなの?

 どっちかってとそっちのほうがおまけじゃない?


「なんで、この大金を貰って未来のビジョンがそれなのか・・・」ヤミンが呆れ気味に言った。

「そうよ。これだけお金があったらいろんなことが始められるんだよ。」リコも何故か残念そうに俺を見る。

「そう言われましても・・・。」


 なんで?

 俺、なんかズレてる?


 横で俺たちのやり取りをずっと隣で聞いていたルナがクスクスと笑いだした。


「だって、ケーゴは冒険がしたいんだもんね。」


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