第二特殊騎士大隊
階層を2つ上がり、通されたのは広い会議室。
蹄鉄のような形の机があり、その両側に10人くらいづつ、女性ばかりがずらりと並んで座っていた。
みんな入ってきた俺たちのことを怪しいものでも見るかのように眺めている。
おそらくこの子達が第二特務大隊なのだろう。
クリムマギカで見覚えのある娘が何人かいる。
蹄鉄状の机の突端側の5つの椅子が空いていて、その真ん中の椅子だけやけに立派だ。
あれがルスリーの席に違いない。
俺はルスリーのとおぼしき立派な椅子の隣に案内され、挟んで反対側にヤミンとリコが座った。
騎士たちが俺たちを見ながら何やら色々と耳打ちしている。
あんまりいい空気じゃない。
ヤミンには彼女たちの囁きが聞こえているのか、顔は穏やかだが尻尾が怒ってる。
一張羅を仕立てて舐められないようにはしてきたんだけどなあ。
「殿下が来る前に一つ尋ねたい。」
俺の隣に腰をおろしたエルマルシェが俺たちの方は全く見ないままに口を開いた。
虚空を見つめる眼が怒りに満ちている。
「先日、冒険者ギルドでお前たちの冒険者レベルが2レベルであると耳にした。それはまことか?」
「えーと、その、俺は登録上2レベルです。」素直に答える。
周りの騎士たちのざわめきが大きくなる。
今度は何を言っているか分かる。
「なんで冒険者なんかに・・・」
「2レベルなんて初心者じゃないか・・・」
「殿下はなんだってこんな馬の骨みたいなのを?」
「冒険者ども。予め言っておく。」
エルマルシェが立ち上がって俺をにらみ見つけた。
「お前らはただの足手まといだ。殿下の頼みだから仕方なく連れて行くが、我々とお前たちの間には大きな立場の差があると知れ。殿下やエデルガルナと知り合いだからというだけで、お前たちが我々と同列に扱ってもらえると勘違いするな。くれぐれも足を引っ張らぬよう、終始邪魔にならぬよう隠れていろ。そうすれば飯くらいはくれてやる。」
「ちょっと、その言い方は無いんじゃありませんか?」ヤミンがついに我慢しきれなくなって立ち上がった。「私達はルスリー殿下じきじきにあなた達を・・・。
「はーい。ストップじゃ!」
ヤミンの声を遮るように大声が飛んできて、俺たちの入ってきたのと別の戸口からルスリーが入ってきた。
「わしから何も状況を伝えておらぬうちに揉めるのはなしじゃ。控えよ。」有無を言わさぬ口調でルスリーが声を張った。
「申し訳ございませんでした。」エルマルシェが頭を下げた。
ヤミンもエルマルシェが頭を下げたのを見て、行儀悪く軽く頭を下げると、椅子に座って腕を組んだ。
リコがヤミンの肩を撫でて落ち着けてようとしている。
「遅くなってすまんな。何を揉めとった?エルマルシェ。」
「失礼いたしました。客人の冒険者としてのレベルがあまりにも低かったため、驚いておりました。」
「あんなもん、冒険者ギルドの管理用のラベル付けに過ぎんよ。」
「しかし、聞けばこの小僧はまだ2レベルだと言うではないですか! いくら簡単な探索とは言え、そのような者どもをわざわざ未開の地に連れて行くのは赤子を連れて虎穴に踏み入るようなものでございます。我々は託児所では無いのですよ?」
エルマルシェはそう言いながら慌てて立ち上がると、自ら席につこうとしていたルスリーを制して、その椅子を引いた。
「決定は変わらぬ。彼にはお前たちと共にコルドーバへと行ってもらう。」
そう言いながら、ルスリーはエルマルシェが引いた椅子によじ登るようにして座った。椅子が高くて足が地面についてない。
「承知いたしました。」
無機質にそう口にしたエルマルシェは、口調に込められなかった怒りをぶつけるように俺を睨みつけたあと、自らの席に戻った。
「ふむ。此度はすまぬな。今日は顔合わせだけじゃ。気楽にやってくれ。」
ルスリーはそう言ったが、すでに手遅れ感半端ない。
「こちらは順に、リコ、ヤミン、ケーゴじゃ。此度、お前たちを率いてコルドーバの探索に望んで貰う冒険者たちじゃ。仲良うしてやってくれ。レベルがどうの言うておったが、北部レイドボスはコイツラだけで片付けたようなもんじゃからの。強いぞ。」
「率いて・・・?」
ルスリーの言葉尻に気づいた騎士たちがざわめく。
「取り合えず、騎士団の皆も自己紹介せい。」
そう言ってルスリーはテーブルの一番端に座っていた小さな女騎士を視線で指名する。
「わ、私はマーガレットです。よ、よろしくお願いします。」
ルスリーに指名された騎士が、慌てて立ち上がってとても簡単に自己紹介を済ませた。
「サリアです。」
マーガレットが座ると、隣の騎士が立ち上がって名前を言った。
「ステルシアだ。」
「ミリアですわ。」
「ゼルマノールだ。」
次々、自己紹介を進めていくが、最初の娘こそ『よろしくお願いします』をつけたものの、後はずっと名前だけ。何人かはこっちを向うとすらしない。
結局、エルマルシェだけ『副隊長の』とつけただけで、あとのみんなは名前だけしか言ってくれなかった。
「以上にエデルガルナを加えた23名が第二特務大隊だ。」
最後まで紹介が終わると、エルマルシェが総括するかの如く締めた。
「我らは全員がお前たち冒険者の言うところの10レベルいや、騎士には甘い評価は許されておらぬゆえ、お前たちの感覚からいくと15レベルはあることだろう。」
街の衛士レベルじゃん!
「私に至っては35レベル相当だ。」
「本当は30レベルくらいじゃな。」ルスリーが隣の席から身を乗り出して、こっそり俺に耳打ちした。
うーん。
「冒険者諸君、貴殿たちのレベルをもう一度問おう。」エルマルシェが仰々しく俺のことを指さした。
「あ、はい、2レベルですけど。」サラッと返答。
もう、なんか面白くすらなってきた。
このままカード更新しないで2レベルのままで居続けたろかな。
「私は5レベルです。」ヤミンも俺に合わせて白々しく答えた。
「その・・・私もです・・・。」リコはまだ後ろめたい様子。
「うむ、お互いについて多少分かったところで、今回の大雑把な目的について話そう。」ルスリーが何事もなかったかのように会議を進行する。お前のせいだからな?
「今回、お前たちにはコルドーバ島の探索に赴いてもらう。これは長らく放置されていた案件じゃ。この島が我々の安全地帯として確保できれば、地元の漁師たちが助かる。」
表向きの目的が薄い!
「はっ! 些末な案件といえども二特の全力をもって成功を勝ち取ってみせます!」エルマルシェがこれでもかというくらい気合の入った声で返事をした。
ルスリーの曰くに、表向きの探索理由は、漁師たちの仮拠点を置きたいということらしい。ゲームのときもそんなクエストが上がってた記憶がある。
だが、この島の探索は時間もかかるし、報酬も功労点も高くない。一緒に併せられるような他のクエストもない。
ゲームの時ですら、プレーヤーたちはずっとこの島を放置していた。そもそもアルファンのAPCたちもそれほど強く解決を求めていないクエストだった。
おそらく、この世界でもそうなのだろう。
だが、アルファンでこのクエストがクリアされた時、このコルドーバという島がとても重要だったものだったことが分かった。
一つはコルドーバ島が30レベルくらいのキャラにとってレベル上げの穴場だったこと。もちろん、すぐに噂は広まって穴場ではなくなってしまったが。
もう一つはこの島には魔石窟があって、そこから魔石が王都に流れるようになり、王都の文化レベルが一つ上がる要因になったこと。
ルスリーはそれを分かっていてこのクエストをこの騎士団にあてがった。
事実上、コルドーバの魔石窟を見つけてくることが最も重要な案件だ。
俺がパワーレベリングに選ばれたのも、多分そこらへんをうまく誘導してくれということなのだ。
パワーレベリングだけならエイイチのほうが適任だと思うが、それではコルドーバで魔石窟をみつけた手柄が有名冒険者のエイイチのおかげとなってしまいかねない。
そこで、まだ名もそこまで知れてなくて、2レベルなのにパワーレベリングのできる実力のある俺たちの出番ということだ。これなら、騎士団が活躍のメインになる。
「残念だが、エデルは怪我をして今回は帯同できん。」
一通りの説明を終えたルスリーが最後に付け加えた。
そして、全員を見渡して口を開いた。
「というわけで、この案件について、お前たちの指揮をここにいるケーゴに取ってもらうこととした。」
「はあっ!?」
エルマルシェが大声を上げて立ち上がった。
「ついでに、コルドーバでお前たちを鍛え上げてもらうことにした。」
騎士たちが今まで無かったレベルでざわめき立つ。
「彼はカリストレムのケーゴだ。カリストレムの冒険者達を育成し、モンスターたちの襲撃を退けた英雄じゃ。彼にみっちり教えを乞うように。これは厳命だ。」
ルスリーは騎士たちの驚きを無視して厳粛に告げた。
「はっ!」
騎士団の皆は口々にそう返事を返したものの、全員の視線が冷たい。
「殿下! 私には納得がいきません。」
エルマルシェが立ち上がって大声で反対を口にした。
「殿下まで我々のことを過小評価なさるのですか。人数こそ少なけれ私にしろ皆にしろここにいる皆はみな騎士として恥じぬ力を備えております。こんな小僧どもに教えをこうことなど何一つありません。」
「お前こそ、偏見でものを言うでない。こいつらは強いぞ。こいつらの活躍については知っておろう。」ルスリーは聞く耳持たぬとばかりに言った。
「そんなもの、いくらでも尾ひれがつきましょう。我々はたった2レベルの初心者ごときに負けません。」エルマルシェも引かない。胸を張って言い返す。
ルスリーはエルマルシェを見つめると、諦めたように首を振ってからにこやかな顔で口を開いた。
「よろしい。エリーの言いたいことは分かった。コイツらがお前たちより強うあれば良いのじゃな。」
そう言うとルスリーは俺のほうを向いて、ニタアと笑った。
「相手してやれ。」




