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女騎士エルマルシェ

 その後、日本人連合のティーパーティーは他愛もない雑談に終始した。

 アルファンのゲーマーとしての話がほとんどだった。

 エイイチやルスリーもこっちに来たのが俺よりも早かったそうで、アルファンの最後まで付き合ったのはこの場では俺だけだったようだ。

 ルナはあまりアルファンのことには詳しくなかったようでアルファンの最後についてはみんなが満足するほど話せなかったらしい。

 俺がみんなに一通りのアルファンに終わりについて説明した後、みんなの質問に逐一質問に答える感じでケーキがなくなった後も俺たちは話し続けた。


 茶会が終わり、数日後。


 パワーレベリング前の打ち合わせをするため、俺たちはルスリーに城に呼び出された。

 前回ルスリーと会ったのは図書館だったので、城の中にまで入るのは初めてだ。

 城の前で門番に来訪を告げ、ルスリーの使いがやってくるのをリコやヤミンたちと緊張しながら待っていると、やがて松葉杖をついたルスリーの使いがやってきた。


「ルナ!」

「ルナちゃん!」

「ルナルナ!」

 

 俺たちは一斉に喜びの声を上げた。


「えへへ。久しぶりなの〜。」

 城の中からやってきたのはカジュアルな出で立ちのルナだった。


「良かった。動けるようになったんだね!」

「足がまだなの。」そう言って、ルナは両手の松葉杖を揺らした。

「剣とかは?」

「剣もまだダメだって。」

「そうか・・・。」

 クリムマギカでのできごとが思い出されて腹が立つ。

「みんな中で待ってるから、中で話そ。」


 ルナに案内されて城の中へと進む。


 中は質素で綺麗だ。天井も無駄に高い。

 上に余裕があると開放感があっていい。

 ルナに案内されるままに広い廊下を進んで行き、待合室のような部屋へと通された。

 この部屋の天井は普通だ。この上ってどうなってるんだろう?


 誰も居ない待合室の椅子に腰をおろしてルナと話し始める。


「ルナルナの部下を訓練するって、ケーゴから聞いたよ?」ヤミンがルナに尋ねた。

「うん。お願いなの。」

「【ゼロコンマ】があるからなんとかはできると思うけど。」俺も安心させようと思って口を開いたが、自信がないので任せての一言が出てこない。

「ルナちゃんはみんなとは戦ってあげたりしないの?」今度はリコが尋ねた。

「私じゃ教えるのは無理だよ。」

「女教師ルナとかになれば?」

「お!」

 女教師という俺の提案にコスプレ心が揺れたのか一瞬目を輝かせたルナだったが、すぐに暗い顔に戻った。


「本気で戦ったら私、勝っちゃうし。でも、手加減すると怒られるし・・・エリーちゃんもみんなも頑張ってるからあんまり自信失わせたくないし・・・。」

 ルナの表情は陰り、口調も力ない。


 ルナ、レベル高すぎるからなぁ。


「あんまり、部下とうまくいってないの?」

 直球で訊くべきことじゃないかもしれないけど、ルナに取って一番話しやすいのは俺たちじゃないかなって思って尋ねる。


 ルナは黙ってコクリと頷いた。


「そっか。どんな感じなの?」

「うーん。エリーちゃんにすごく睨まれてる。」

「ルナちゃん、エリーちゃんってどんな人なの?」リコが心配そうに尋ねる。

「副隊長なの。王都の貴族の強い騎士さんなんだよ。」

「あ、もしかして、エルマルシェ!」俺は心当たりを思い出した。

「そうなの。」


 エルマルシェはアルファンではルスリーの護衛騎士団の隊長だった。


「そっか、その人が嫌な人なんだね。」ヤミンが決めつけて言う。

「ううん。エリーちゃん、いい娘だし。すごい頑張り屋さんなの。面倒見もいいんだよ。」

 ルナはエルマルシェのことを苦手なのかもしれないが嫌ってはいないようだ。

「でも、なんか私、エリーちゃんに嫌われてるのかも・・・。」


 ルナがいなかったら騎士団隊長になってたはずの人だからなぁ。


「私、みんなからもちょっと距離を置かれてるみたいだし。」


 リーダーの資質に必要なのはざっくり2つ。

 部下を引っ張って物事を達成する能力と、人間関係をまとめ上げて良いチーム環境を整える能力。


 ルナには性格的に先頭に立って問題を解決していくタイプには見えない。

 でも、リコやヤミンを一晩に虜にできたくらいだし、人間関係を良好にまとめて良い環境を作るのはできる気がするんだけど。


「ルナルナ、クリムマギカでドワーフさんたちまとめてたからそういうの得意なのかと思ってた。」

「そ、そんなことないよぅ・・・。」ルナがちょっと泣きそうになる。「エリーちゃんのほうが私よりいろんなことできるし、みんなからの信頼も厚いし・・・。」


 そんなルナの言葉の最中に扉がノックされた。


「入ります。」

「どうぞ。」


 ルナの短い返事が終わるのを待つこともなく扉が開かれた。

 扉から赤毛の騎士が部屋の中へと入ってきた。

 こないだルスリーといっしょにいた人だ。

 

「エリーちゃん。」


 こいつがエルマルシェだったか。

「エデルガルナ様。出迎えご苦労でした。後は私が引き継ぎます。療養にお戻り下さい。」事務的な口調でエルマルシェは告げた。

「大丈夫、みんなと一緒に行くよ。」

「無用です。殿下からも体を休めるのを優先するように命じられているでしょう。」有無を言わさぬきつい口調でエルマルシェがルナに言った。

「う、うん。」

「でしたら、お戻り下さい。それとも二特はあなた抜きでは役に立たないとでも?」

「そ、そんなことは一言も言ってないの・・・。」

「ならば後のことは我々にお任せ下さい。今回、コルドーバへの遠征に行くのはあなたではない。私達だ。」

「・・・・。」ルナはとても悲しそうな顔をしてうつむいた。

 俺たちは困って顔を見合わせる。

「えーと、その、終わったらお見舞いに行ってもいいかな?」ヤミンが場の空気を読んでルナに声をかけた。

「うん。」ルナは小さく頷いた。「待ってるね。」

「お前たち、立て。会議場に向かう。殿下をお待たせするわけにはいかない。」エルマルシェは俺たちとルナのやり取りを気に掛ける様子もなく不機嫌に俺たちに命じた。


 俺たちはルナと別れ、エルマルシェに先導されるままに王都の廊下を奥へと進む。


「あの・・・ルナちゃん・・・エデルガルナさんが一緒にいたらまずかったんですか?」リコが恐る恐るエルマルシェに訊ねた。

「隊長と言えど作戦に関わりのない者がいる必要はない。それとも、お前たちもエデルが居ない第二特務大隊では不満だとでも言いたいのか?」エルマルシェがリコをものすごい目で睨みつけた。

「そ、そういうわけでは。」予想外の難癖をつけられて、リコが口ごもる。

「だいたい、近隣の無人島の探索ごときにお前らのようなどこの馬の骨ともわからない冒険者たちを連れて行く必要も無いのだ。」

「えーと、私達はあなたたちのレベルをあげを・・・。」

「しっ!」

 ヤミンが余計なことを口にしようとした雰囲気だったので慌てて黙らせる。

 今、ルスリーが俺たちにパワーレベリングをさせようとしてるなんてこの人に知られたら何言われるか解らん。


「これは第二特殊大隊がエデルガルナだけではないことを世間に知らしめるための大事なミッションなのだ。」

 そう言ってエルマルシェは拳を握りしめて天井を見上げた。

「はあ・・・。大変ですね。」

 俺のやる気ない相槌にエルマルシェは俺たちのほうを振り向いた。


「今のうちに言っておく、お前たちが足を引っ張るようであれば助けず捨て行くつもりだ。我々はエデルのように甘くない。これは我々第二特殊大隊の総意だと知っておけ。」


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