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ミロクケーキ店

 俺たちを乗せた馬車は王城を通過ししばらく進み、王都のメイン商店街を一本入った裏通りに止まった。

 一本向うの商店街と違って、この道の人通りはとても少ない。


 目の前には明らかに裏口といった感じの質素な扉がある。

 たぶんここが目的のケーキ屋の真裏なのだろう。

 裏口っぽい扉を騎士さんがノックすると中から、一人の女の人が出てきた。


「どうぞ。いつもの部屋です。上がってくつろいでいてください。エイイチさんはもう来ていますよ。」

「うむ、ご苦労。」ルスリーはそう言うと付き添いできていた赤毛の女騎士さんを振り返った。「エリーは表に並んどれ。」


 出迎えてくれた女の人に頭を下げることもなく自分の家よろしくトコトコと勝手に奥に入っていくルスリーに、俺はおどおどしながらついていく。


 ルスリーは慣れた足取りで廊下を進むとつきあたりの扉をノックもせずに開けた。

 ルスリーに続いて中に入ると、そこはおしゃれな小物で飾られた趣味の良い小さな部屋だった。

 真ん中に薄いピンクのクロスがかけられた丸い机が置いてあり、その真中にはやっぱり薄いピンクのティーカップや砂糖壺なんかが置かれている。

 可愛らしい部屋だ。

 テーブルには一人の先客が着席してこちらを見ていた。


「おひさ〜。」


 転生者の先輩、エイイチだ。

 カリストレムの祝勝会で会って依頼だ。

 

「久しぶり。」俺も挨拶を返す。「そっちのレイドボス戦は大丈夫だった?」

「バッチリさ。」エイイチは得意気に笑った。「そっちも大活躍してるんだって?」

「そうみたい。」

 俺の方は得意げに笑えるほど実感がない。

 

 俺とルスリーはテーブルの回りに用意されていた4つの椅子のうち入口側の一つを残してテーブルに付く。

 それを見計らっていたように部屋の扉が開いて、さっき俺たちを招き入れてくれた小柄な女性がケーキとティーカップを乗せたお盆を持って入ってきた。女性と言ったが二十歳は超えてまい。


「あいかわらず繁盛しているようじゃな。」ルスリーが部屋に入ってきた女性に声をかけた。

「ええ、お陰さまで。」

「忙しいところ急に場をこしらえてもらって、すまんのう。仕事にかこつけんとなかなか出られぬゆえの。」

「販売は従業員におまかせしているので、大丈夫ですよ。午前中は暇です。」

 そう言いながら、女の人はケーキと紅茶のカップを並べていく。

「なんで一人一個縛りなんじゃ?」ルスリーがケーキを見ながら文句を言った。「もっと余らせい。なんじゃったら試作品とかの味見をしてもよいぞ。」

「ルスリーちゃん。もっと欲しかったらちゃんと並んで下さい。」

「ちゃんと部下を並ばしておるわ。」

「じゃあ食べ過ぎです。太りますよ?」

「あの・・・。」


 何事もなく俺の目の前にも美味しそうなケーキが置かれていったので、はたして何か言ったものかと気まずくなって思わず口を開いたが、気の利いた言葉が出てこない。


「あ、ごめんごめん。彼女がミロクちゃん。前に話したよね。もと日本人」エイイチがケーキを並べている女性のことを紹介する。

 ミロクと紹介された女性はこっちを向いてニッコリと微笑んだ。

「こっちはケーゴ。」エイイチが今度は俺を紹介する。

「はじめまして。エイイチからお名前だけは。」

「あ、はい。私もお名前と転生者ということしか。」

「それはケーキを食いながらでも良かろう。先にいただきますじゃ。」ルスリーが待ちきれない様子で言った。


 ケーキを配り終わったミロクさんが開いていた椅子に腰を下ろすと、日本人連合のティーパーティーは始まった。

 

 ミロクさんもアルファンプレーヤーだったらしい。

 聞けば俺よりも半年ほど早くに死んで、王都の近くの街の商人の子供に生まれかわったのだそうだ。生まれ変わって記憶が戻る前からずっとケーキ屋をやりたくて修行を積み、ついに二年前ここにお店を開業したらしい。

 開店当初から王都の大人気なのだそうだ。


「アルファンではレンドラドの水竜を倒したので有名になったんですよ〜。」


 げ、元ランカーじゃねえか。

 ユージも黒羊だったっていうし、俺って転生者の中じゃ雑魚やんけ。


「表紙にも載った方ですよね? 何だって、ケーキ屋になったんですか?」思わず尋ねる。

 転生チートまっしぐらできそうなのに。

「私、前世では足が弱くて。アルファンばっかリやってたのもそのせいなんです。」

「あれ?ケーキ作るのと関係あるんですか?」

「ケーキ屋さんとかパン屋さんって、朝から昼くらいまではひっきりなしに動きっぱなしなんですよ。」ミロクさんは答えた。「だから、前世ではケーキ屋さんにはなれなくて。せっかく異世界転生したので、神様にお願いして、ケーキを作るのに必要なスキルをいっぱい貰っちゃいました。」


 アサルからあんなことを言われたせいか、ミロクさんの言葉が素直に腑に落ちてこない。

 神って言葉に不快感を感じる。


「普通だけど幸せな人生を歩めて、神様には本当に感謝してます。」

 ミロクさんは心から嬉しそうに感謝の言葉を口にした。

「・・・・。」


 よく分からない。

 俺にしたって、死んだのに転生させてもらって新しい人生を歩んでいるわけだし。


 その一方で神は俺たちは殺したいという。


 神は何をしたいんだ?


 ミロクさんの話が終わると、簡単に俺の紹介が行われ、流れのまま話題は北部レイド戦の話とクリムマギカを襲ってきた転生者たちの話になった。

 ルスリーはユージの企みに関してと、クリムマギカとケゾーフルで転生者たちがこの世界の人々を殺して回っていたことを話した。

 ここでもルスリーはケゾーフルの詳細は伏せた。

 そのことが彼らの行状がいかに酷かったかを容易に想像させた。


「酷い・・・。」ミロクさんが悲しそうに呟いた。

「この世界の住人をモノ扱いしてやりたい放題じゃ。」

「せっかく生まれ変わったんだから、真っ当にやりたいことをすれば良いのに。」

「世界に対して、自分の優位性を示すことが奴らのやりたいことだったんじゃろうて。」

 ルスリーの言葉の棘が俺のことも刺しているような気がしてなんか居心地が悪い。

「でも、エルダーチョイスの武器を3つ全部集められたらユージってやつの思う通りに世界が変わっちゃうんでしょ? やばくないですか?」エイイチがルスリーに問いかけた。

「時計が一つ進んだのもそのせいですかね?」ミロクさんも首をかしげる。

「よくわからんが、剣はこちらで回収しておいた。エイイチ、要るか?」なんの前触れもなくルスリーはエイイチに言った。

「は? そんな物騒なもんいらないですよ。」

「そう言わんともらっとけ。ダメージ3倍らしいぞ?」

 ホントは3.5倍。

「分割して誰か信頼の置ける強い人間の手元に置いとくほうがわしも安心じゃし。」

「勘弁してください。そんな世界滅亡の鍵になるようなもん持ってるのなんて嫌ですよ。」

「そんな重く捉えるな。槍はケーゴが持っとるらしいし。」

「えっ??」

 突然のカミングアウトに俺びっくり。

「エルダーチョイスがやけにテンション高めに言っとったぞ? お前にやってよかったって。要領を得んので何言っとるかわからんかったが。お主がエルダーチョイスの槍を持っとるのじゃろ?」

「え? いやぁ?? あ!そう言えば。」


 そういば、エルダーチョイスから貰った鞭って、貰う前は槍だった。

 ってことをルスリーに説明する。


「ふむ。なるほど。」

「ええと、俺、この鞭・・・槍? どうしましょ?」

「そのままお前が持っとれ。お前が持っとるのが一番安心じゃ。それに転生者の存在については伏せとるから城で安置するにも説明が色々とめんどくさい。」

「ええぇ・・・。」


 途端に厄介なものに思えてくるエルダーチョイスの鞭。

 でも、超とんがったスキル構成の俺にとって、そのリスクを以てしてもこの鞭は手元に置いておきたいところ。


「もう一つの宝珠とか言うのはどういうものなんです? それも武器なんですか?」エイイチが訊ねた。

「アイテムらしい。じゃが、もうないようじゃ。」

「はぁ。」

「ケーゴが使ってしまったらしいからな。」

「はぁっ!?」


 また!?

 心当たりないぞ?

 あれか? 魔法訓練用の棒のことか?


「お主、クリムマギカで全部魔導砲に放り込んだろ。」

 

「は?」


 あ。


「あのガラス玉ですか!?」

「良う知らんがエルダーチョイスはお前が魔導砲にぶち込んだと言っとった。」

「なんだ、使っちゃったんなら安心ですね。」エイイチが安堵の声を漏らした。「これでユージの企みも失敗になればいいんですけど。」

「残念じゃが、代替品がある。」

「え!?」

「エルダーチョイスがその宝珠を作るためのモデルとしたアイテムがあるらしいのじゃ。」

「もしかして重魔攻石ですね?」


 心当たりがあったので尋ねる。

 これで色々と繋がった。


「そうじゃ。知っとったか。」

「だからコルドーバ島に行くってことですか?」


 重魔攻石はコルドーバ島の魔石窟でとれるレアアイテムだ。

 使い捨てだが一部の魔法の威力を2倍にする。


「その通り。コルドーバを攻略した人間がその鉱石を採掘できるということじゃ。ユージに取られる前にさっさと掘り出して片っ端から使ってしまおうぞ。」



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