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御前会議

 王城の一室。

 会議のために作られた小部屋にはこの国の国王アアル4世と、各騎士大隊の中核が集まっていた。

 王と騎士団の代表、計6人が長テーブルに着席し、その後ろに各隊の隊長や副隊長が起立している。


 先日、南部のレイド戦が終了し、ようやく各隊の隊長が集う機会が得られた。

 今回の会議は北部でおこった騒乱について情報を共有するために立ち上げられた場だった。


 アアル王国には国を守る3つの騎士団と王族直属の3つの騎士団がある。

 第一から第三までの大隊が王都や国土の安全を守る。

 さらに、近衛大隊、第一特殊大隊、第二特殊大隊はそれぞれ使えている王族個人を守る。こちらはアアルの王族が個人の裁量で動かすことのできる部隊だ。こちらの代表は隊長ではなく各王族となる。


 此度、この会議の報告を行っているのは第二特殊大隊代表のルスリー王女。

 そして、その話の中心にいるのは一つの冒険者パーティーだった。


「・・・と、このように北部レイドボスを倒した後、クリムマギカに取って返したケーゴたちはクリムマギカにてレゾーフル強襲犯を退け、クリムマギカを救ったということになる。」

 ルスリーはまるで自分の部下を自慢するかのように冒険者達の功績を語った。


「すばらしい。是非ともケーゴ君たちは表彰してあげたいところだな。」第二騎士大隊隊長ウェルフェイン公がルスリーの報告を聞いて嬉しそうに言った。


 ウェルフェイン公爵は、もとは男爵位だったものを様々な国の困りごとを解決し公爵まで成り上がった男だ。そういった背景から、彼は平民たちが組織する冒険者という職業が大好きだった。


「ケーゴというのは先日のカリストレムの時に挨拶してた子だろう? それほどのことを成すほど強いようには見えなかったが。」第三騎師大隊隊長キルロックが首をかしげた。


 キルロックはカリストレム強襲イベントに救援に出て、その地でケーゴという冒険者をその目で見ていた。

 3日間のイベントを生き残った強者ではあろうが、そこまでの強さは感じられなかった。

 その時キルロックの目に写っていたのは、冒険に憧れる、甘酸っぱく初々しい少年だった。


「ケルダモで聞いた限り、新種のレイドボスを倒したのはケーゴと言う冒険者で間違いないようです。一緒に戦っていたエデルガルナよりも名が立っていました。」そう注釈をいれたのはレンブラント。


 彼は第一騎士大隊の隊長だ。

 王国No.2の彼はケルダモに直接赴き、ケーゴという少年がオーバーモースをほとんど一人で倒したという現地の目撃者の証言をその耳で聞いていた。

 彼は王国騎士No.1であるエデルガルナを差し置いて功績を上げたケーゴという冒険者に会ってみたいと思っていた。


「カリストレムのケーゴは王都の冒険者ギルドでも有名だな。」ウェルフェイン公も後押しするかように言った。

「カリストレムの冒険者が突然強くなったのはケーゴという男の仕業だという噂だろ? そんなもん、あの現場で3日も不眠不休で戦っていたら誰でも強くなるって。」キルロックはバカバカしいと言うように片手を振って見せた。

「冒険者になったばかりの少年が新種のレイドボスを倒したなんて信じられないのはよく分かる。」と、レンブラント。「正直、私もじかに会って確認をしたいと思っている。」

「だろ? ちょっと信じがたいぜ。」

「カリストレムの時から成長したのじゃよ。」ルスリーが騎士たちの会話に口を挟んだ。

「そんなに早く成長するものかね。」

「たった今、3日も不休で戦えば強くなると言うたばかりではないか。」ルスリーはキルロックの言葉尻を捕まえてそう言った。

 やり込められたキルロックは黙って肩をすくめた。


「冒険者たちには相応の報酬と功勲を与えるように手配しよう。」ずっと議場のやり取りを聞いていた王が口を開いた。「それと今回はエデルガルナの功績も大きい。第二特殊大隊の勲功として表彰するよう手はずを進めさせよう。」


「父上!」

 王の言葉に明らかに反論の意思のある声が上がった。


 声を上げたのは、第一特務大隊を指揮するアアル王国第一王子、アルトロワだった。

 彼はルスリーの兄で、何かとルスリーと第二特務大隊を目の敵にしている。

 今までずっと興味がなさそうにルスリーの話を聞き流していた彼だったが、王の言葉にここぞとばかりに立ち上がって声高に反論した。


「ルスリーを甘やかすのはお止め下さい。たしかに、エデルガルナは相応の功績を上げました。しかし二特は駄目だ。」


 アルトロワのその言葉を聞いて、ルスリーの後ろに立っていた第二特務大隊の副隊長である赤毛の女騎士が下唇を噛んだ。


「特務大隊は本来我々の護衛でしかない。強大な力をもつ父上の近衛騎士隊と1000からの兵力を保有する我々第一特務大隊は特別なのです。ルスリーの『護衛大隊』はたったの20名ですよ。しかも、みな街の衛士程度の強さのお飾りの騎士たちだ。いくらエデルガルナがいるからといえど力もなき20人程度の護衛部隊全体を甘やかすのはよくありません。」


「アルトロワよ、エデルガルナは二特の隊長だ。ならば、彼女の功績は二特のものであろう。」

「父上! それは危険な考えです。」

 アルトロワはその質問を待っていたかのようにニヤリと笑った。

「エデルガルナがもし戦いで命を落とすような事があれば、二特はただの役立たずの部隊と化すのです。その時に二特そのものの価値を民衆が勘違いしていたなら、困るのは二特自身なのですよ?」


「まあまあ、アルトロワ殿下。おちついて。」ウェルフェインがなだめるように言った。

「婚約者の擁護ですか? そういう私情を持ち込まないでいただけますか、ウェルフェイン公。」アルトロワが不機嫌に反論する。

「そういうわけではないよ? 殿下こそ、姉上を意識しすぎなのではないかね?」

「私はむしろこんな弱い騎士団しか持てぬルスリーを心配しているのです。それがルスリーの人徳の限界なのですから。」


 ルスリーの後ろで、副団長が歯ぎしりが聞こえてきそうなほど歯を食いしばっていた。

 

「陛下。構いませぬ。褒美はエデル個人にくれてやってくだされ。」ルスリーは平然と言った。「二特もようやく形を成してきました。ちょうど今、エデルが怪我をして動けませぬ。此度この時に、二特がエデルが居なくとも活躍できる騎士団であることを示して見せましょう。その時に誉めてやってくだされ。」


「はっ! 二特ごときが何をできるって言うんだい? たった20人のおままごとで何ができるってんだ。」

「エデルはたったの一人じゃったぞ? アルトロワ殿下。」

「ならお前の女騎士20人でいったい何ができるのか、この場で言ってみろよ。」


 ルスリーは少し考えてから言った。


「ふむ。では、陛下。コルドーバ島の探索を我々の方で受け持ちましょう。」


「そりゃ傑作だ! この国の中で一番どうでも良い課題だ! 二特にふさわしい。」

「リスクとリターンが見合わぬだけじゃろ。実際、コルドーバに20人で行って、コルドーバの強力なモンスターたちと戦えと言われて『はい、そうですか』と行くことのできるやつがどれだけ居ると思っておるのか。」

「たしかに、コルドーバは強いモンスターもいる。20人でとなるとちょっと不安だな。かといって100人も200人も船でつれてくかって言われたらそれもなぁ。」キルロックが呟いた。

「私が行けば20人でもなんとかなるかな。」と、レンブラントが謙遜する様子もなく言った。「エデルでもそうじゃないかな。」

「じゃが、今の二特にエデルはおらぬ。エデル以外が二特の本体じゃ言うならば、二特の本体の実力を見せるにはちょうどよかろう。」

「たしかに。」今度はウェルフェインが頷いた。「コルドーバの制圧についてはギルドにクエストとして持ち込んでいるが、推奨40レベルのせいか誰も受けようとはしない。エデルガルナ抜きでクリアできれば二特の評判も高まろう。」

「ふん。ちょっと観光して帰ってくればいいだけのクエストじゃないか。僕らみたいに行方不明事件の解決とかレイド戦とか国のためになることをしてこそ、初めて評価が上がるべきなのに。」アルトロワがウェルフェインの言葉を聞いて負け惜しみのように唸った。「コルドーバが制圧できたからって、なんだってんだい。あ、ひょっとして、僕が王様になった後の逃げ場所でも準備しているのかな? ぜひとも未開のコルドーバを制圧して君の将来の領土にするといいさ。」

「くっくっく。生まれが早いからって王になれるとは限らんぞ? 生まれが早いのに、王になれなかったらそれはお前が私に劣っているということじゃ。」ルスリーは眼光鋭くアルトロワを睨みつけた。

「僕に喧嘩売って敵うとでも思ってるのかい?」

「人気、金銭感覚、魔術と技術に対する造詣の深さ、全てわしが勝っとるが? 兄上の勝っているのは年齢だけじゃろ。」

「今回、一特はレイドボスの討伐4位だ! 第一大隊よりも上なんだぞ。僕の軍隊はもはや国の中核だ!」

「我々はほとんど北部に援軍で出てたんですけどね。」レンブラントがこっそりとルスリーに囁いた。

「・・・待て? 4位? 第一がレイドボス戦に参加せなんだら、第二、第三についで3位のはずじゃろ。まさか、1000人もおってエイイチたちに負けたんじゃなかろうな?」

「うるさい!! お前たちの軍隊なんて参加すら許してもらえなかったくせにっ!」

 アルトロワは余裕がなくなってきて、喚き散らすような口調になっている。

「アルトロワにルスリー。父の目の前で王位の争いを繰り広げるのは止めよ。次期王をお前たちの中から選ぶとも限らないのじゃぞ。」

「父上っ!」

 と、叫んで立ち上がったアルトロワに対して、

「はっ。申し訳ございません。」

 と、ルスリーは礼儀正しく謝罪をした。

「点数稼ぎかい? 見苦しいよルスリー。」

「アルトロワ殿下、王の御前で兄弟喧嘩を続けることこそ、見苦しいのではないですかな?」ウェルフェインがアルトロワを叱るように言った。

「! また、ウルフェインはルスリーばっかり贔屓して! 僕だってあなたの剣術の弟子なんだよ!ウェルフェインは僕のことは嫌いなの?」アルトロワが会議にあるまじき見当違いの発言を叫ぶ。

「で、殿下!?」ウェルフェインは困ったように周りを見回した。

「くっくっく!」ルスリーから思わず笑い声が漏れた。

「何が可笑しい!」アルトロワがルスリーを睨みつける。

「別に。」そう答えながらルスリーは笑いを抑えきれない様子だった。

「相変わらず、三人は仲が良いなあ。」キルロックが場の空気にそぐわない感想を述べた。

「仲良くなんてないっ!!」顔を真っ赤にしてアルトロワが叫んだ。


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