北部アアルの救世主
俺が立ち上がれるようになるのを待って、ルスリー王女とクリムマギカ代表のディグドとフーディニアスによる俺たちへの感謝のパーティーが執り行われることになった。
半壊した入り口ホールにみんなが集まっている。
パーティーの開始を前に、女騎士たちを両脇に従えたルスリーが簡単な挨拶をすると言って、俺たちをみんなの前に立たせた。
ちなみに、ルナは両手両足が治ってないので不参加。
「皆の者、余は此度の不幸と災いに対し痛く心を痛めるとともに、無くなった者には哀悼の意を表する。また、生き残った者たちの辛坊と果断を高く称賛する。よくぞ一同協力してこの厄災の日々を乗り切った。」ルスリーが挨拶を始めた。
ありがたいことに俺らから挨拶はしないで良いと聞いている。
ルスリーのことだから、様式美とかなんとか言って何かしら挨拶させようとするかと思っていたのでほっとした。
「過分に皆の忍耐と行動を称賛したいところだが、此度、皆の村を救うために外部の冒険者たち3人が命をかけて戦ってくれたことを忘れるわけには行かない。」
ルスリーの声に会場のドワーフたちが大騒ぎで拍手をし始め、エルフたちが空気を読んで続く。
ちなみに、ドワーフたちはすでに酔っ払っている。
「この者たちは、お前たちの村を二度救った。しかも二度目は依頼でもなく、ただ諸君らを助けるために命をかけてこの場に馳せ参じたのだ。」
褒められて気恥ずかしいと言うより、なんか自分の事を言われている気がしない。
そんな大層なことはしていないつもりなんだが。
「しかも、彼らは二度この街を救う間に、ケルダモの街も救ってきているのだ。」
ルスリーのセリフの合間を待って、ドワーフたちが再び騒ぎちらし、エルフが空気を読んで拍手をする。
ライブのMCのようだ。
「ここ北部アアル地方の厄災を退けた勇者、ケーゴ、ヤミン、リコの三名に感謝と敬意を。彼らの英雄たちに並び立つ偉業を称し、この場を皆と共に祝い誇ろうぞ。乾杯!」
ルスリーが盃を掲げ上げ、合わせるようにドワーフたちが次々と周囲とグラスを打ち合わせた。エルフたちもドワーフに巻き込まれ、次々と作業のように乾杯を繰り返していく。
俺は頭に打撃を受けたので、今日は酒は念の為NG。
どのみち用意されてるのはドワーフの飲むきつい酒だ。しかも、つまみは見た目が前衛的で様々だけど味はダダ甘一辺倒のエルフの料理か、味は様々だけど見た目と食感がハムのドワーフの食べ物しかない。
でも、スルメ味のハムは気になるから後でもらおう。
ルスリーの挨拶が終わり、解放された俺たちの元へ、ドワーフたちが寄ってきた。
「よ、ケーゴ。」
「無事そうで何よりじゃ。」
メルローとエルダーチョイスだ。
二人とも顔が腫れが引いておらず、ひどい顔だ。
メルローに至っては片耳を失っている。
しかし、二人共酒を飲んでごきげんのご様子。
「みんな、ほんと助かったよ。もう研究が続けられなくなっちゃうかと思った。ありがとうね。」メルローが嬉しそうに話しかけてきた。
「メルローちゃん、耳・・・。」リコが申し訳なさそうにメルローを見た。
「ああ、これ? 別に大丈夫だよ? 研究には支障ないし。どのみち爆発で鼓膜破れてて聞こえない時のほうが多いしね。」メルローがあっけらかんと答える。
「そ、そういう問題じゃないんじゃ・・・。」
メルローの返事にリコがドン引く。
「王都に行けばきっとくっつけるくらいはできるよ?」ヤミンもメルローに心配そうに声をかける。
「でも、耳、もうあげちゃった。」
「「「はあっ!?」」」
「なんか実験に使いたいっていうエルフが居たから・・・。」
「ええぇ・・・。」
さすがに引くわ・・・。
「勝手に心配してやるな。メルローの研究には何の支障もない。」エルダーチョイスが呆れ返っている俺たちを見て口を挟んできた。「しょせん耳なんてただの飾りよ。」
違うと思います。
「ワシからも礼を言わせてくれ。ワシも例の魔法威力ブーストアイテムの完全品を作りたくての、まだ死にとう無かった。」
「間一髪でした。」
「まったくじゃ。お主に武器を託して良かったわい。」エルダーチョイスは腫れ上がった顔でも分かる満面の笑みを浮かべた。
「ホントだよね!」メルローもあざの痛々しい顔でニッコリと笑った。
何か知らないけど、犬猿の仲だった二人が心なしか仲良くなっている気がする。
と、そこに別の一団が寄ってきた。
「ケーゴよ、ゴーレムの手紙は読んでくれたか。」
「親方!」
親方と一緒にディグドとフーディニアスだ。
「ええ、読みました。突然ゴーレムが飛んできたのでびっくりしました。」
「よかった。ケルダモに行くと言うとったから届くかどうか心配じゃった。助けに来てくれてありがとうな。」
「みんなもご無事で良かったです。」
「お主の出してくれた仕様のおかげだ。」フーディニアスが言った。
「仕様?」
フーディニアスたちはこれまでのことを説明し始めた。
彼らの話からクリムマギカの状況がようやく理解される。
彼らは前回のイベントの時、最悪の場合に備えて俺が用意していた避難プランを使って籠城していたんだそうだ。
「ルナちゃんは無事かの?」ディグドが尋ねてきた。
「骨折してまだ立てないみたいなので部屋で安静にしています。命に別状はありませんよ。」
「そうか・・・無理をさせてすまなかったと謝っておいてくれ。まさか、あいつらがあんな酷いことをするなんて思って無かったのじゃ。」親方がすまなそうに言った。
「親方のせいじゃないでしょ。」
「いや、ルナちゃんに無理を言ったのはわしなんじゃ。みんなが縛られたあと少し隙ができてたから、ルナちゃんにタイターン4にエネルギーを注入してくれるよう、フーディニアスの魔法で伝言を頼んだのじゃ。」
それで、ルナは自分からあんなこと言い出したのか。
「まさか、あんなムチャをしようとは・・・。」
「いえ、親方の機転のおかげで俺たちみんな助かったんです。気に病まないで下さい。むしろ、ありがとうございます。」
「本当にありがとうございます。」リコが親方の手を取って深く頭を下げた。
「親方さんがいなかったらどうなってたことか。ルナルナも絶対に感謝してると思う。ありがとうございました。」ヤミンも頭を下げた。
「手紙をくれたのも親方だし、真の殊勲者は親方かもしれませんね。」
ってか、ほんとに親方の機転が無かったら、クリムマギカ無かったんじゃない?
「これは次期技術フェローの座は決まったな!」ディグドが嬉しそうに言った。「早速みんなに吹聴してこよう。」
「ちょ、待て! ディグド!!」
「待たぬわ! 次期選挙戦はもう始まっているのだ! 今回は絶対にお前を勝たせる!」
そう言うと、ディグドは駆け出していった。
「やめろ! 卑怯だぞ! お前がBプランを思いついたから犠牲が少なかったんじゃないか! こっちもお前の功績を広めて勝たせてくれる!」
ディグドを追って親方も慌てて走り出す。
相手を勝たせる選挙戦・・・。
「よかったのう。メルロー。」エルダーチョイスが走っていってしまったディグドと親方を見送りながら言った。
「え? 何で?」
「そりゃ、お前、あんだけのモンぶっ放ったんだ。次期フェローはほぼお前で決まっとったぞ?」
「ええっ!? 嘘でしょ? やだよ!」
この街って、よく機能してるよな。




