決着
「人数が多いからって勝てると思うなよ?」
止まってしまったタイターン4の向う側で栗毛の冒険者が邪悪に笑った。
ルナは両手両足を折られて動けない。
ドワーフたちには彼らは荷が重い。戦いに巻き込めば必ず死者が出る。
エルフたちの魔法は封じられている。
しかも、洞窟という地形のせいで数の有利を活かしにくい。
実質、俺とリコとヤミンvs向う側二人の戦いだ。
逃げてくれればありがたかったが、あちらもクリムマギカの戦力を正確に把握している様子だ。
「ケーゴ!」
ヤミンが鞭を投げてよこした。
まだ、フラフラとした頭でどうにかキャッチする。
今、俺は魔法の武器の力もあって、攻撃面としては40レベルに近い能力のはずだ。
多分、今なら栗毛とも戦えるはず。
もちろん、体調が万全ならだが・・・。
彼らは俺たちのことをいまだ侮っている。
奴が転生者で、俺たちのことをNPC的なキャラだと思っているのなら無理もない。俺の2レベルの冒険者カードのこともある。
相手が油断しているうちに、どんな手を使ってでも勝機をつかむしかない。
頭がグルグル回っているが、無理やりに立ち上がる。
まだ、身体に力が入らない。
それでも、こいつらの思い通りにはさせない。
赦す気だってない。
ぜったいに、こいつらを倒す。
どんなことをしてもだ。
「リコ、ヤミン。すまないけど。大男を頼む。」
そう言って、俺は栗毛の前に進み出た。
「もう、どうでも良い。最初っから全員ぶっ殺してから探せばよかったんだ。」栗毛の冒険者が叫んだ。「ヘイトを殺しやがって! 人間を殺すNPCなんか存在していいわけねぇ! お前ら全員ぶっ殺す! その後、あのイカれた強さの女を散々使いまわしてからぶっ殺してやる。」
栗毛が俺に向かって剣を構えた。
あ?
もしかして、あいつの構えてるのエルダーチョイスの剣か!
「雑魚が! 死ね!」
栗毛の鋭い剣が俺を襲い、かろうじて身をひねった俺のすれすれを通り過ぎていく。
あぶねえ!
今、避けれたのはラッキーだった。
エルダーチョイスの剣の命中補正のおかげもあって攻撃が鋭い。
たしかダメージも3倍とかだったはずだ。
当たるとかなりやばい。
慎重に間合いを取る。
武器の間合いだけなら俺のほうが有利だ。
「?? 何で外れた?もしかして、魔法無効化がエンチャント武器にも効いてるのか?」
栗毛はエルダーチョイスの剣を振りながら首をかしげた。
「ジェイク気をつけろ。そいつ、強いぞ。」大男がリコに向かって大槌を構えながら忠告する。
「は? こいつ確かブルーカードだっただろ?」
「ただのブルーカードに俺は拘束されたりせん。」
「ありえねぇよ。それに、この時代のアルファンで俺より強い冒険者がノーネームでいられるわけねぇ。お前が素早いのに弱いだけだ。」
そうだ、油断していてくれ。
お前の増長こそが俺の勝機だ。
「・・・・。」大男は忠告はしたからなとばかりに黙ると、リコに向かって大槌をかまえた。
栗毛はこちらに剣を向けてじりじりと間合いを詰めてくる。
今は回避集中!
まだ、体の動きがよくない。
次の攻撃も転がるようにして無様に逃れきる。
「あれ? なんで?」
栗毛は首をかしげた。
そして、今度は俺を助けに動こうとしたドワーフたちに剣の先を向けた。
「君たちは後だよ。」
どうにか攻撃をかわせたものの、相手は周りを見ている余裕もありそうだ。
こっちは避けるのでやっとなんだが。
連続で攻撃されたらまずい。
命中の上がる技でも使われようもんなら絶対避けられない。
「ムカつくなあ。今どきプレーヤーを苦戦させるモブキャラなんて流行んねえっての。」
栗毛はそう言って、再び攻撃を繰り出してきた。
今度はさっきより速い!
「!!」
身を捩って回避。
しかし、避けきれない。
エルダーチョイスの剣が俺の肩を切り裂く。
切れ味が良すぎるせいか痛みが殆ど無い。
しかし、肩口がパックリと割れて、大量の血がダラダラと流れ出す。
ぶっちゃけ、足元がおぼつかないせいでよろけたのが逆に効を奏した。普通に避けてたら、もらっててもおかしくなかった。
「いちいち粘るなよ。結果は変わらねぇってのに。」
まずい。
今のかすりあたりでこれだ。
次、相手が本気で攻撃してきたら、避けれる自信がない。
でも、少し動いたせいか、動けるようにもなってきた。
ここは攻める。
エルダーチョイスの剣を使ってこれなら、相手はそこまで強くない。こっちの攻撃は通用するはず。
ステータスを開く。
「【乱舞】!」
いつものようにスキル上昇を見ながら、狙うべき場所を探し出す。
「チッ! 雑魚モブのくせに調子に乗んじゃねえよ!」
ほとんど、受けられてしまった。
ダメージも抜けてないようだ。
「てか、弱ぇえな。そんな攻撃じゃいくら当てても、ダメージなんて入んねぇぞ? 特性を偏らせて戦略を練らせるタイプのNPCってことか。」栗毛は勝手に納得し始めた。
もう一度。
「【乱舞】!」
「お前の攻撃なんて避けるまでもねえよ。」
栗毛は俺の【乱舞】の中を突っ切って、間合いを一気に詰めて来た。
こっちの攻撃に当たることも気にしていない。
「効かねえよ。それがお前らモブの限界だ。」
効かなくて結構。
クリティカルする場所はもう見つけた。
「じゃあな、そろそろ死ね。【連撃】!」
間合いを詰めてきた栗毛が不敵に笑って小さく剣を振りかぶった。
「やだね、死んでも日本には戻れないからな。」
「なっ!?」
俺の言葉に栗毛が大きく目を見開き、踏み込みが完全に止まる。
それを逃すつもりはない。
「【カウンター】! 【尖突】! 」
オーバーモース戦で上がった【牙突】の派生スキル【尖突】を使用。
クリティカル率とクリティカル時のダメージが上がる。
俺の今の最大攻撃。
転生前の俺すら知らんかったので多分レアスキル。
これがクリティカルできないと向うの手番で決められる。
だが、【回避】に気を使って【クリティカル】を狙える相手じゃない。
乗るかそるか。
入ってくれ!
俺の鞭の尖端が放物線を描いて敵に向かう。
そして、俺のコントロールされた鞭は相手の手前で急角度で向きを変え、鎧の隙間を縫って脇腹から上に向けて無慈悲に刺し貫いた。
「がはっ!」
相手の攻撃が完全に止まった。
俺はバックステップで相手の間合いの外にあわてて逃げる。
「なんだよ、てめえ、転生者かよ・・・。ちくしょう、人の癖に・・・人殺しが!!」
栗毛の冒険者は口から血を吐いて、俺を睨みつけたまま前のめりに倒れた。
リコとヤミンは?
二人のほうを振り返る。
リコとヤミンの方も決着がついていた。
リコに剣を突きつけられて、大男は両手を上げて降伏していた。
勝ちだ。
だけど・・・
ホッとするとともに、一気に正気に戻る。
目の前に血まみれで倒れている冒険者。
こいつは人間だ。
しかも、日本人だ。
多分、ゴーレムに潰されたあいつも死んでる。
あいつも日本人なのだろう。
俺は・・・
集中が切れて、目まぐるしく頭が回り始めた。
俺は激しい目眩とともに、地面に倒れ伏した。




