上司面談
仕分けの作業が増えてしまった、俺、ますます業務がブラック化。
でも、借金は問題なく返せそう。
今日はちょっとばかし仕事が遅く終わったので、魔石の仕分けの時間がいつもより遅い。
小数点思い出す前に比べりゃ全然楽だけど、全然戦闘スキルのレベル上げができん。
ここのしばらく、魔石のより分け方を変えているので効率が悪い。
何でかって言うと、カムカがこっそり俺の作業を見にきているからだ。
カムカは俺が魔石のより分けについてスージーに報告した後、毎度こっそりやって来ては俺の仕事を覗いている。
とりあえず、しばらく泳がしたままにしているが、見られても面倒なので【ゼロコンマ】で樽を選別するのは止めている。
たぶん、カムカは俺が何かしら悪事を働く現場を抑えるか、俺に罠をはるような機会を探っているのだろう。
だけど、こうも毎日覗かれてはこっちも仕事が大変だし、カムカの仕事も止まっているだろうから互いに非効率だ。
そろそろカムカもヒリついてきたところだろうし、決着をつけにいこうか。
俺の手元からさも偶然かのように魔石が一個転がり落ちる。
背後に転がったその魔石を拾おうとして、物陰に隠れているカムカに初めて気づいたふりをした。
「あれ! カムカさん。どうしたんですか? こんな遅くに?」
俺があっけらかんとした様子で声をかけたので、渋々とカムカが物陰から姿を現した。
「お前を見張ってたんだよ。」
「え!? 何でですか?」
天然を装ってどストレートを放り込む。
「お前、怪しいからな。」
「怪しい?」
「数万もの魔石をこんなに簡単に選別できる訳がない。お前、例のレアスキルを使って何かしてるだろう?」
おっと、そんなん考えてたのか。
てっきり、俺の仕事の邪魔をしたり、俺が何かやらかすのを見張ったりしてるかもとか思ったけど、カムカの中ではそこまでこじれてはいなかったか。
「もし使えるレアスキルだったら、とっととどっかに高い金で売り払っちまえるからな!」
うん。
こじれてはいるっぽいな。
「アタシは小ズルいことばっかり考えるお前が大嫌いだからね。 どんなことをしても追い出してやんよ。」
あれ?
カムカを懐柔しようと思ってたけど、カムカの思惑通りに進んでも別に良いんじゃね?
どっちに転んでも俺の勝確じゃん。
とはいえ、今はカムカに追放される方法を準備してない。
せっかくカムカと仲良くする小ズルい作戦を練っちゃったし、これが上手くいかなかったら追放されることを考えよう。
「そんなこと言わないでくださいよ! 俺が今活躍で来てるのだって、カムカさんがいろいろ指導してくれたおかげっすよ?」
まずはおべっか。
「は!」カムカが鼻で笑う。
効くわけないのはもとより承知。
「俺、どのみち、1年もしないうちにこの店出て行くつもりですし・・・。できれば、仕事のできるカムカさんに引継ぎをお願いしたかったんですけれど・・・。」
「仕事を押し付ける気か!? アタシに? 偉くなったもんだね、役立たずのくせに!」
「でも、俺の仕事分もこなせば俺が上げてもらった給料分がカムカさんに渡ると思いますよ?」
「あの業突く張りが、お前の仕事を引き継いだ程度で賃上げなんてするわけないだろ!」
釣れた!
その答えは『お金』に興味があると答えているのと同義だよ?
「でもでも、魔石が納品されるたびに40万個の魔石をチェックして魔石をより分けるなんて、俺と、【俺からやり方を教えてもらった】カムカさん以外誰ができます?」
俺は【やり方を教えてもらった】という部分を強調する。
「例えば、俺から【ゼロコンマ】の能力を受け継いだカムカさんにしか高級魔石を選べないってなったら、スージーもちょっとは考えるんじゃないですかね?」
「・・・ほう?」
完全に食いついた。
今まで魔石のより分けをずっと見せて来たんだ。
どうやって俺が高級魔石を見つけているか気になっているに違いない。
興味を持ったカムカに手招きして、樽の収納されている棚の前にカムカを呼び寄せる。
「ここに、『5』って書かれてるじゃないですか。」
俺は樽の表示を指差す。
ちなみに俺には札からはみ出して『5.00358770』って見えてる。
「ああ、魔導力が5万がきちんと入っていることを証明するための札だ。」
「そうです。だからシャベルでひとすくいすると『4』になります。」
「そりゃそうだろ。」
「この樽には魔導力濃度の濃い魔石は入ってません。」
「はあっ!?」
カムカが驚きの声を上げた。
俺は無視して、隣の樽を探っていく。
「この樽も・・・『4』入ってません。次の樽も・・・だめですね。」
「お、おい、お前・・・何してやがる?」
カムカは俺の動きにうろたえている。
そんなのは無視して俺は樽の選別を続けていく。
「この樽は・・・『5』! 見てください、カムカさん。この樽はシャベルで魔石を取り出しても表示が変わりません!」
「ホントだ。こんなことあるんだな。」
まあ、業務中急がしい中、見る必要のないタルの表示なんて見てる奴はおらん。
今まで専任で樽を見てる奴も居なかったし、気づかなかったとしても無理はない。
だいたいタルの表示を全部見える側に向けたのも俺だ。
「これに魔導力の高い魔石が入っています。」
「マジかよ!」
カムカはそう叫んだ後、樽の中の魔石の数を見て一気にテンションを下げて呟いた。
「この樽から魔石を探し出すのか・・・。」
「いえ、これにもやり方があります。」
そう言って、俺は樽の中の魔石を実際に選り分けながら、カムカに説明していく。
「おい、ホントに【ゼロコンマ】関係ないじゃないか。」
関係あったけど、あんたにもできるようにこうしたんじゃい。
「そうですよ? 大変ではありますけど、知ってさえいれば誰でも魔導力濃度の濃い魔石を探し出すことが可能なんです。僕が居なくなった後もきちんと引き継いで欲しいので、カムカさんも一回やってみてくれませんか?」
「おう。」
カムカはまず、俺の説明通りに樽を探っていく。
すると、3つ目に目的の樽を見つけ出した。
「お、5から変わらねえ! この中に例の魔石があるのか・・・。」
俺はカムカの代わりに魔導力計のそばまで樽を運んでやる。
カムカは俺がさっき説明したようにシャベルで一杯ずつ魔導力を計測していく。
「もう少し大きいシャベルもあると楽なんですけどね。」
横からさりげなく業務改善提案。
カムカは俺の提案など耳に入ってない様子で、楽しそうに魔導力を測定していく。
そして、シャベル一杯分にしてはやけに魔導力の高いひとすくいを発見した。
「お! この中だっ!!」
カムカが嬉しそうに叫ぶ。
宝探し楽しいもんな!
俺も初日はめっちゃ楽しかったよ。
「すげえ、さっきまでシャベルひとすくいで1000くらいだったのに、6960とか出てるぞ?」
「すごい! そんな数値見たことないすよ!」
うそぴょん。
カムカが見に来てるの知ってたんで、こっそり取っておいた魔導力6000の魔石を放り込んどいた。
カムカは血眼になって、魔石をより分けはじめた。
俺の言った通り、半分づつ計って魔力の高い集団を選んでいく。
「あったっ! これだ! 6000!!?」
カムカは目を飛び出さんばかりに驚いて、魔石を掲げて眺めた。
「おお! さすがカムカさん。俺の見た中では過去最高の魔導力ですよ。」
「そうなのかい?」
「そうですよ、普通3000くらいです。 日頃の行いが良いんですかね!」
「へぇ~。」
そう言いながらカムカは魔石を部屋の灯りにすかして見た。
めっちゃ口元がほころんでいる。
こんなカムカ、今まで見たことない。
さて、ここからが勝負。
「せっかくだし、その魔石お守りにしたらどうですか?」
「えっ!?」
カムカが驚きの声を上げて俺を振り返る。
「そんなすごい魔石一発で引き当てたなんて、きっと普段のカムカさんの頑張りを神様が見てたんでしょう。珍しいし記念に取っておいたら良いんじゃないですか?」
俺の言葉にカムカの瞳が欲にまみれた光を放ちだした。
「そ、そういうのもありかもな。まあそんなに私ぁ幸運とか信じる方じゃないけどな。記念に取っとくってのは有りだよな。」
そう言ってカムカは魔石を懐に入れた。
そして、俺をキッと睨みつけて言った。
「余計な誤解を招くといけないから、スージーには言うなよ。」
「ああ、スージー、守銭奴だから、ネコババしたとか言い出しそうですもんね。」と、無邪気を装って同意する。
てか、まんまネコババだけどな。
「じゃあ、まだ15樽くらい残ってるのであとは俺がやっときますね。」
そう言って、俺がシャベルを拾おうとすると、カムカは慌てて俺の手からシャベルをひったくった。
「いや、今日は私がやっとくよ! 私も練習したいしよ。今日はもう休め! それより、お前、日中計測で大変なんだろ? これからはこの仕事、全部私がやってやるよ!!」
ふっふっふ。
作戦通り!
「え? でもカムカさんだけじゃ大変ですよ。俺も手伝いますよ。」
「いいって。こんなの二人居たってしょうがないだろ! 私一人で充分だよっ!」
「大丈夫ですか?」
「いいっつてんだろ! お前が私の心配しようなんて百万年早いんだよっ! とっとと眠って明日の仕事に備えな!」
俺がしつこく食い下がったので、カムカが怒鳴った。
いかん。
面白いように手の上で転がっとる。
「カムカさん・・・、ありがとうございます!!」
感動したフリをして大袈裟に礼を言う。
しかし、カムカはもうこっちの様子など見ずに、新たな樽の選別に向かっているのだった。
なんか職場に横領の芽を生んでしまった気がするが、みんな幸せだから良かろうなのだ!
魔石の仕分けの仕事も押し付けたし、弱みも握ったのでカムカとも円満にいけそうだ。
これでようやく戦いのほうの訓練にも入れそうかな?




