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拘束

 解放された大男が俺たちを順次縛り上げていく。


 メルローとルナが人質に取られてしまっては手も足も出せない。

 二人人質が居るということは、一人は簡単に殺すことができるということだ。


 俺たちは全員後ろ手に縛られ床に転がされた。


「ノーネームのくせに! ただのモブのくせに!!」

 栗毛の冒険者は全員が縛られたのを確認すると、縛られて横たわっているルナの腹に何度も思いっきり蹴りを入れた。


「やめろっ!」

「黙れ。」


 ごっ。


 俺が叫んだ瞬間、大男が俺の頭をサッカーボールのように思い切り蹴飛ばした。


 意識が半分以上どこかへ飛ぶ。

 死ななかっただけで精一杯だ。

 周りの状況だけがぼんやりと耳から入ってくる。


「ケーゴ! ケーゴ!!」リコの叫び声が聞こえてくる。


「うるせぇ! 騒ぐな!」

「ジェ、ジェイク待ってよ。か、可愛そうだよ。その子可愛いいし。」

「お前なぁ、護符がなきゃお前だって大怪我だったんだぞ。」


 冒険者たちの声が聞こえてくる。


「そ、そんなことどうでもいいじゃん。それよりも、ご、ご褒美欲しい・・・。」

「後にし・・・いや、約束だったしな。好きなやつを選んでいいぞ。」


「この娘がいい。」


「嫌ぁ! やめて!!」

 リコの叫び声が俺の耳に刺さる。


 動かないと。

 助けないと。

 意識を。意識を。


「扉の向うの奴ら。聞け! お前らを助けに来た奴等がひどい目に合うところを扉の隙間からよく見ろ! そして聞け! その後、こっちのドワーフ共のどっちかを殺す。お前らが俺たちを舐め腐った罰だ!」

 動くことのできない俺の視界に栗毛が入ってきた。

 何かの首飾りを掲げながら大声で扉の向こうに向けて怒鳴っている。


「それが嫌なら、残りの武器の在処を教えろ。槍と宝珠だ!ここにあるのは分かっているんだ! お前らが情報を持ってるのも分かってんだ。そもそもテメェらはそのための存在だろうが!」

 そう言うと栗毛は再び俺の視界から消えていった。


「嫌だ、嫌だ!!」

「やめろ、リコから離れろ!」

 視界の外からリコとヤミンの悲鳴が聞こえる。


「ヘイト。扉の前でやれ。」

「おい、危なくないか?」

「心配ない。こっちには使える人質が何人も居る。どのみち魔法を封じることになったら、ヘイトは使えねぇ。」

「まあ、たしかにそうだな。」

 俺のそばで冒険者たちが相談する声が聞こえてくる。


「嫌っ!! 助けて!」


 魔法使いに引きずられて、リコが俺の視界に入ってきた。

 リコが泣いている。


「だ、大丈夫。こ、今度は、ちゃ、ちゃんと、殺さないようにできるから。」

「別に代わりは居る。好きにしていいぞ。」大男の声が聞こえた。

 

 助けないと。

 動いてくれ。


「嫌っ! 痛い!」

 目の前でリコが魔法使いに押し倒される。


 お願いだ。

 誰でもいいから、リコを助けてくれ。



「わ、私がするの。」



 ルナの声が聞こえた。


 魔法使いはその声に止まって、ルナの声の方を振り向いた。


「あ? あれ? ・・・あ、あれ?」


 魔法使いはルナの方を見たあと、驚いた顔でルナとリコを見比べ始めた。


「じぇ、ジェイク。やっぱ、あっちの娘がいい。」魔法使いは唐突にそう言った。

「あ? 何だそりゃ。」

「よ、よく見たら、あの時の娘だ。」

「あの時?」

「ば、馬車から降りてきた娘。おっぱいの大きい娘。」

「は?」

「なぁ、あいつ、エデルガルナを騙ってた女じゃないか?」

「はぁ? もしかして、こいつ本物の騎士隊長だったのか! どうりでこんなに強かったのか!」

 冒険者たちの声が聞こえてくる。


「いい?」

 魔法使いが仲間に問いかけた。

「いいぜ! 好きなだけやっちまえ。」

 視界外から返事が返ってくる。


 魔法使いはリコをその場に放置すると、俺の視界から消えていく。


「あ・・・あ・・・。」

 くそ、声が出ない。


 駄目だ。

 また、ルナを。


 意識よ戻ってくれ。

 体よ動いてくれ。

 たのむ。


「待て、ヘイト!」


 栗毛の声の警戒に満ちた声がした。

「何か企んでるかもしれない。念のために足を折れ。」


 は?


「えー、か、可哀そうだよ。そ、そんな事する必要ないよ。」

「そいつ、NPCとは思えないくらい強えんだよ。」


 NPC?


 こいつら転生者か!?


 なんで、日本で普通に暮らしてきた人間が、こんな酷いこと平気でできるんだよ。


「ご、ごめんね。」


 バキン。


 音が聞こえた。


 うそだろ・・・?

 やめてくれ。


「あああっ!」ルナの悲鳴が聞こえた。


「やめて! やめてっ!」

「やめろ!」

 リコとヤミンの悲鳴が響く。


 もう一つ、音。

 そして再び、ルナの悲鳴。


 くそ!

 くそっ!


「や・・・やめろ・・・。」

 口を開く。


 何か、何か。

 なんでもいい、何か、何かしないと。


「こっちに連れてこい。」


 冒険者たちは俺の声になど気づかない。

 栗毛の声がして、視界の中にルナが引きずられて入ってきた。

 魔法使いは引きずってきたルナを乱暴に地面に転がした。そして、倒れ込んだルナに馬乗りになるとルナの礼服を引き剥しにかかった。


「こ、この服、分厚い。か、硬い。」

「縄をほどいて欲しいの。お洋服が脱げない。」ルナの声。

「じぇ、ジェイク。手の縄、ほ、ほどいていい?」魔法使いは彼の仲間に訊ねた。

「じゃあ、腕も折れ。気をつけろよ。」

 信じられない言葉が聞こえてくる。

「う、うん。さ、先に折るから大丈夫。」

 魔法使いは両手で縛られたままのルナの腕を掴んだ。


 再び乾いた音。

 そして、腕を持ち代えて、もう一度。


 こいつら、絶対に許さない。


 ルナの腕をへし折った魔法使いはルナの両手の縄をほどく。

 そして、ルナを仰向けにひっくり返すと、両手を上げさせ、関節の向きなどお構いなしに厚手の礼服を力任せに引き上げて剥ぎ取った。

 インナーだけになったルナの身体を見て、魔法使いは気持ちの悪い笑みを顔いっぱいに浮かべた。


 その瞬間だった。


「【エネルギーボルト】!」


 ルナが折れた腕を必死に振り回して、馬乗りになっていた魔法使いに向けて魔法を放った。


 しかし、魔法は魔法使いを逸れて明後日の方向へと飛んでいく。


「なに。わ、悪あがき?」

 魔法使いはビクリと驚いて固まった。

「おい、気をつけろって言ったろ!」怒鳴り声が聞こえてくる。

「うん。だ、大丈夫。」

 魔法使いはそう言うと、ルナの手を掴んで再び頭の上に上げさせた。そして、作業でもするかのようにルナのインナーを引き裂いた。


「もう、やめてっ!!」

「ルナ!」

「や、めろ・・・やめてくれ・・・。」


 ああ! ちくしょう。


 突如、俺の絶望を掻き消すように大きな声が響いた。


「ケーゴ! タイターン4を使え!」


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