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救出戦

「ナイスだ! ヤミン!」


 洞窟の中での長距離射撃という離れ業を見事に成功してみせたヤミンをもっと称賛したいところだが、メルローが危ない。

 俺はリコとルナと一緒に一気に間合いを詰める。


「ケーゴだ!!」エルダーチョイスが彼らのそばにある扉に向かって叫んだ。「ケーゴたちが来たぞ!!」


「あ、あの時のかわい子ちゃんだ!!」短剣をはたき落とされたデブッチョのリコの方を見て嬉しそうな声を上げた。

「あいつらケルダモにいたブルーカードじゃないか?」

「なんだぁ? 助けにでも来たのか? ま、最強の剣の試し切りには、丁度いい。」


 相手は俺たちが迫ってくるのを見ていながらも、余裕そうにこっちを向いた。


「こ、殺しちゃ駄目だよ。こんな可愛い子たち。お、男は、ともかく。」

「ま、それでいっか。この村の奴らと知り合いらしいし。人質が増える。」


 俺は容赦してもらえなそうだ。

 だが、リコたちが容赦してもらえるからって負けるわけにはいかん。


 相手には見覚えがある。

 ケルダモの近くでドヴァーズたちに囲まれた時に、騎士たちと一緒に居た冒険者達だ。

 栗毛の背の低い冒険者はの結構な手練だったが、多分敵わない相手じゃない。

 それに、こっちはレイドボス戦で大幅にスキルレベルが上がっている。


 みんなはあの扉の中か。


「ドワーフをなんとしろ!」

「う、うん。」


 魔法使いが容赦なくエルダーチョイスをぶん殴った。

 エルダーチョイスが吹き飛ばされて動かなくなる。


「ヘイト、扉を開けられないようにしろ。もし誰か出て来るようなら大声で叫べ!」

「わ、分かった。」


 栗毛の冒険者は魔法使いに命令すると俺たちに向かって剣を抜いた。

 もうひとりの冒険者も大槌を構えた。

 魔法使いは扉に何やら呪文を唱え始めた。

 中に誰か居るのだろうか?


 接敵間近の俺たちも武器を抜く。


「私はあの小柄なほうの戦士をなんとかする。ケーゴとリコは大柄な戦士を。」エデルガルナさん状態のルナが指示を出す。

「分かった。」

「うん。」

 俺とリコが走りながら頷く。

「油断するな。」

 ルナはそう言いながら二本の剣を抜いた。


「自惚れるなよ。初心者ども。」


 大男が俺たちと接敵。

 即座に俺に初撃が飛んでくる。


 モーションがでかい。


 大男は俺ではなく、俺のいる空間ごとなぎはらってくる。

 当たれば痛そうだが、今俺にとってこの攻撃をよけるのは造作もない。

 こいつはそこまで強くない。

 弱いわけじゃなさそうだが、俺にとって相性がいい相手のようだ。

 エルダーチョイスの鞭もあるし。これなら、俺、一人でもいける。

 

「こいつは任せろ。リコは魔法使いを制圧して!」リコに声をかける。

「了解!」

 大男の脇をリコが駆け抜けていく。


「笑止! 2レベルごときが侮るなよ。行かせるか!」

「【乱舞】!」


「なにっ!?」

 突如繰り出された鞭の嵐に大男が一瞬怯む。

 が、大男は俺の攻撃を無視して、リコに殴りかかる。


 が、リコのほうが一瞬早い。

 リコの盾が大男の攻撃を流した。

 

 リコは大男の攻撃をいなしながら、先へと抜けた。

 俺は大男がリコを追えないように素早く回り込む。


 これで、全員一対一だ。


「ちっ。一人抜けちまった。ヘイト、気をつけろ!」

 大男が魔法使いに向けて警告を飛ばす。


 ちらりとルナのほうを見ると、向こうもすでに接敵していた。


「よそ見をするな! 小僧。」

 大男が大槌を振るって攻撃をくりだし始めた。早く俺を倒して魔法使いのフォローに行きたいようで、攻撃に焦りが見えている。

 俺はそれをひょいとかわしながら、ルナと栗毛の戦いの様子を観察する。


 ルナと栗毛の戦いの火蓋も切って落とされたようだ。


「美人のお姉さん。とりあえず、オネンネしてな。」


 栗毛の冒険者が素早く剣を振りかぶった。

 振りかぶり方が剣の柄で殴りつけるモーションだ。


 ルナも合わせてゆっくりと剣を振りかぶる。


「遅いよ。ばいば・・・ふぐぅっつ!!」

 満面の笑みを浮かべて勝ち誇った栗毛の顔が驚きと苦痛で歪んだ。


 振りかぶるのが緩いからって、攻撃が遅いとは限らない。

 ルナは栗毛の柄が振り出されるよりも先に懐に飛び込んで紫の剣を一閃していた。


 ルナの強剣は栗毛の冒険者を捉え、栗毛の冒険者は口から血を吐いて、吹っ飛んで・・・


 吹っ飛ばない!?


「危ねぇ、残念。」

 栗毛の冒険者が驚いているルナに向けて両手で剣の柄を振り下ろした。


「いつまでもよそ見しやがって。2レベルのくせに調子にのるな!」


 俺の前の大男が苛立ち紛れに大槌を振りおろしてきた。

 素早く回避。大槌が地面をえぐる。

 ちょっと危なかった。


 即座に反撃。


「【スナイプ】!」


 すんなりクリティカル!

 鞭はカーブして、男の両太ももを貫いた。


 よし!

 えっ!?


 足を貫かれたにも関わらす、男は一瞬のためらいもなく、振りかぶっていた大槌を薙ぐ。

 慌てて鞭を引き抜いて避ける。


 男は足の怪我など無いかのように、つづけざまに踏み込んで攻撃を仕掛けてくる。

 

 ってか、ほんとにねぇ!


 足の怪我が無くなってる!


 そうか!

 ダメージ無効化の護符!!


 ルナの打撃が効かなかったのもそのせいに違いない!


 アルファンの時の便利アイテム。

 いろんな無効化シリーズがあるけど、その内のダメージを無効化するやつ。使い切りアイテムだ。

 結構、レアだぞあれ。


 俺に使っちゃうの!?

 もったいねぇ。


「【束縛】!」


 なら、縛るのみ。


 【回避】に振ってなさそうなこの相手なら、俺の【鞭】レベルなら余裕なはず。

 パワー的に振りほどかれる可能性はあるけど。


「なっ!」


 大男が突然の鞭の軌道の変化に驚く。

 俺の鞭が的確に攻撃終わりの相手を絡めとる。

 たまたま、攻撃終わりのバランスのよくないタイミングて縛られたため、大男は体勢を崩してそのままドタンと倒れた。


「クソっ!」


 ルナにダメージ無効化の護符のことを伝えようと振り返ると、あの状況から何があったのか分からないが、血まみれになった栗毛が地面に横たわり剣を突きつけられていた。


 さすルナ。圧勝やんけ。

 こっちは問題なし。


「リコ! 気をつけろ! こいつらダメージ無効化の護符をもってる!」

 リコに注意を飛ばす。


「えっ? どういう事?」


 俺の事を怪訝そうな顔で振り返りながら剣を鞘に収めようとしているリコの後ろで、太ったの魔法使いが、這いずるようにメルローの元へと近づいていた。


「リコ! 後ろ! 倒せてない!」


「!!」

 

 リコが振り向いた瞬間、太っちょの魔法使いが落ちていた短剣を拾い上げた。

 そして、倒れていたメルローを抱え込んで短剣を突きつけた。


「しまった!」


 と、その瞬間。

 再び、ヤミンの矢が一閃し、的確に魔法使いの短剣を持っている手を貫いた。


 だが、魔法使いは怯むこともなく勝ち誇った。


「ぼ、僕は護符、もう一枚貰ってるんだもんね、バーカ!」


 魔法使いは手から矢を引き抜くと、持っていた短剣で容赦なくメルローの耳を切り落とした。


「ちょ、ちょっとでも動いたら、こ、こいつを殺す!」


 魔法使いは気絶したままのメルローを矢の盾にするように持ち上げて叫んだ。

 メルローの頭の右側からドクドクと血が流れ落ちる。


 ちくしょう。

 どうする!?

 

 どうすればいい?


「う、動くな! 動くんじゃないぞ!!」

 太った魔法使いが叫ぶ。


 メルローを見捨てる?

 いや、そんな事はできない。


 しかしこのままじゃ、リコやヤミンも危ない。

 ちくしょう。

 頭の中を最悪の未来が横切る。


 と、

 ルナのほうからくぐもった悲鳴が聞こえた。


「ちくしょう。やってくれやがって。」


 ルナの方に視線を動かす。


 そこは栗毛の冒険者が無抵抗になったルナから剣をはたき落としたところだった。

 ルナの両手からは血が流れている。


 栗毛の冒険者はルナを蹴り倒すと、馬乗りになって、胸ぐらをつかみ短剣を喉元に突きつけた。

 首からも赤い線が流れ出す。


「モブキャラごときが舐めやがって。ダメージ無効化の護符が無くなったじゃねえか! お前には後でたっぷり仕返しさせてもらうからな。」

 栗毛の冒険者はそう言ってから、今度は大声で後ろの魔法使いに叫んだ。

「ヘイト! よくやった。後でお前の好きなようにさせてやるから、絶対そのドワーフを離すな。人質がもうひとりできた。コイツらが間違ったことをしたらそっちはすぐ殺して構わねえ。」

「うん!!」魔法使いは嬉しそうに声を上げた。

「弓士! こっちに出てこい! そこの鞭野郎もタイチを開放しろ!」栗毛の冒険者はルナに剣を突きつけたまま叫んだ。


 くそっ。

 万事休すか。


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