指
「何であんたが出てくるんだ!! エルダーチョイス。」
メルローの叫び声を聞いて冒険者たちがざわめきたった。
「エルダーチョイス!!」ジェイクが驚きの声を上げた。
「そ、それだよ! あ、アルファンにそんな名前の武器だったよ。た、たぶん、それ、。」ヘイトも声を上げた。
「それは、どこにある。」タイチがエルダーチョイスに尋ねた。
「わしの部屋だ。」
「あんたの武器はこんな奴らに渡していい物じゃない!!」メルローは叫んだ。
彼の武器は彼の研究者人生の結晶であることを同じ研究者であるメルローは良く知っていた。
「お前の指に比べたらあんなもん大した価値もないわ!」エルダーチョイスはためらいもなく叫び返した。
「その武器のあるところに案内しろ。」タイチがエルダーチョイスに命令した。
「わかった。その代わりメルローには手を出すな。」
タイチは確認をうながすようにジェイクを振り返った。
ジェイクはエルダーチョイスを睨みつけた後、フンと鼻を鳴らしてタイチに向けて言った。
「タイチ、お前がこいつを連れて武器を回収してこい。 ヘイト、その女ドワーフの見張りをタイチと代われ。」
ヘイトがタイチから短剣を受け取り、メルローの拘束を代わると、タイチはエルダーチョイスに向けて言った。
「行くぞ。」
二人が武器を取りにいっている間、扉の前では言葉の一つもない緊張した時間が流れた。
メルローにとってはさっきまで自分一人が人質だった時よりもずっと辛い時間だった。
ややもあってタイチがエルダーチョイスを前に歩かせて戻って来た。
彼の手には一本の剣が握られていた。
「あったぞ。」
タイチはジェイクに持っていた剣を放り投げた。
「他にも剣はあったが、こいつを見張っている必要があった手前、とりあえずは一番強いってやつだけを持ってきた。」
ジェイクは自分の前に転がった剣を拾い上げて、鞘から引き抜いた。
「すげえ良い剣じゃねえか。」刀身を眺めながらジェイクは感嘆の声を漏らした。
「い、いいなぁ。そ、それ魔力も高い。」【マナサーチ】で剣を確認したヘイトが羨ましそうな声を上げた。
「そうじゃろて、そうじゃろて!」武器を褒められて、エルダーチョイスが状況を忘れて喜ぶ。
「他の武器はあったか?」
「槍も宝珠も無かった。剣ばっかりだ。」タイチが答える。
タイチの言葉にエルダーチョイスはケーゴに渡した武器のことを思い出して一瞬ピクリとする。
「おい。お前、心当たりがあるのか?」ジェイクがエルダーチョイスの一瞬の惑いを見逃さずに尋ねた。
「知らん。マジで知らん。」
「おい、ヘイト。」タイチはメルローの首を後ろから締め上げているヘイトに声をかけた。
「待て。待て! 本当に知らん! 槍は昔持ってたがあげてしまったというだけじゃ。」
「ちっ、まじかよ。誰にだ?」ジェイクが 相手を首飾りをエルダーチョイスの前に掲げて尋ねた。
「ゆ、行きずりの冒険者にだ。」
「何で、俺たちには最初っから素直に渡さなかったんだよっ!」ジェイクが大声で怒鳴った。
「じゃあ、何で最初っからワシに訊かん。」エルダーチョイスは心底本音で答えた。
「その冒険者とやらはどこにいる?」
「知らん。」
「心当たりもないのか?」
「・・・分からん。」嘘の苦手なエルダーチョイスは一瞬言いよどんだ。
「ヘイト、そのドワーフの手をそこの岩に乗せろ。指を切り落とす。」タイチがヘイトに命令した。
「これ以上メルローになんかしたら何もしゃべらんぞ。」
「こいつの指を切り落とされたくなかったら、意地でも思い出せ。思いつかなきゃ中に行って必死で訊いてこい。」ジェイクがエルダーチョイスに向けて言う。
「中の奴らも知らんと思うぞ。」
「知らねえよ。こいつの指が大事なら意地でも聞き出してこい。それでも知らなきゃ、知らなくて残念だったなってこった。」ジェイクは冷たく言った。
「・・・・。」
エルダーチョイスはジェイクを睨みつけると扉に向かってうなだれて歩き始めた。
「ちょっと待て。一本指を持っていけ。説得が楽になるだろう。」ジェイクはそう言って、ヘイトに合図を送った。
「おい、ちょっと待て! 」
「ヘイト、そいつの指を一本落として持たせてやれ。」
「おい! やめろ!!」
「ご、ごめんね。」
ヘイトはメルローに謝るとその頭部を思いっきり殴った。
人質に対する容赦ない打撃にエルダーチョイスが恐怖で固まる。
ヘイトはぐったりとしたメルローの手を引っ張って片手を石のテーブルの上に貼り付けるように置いた。
人間の指を骨まで断つには結構な力が居ることを知っていた彼は短剣を大きく振り上げた。
その瞬間。
するどい風切り音とともに、ヘイトの振り上げた短剣に矢が命中し、短剣が弾き飛ばされた。
「ナイスだ! ヤミン!」




