避難
ディグドは避難場所までトリネンを届けると、自ら辺りのドワーフやエルフたちにBプランの実行を伝えて回った。
エルフたちはケーゴに伝えられていた指示通り、エルフ同士の魔法によるネットワークで避難情報をクリムマギカの隅々まで伝達していく。
程なく、次々とドワーフやエルフが何事かと話し合いながら集まってきた。
避難してきた殆どの人達は何が何だか分からない様子だが、中には彼らに襲われ命からがら逃げてきたものや、途中で誰かの死体を見つけて泣きながらやって来た者もいた。
ディグドは避難所に続く道の前で逃げてきたドワーフたちと状況を確認しあっていた。
「カザルフとギーズが死んでいた。酷いことをしやがる。」
「住人はどのくらい集まった?」
「分からんが、結構集まってきている。」
「そろそろ扉を閉めてしまおうか。」
今回の避難所には入り口が一つしかない。
入り口は頑丈な鉄扉で、閂をかけてしまえば外からは簡単に開け閉めできない。
ディグドが避難場所の入り口前にある分かれ道から先を確認すると、一番太い幹線路から一人のドワーフがこっちに走ってきているのが見えた。
「まだ一人こっちに走ってきている。ちょっと待ってくれ。」
走ってきているのはグラルというドワーフだった。
よく見れば片方の目がめちゃくちゃに腫れている。
そして、彼の後方の曲がり角から、ドワーフを追いかけて一人の人間が現れた。
「急げ! コッチだ!」
「ひいいいぃ!」
ドワーフは短い足を精一杯に伸ばしてドタドタとこっちに逃げてくる。
が、彼を追いかけてきている男のほうが足が速い。
しかも、男から遅れて、二人の人間が曲がり角を曲がって現れた。
「おい! ジェイク! なんかドワーフ共が集まってるぞ。」
「タイチ! そのドワーフを逃がすな! 何を企んでるか聞き出す。」
「分かった。」
人間が大きなストライドを生かしてグラルに迫ってくる。
足の遅いグラルは今にも追いつかれそうだ。
「エルフの。アレに土属性の攻撃魔法を打ち込んでくれ。」一人のドワーフがエルフを連れて避難所の入り口まで出てきドワーフと人間たちの走っていている通路の方を指差した。
「承知した。【ストーンブラスト】」ドワーフに連れられてきたエルフは事務的に魔法を唱えた。
エルフの唱えた魔法は人間たちには向かわず、その手前、道の途中に放置されるようにおかれていたゴーレムに命中した。
エルフの魔法を吸収したゴーレムの目が光る。
「タイターン4! あの人間どもをやっつけろ!」
グラルがゴレームの脇を抜けた直後、ほんの数歩後ろから、彼を追ってきた男が彼を捕まえようと手を伸ばす。
同時にゴーレムの片手が男を潰そうとするかのように叩き降ろされた。
が、間一髪、男は後ろに飛び退き逃れる。
「あぶねえ!」
「間合いを取れ! 当たるとやばそうだ。ヘイトは近づくな。」遅れて走ってきている冒険者から先頭の男に指示が飛ぶ。
「わかった。」
グラルを追って先頭を走っていた男が、突然のゴーレムの乱入に足を止め、ゴーレムと向き合った。
「グラル! 急げ、こっちに逃げ込め!」
ディグドが逃げてきたグラルを急かす。
「行かせるかよ。タイチはそのデカブツを引きつけておけ!」
後ろから追いついてきた冒険者が小走りにゴーレムを迂回して、再びグラルに迫ってくる。
その時。
「【ファイアボール】!」
火の玉が飛んでいき三人の人間とゴーレムを巻き込んで炸裂した。
「遅くなった。生きているエルフは私で最後だ。」
ディグドの隣にはいつの間にかフーディニアスが合流していた。
【ファイアーボール】は彼が飛ばしたものだ。
だが、火の玉の爆発の向うから人間たちは無事な様子で現れた。
「くそ、痛えな!」
「魔法結界の護符を使え。」
「おい。それはもったいなくないか。」
「まだ、何回か使えるはずだ! 出し惜しむな。」
致命的なダメージを受けたとまではいかないようだ。
だが、人間たちはフーディニアスの魔法攻撃に驚き狼狽えている。
「フーディニアス。もう一発打ち込んでやれ。」ディグドがフーディニアスに声をかけた。
「承知した。【ファイアボール】」
「高位の事象より釁隙に至るマナを擂解せよ!」
フーディニアスの手から火の玉が飛び出した瞬間、人間が護符を取り出して叫んだ。
眩い光があたりを包み、そして、人間たちに向かっていたはずの火の玉がかき消えた。
「魔法結界の魔術具を使われたようだ。」フーディニアスは驚いた様子もなく解説する。
「タイターン4も止まってしまったぞ!」ゴーレムに命令を出していたドワーフが驚いて叫んだ。
「くそ! 中に駆け込め。扉を閉めて籠城する!」
ディグドはそう叫び、フーディニアスやグラルたちと一緒に避難所の中に駆け込んだ。
ディグドは目視範囲内に遅れてやってきているドワーフやエルフがいないことを確認して扉を閉める。
「閂をかけろ!」
ディグドの指示と同時に、ドアの後ろに控えていたドワーフたちが慌てて鉄扉を抑えて閂をかけた。
直後に外から、扉を一発大きく叩く音と「クソっ」という悪態が聞こえた。
「間一髪じゃった。」ディグドが額の汗を拭った。「ジャイアントの侵入防止の目的で選ばれた部屋じゃ。簡単には入ってこれんじゃろうて。とりあえずは一安心だ。」
再び扉をガンガンと叩く音が響く。
そして、扉の上部にある空気抜きの格子から、グラルを先頭で追いかけていた男の顔が覗いた。
「よお、そんな所に逃げたって駄目だぜ。」
「貴様ら、何者じゃ!」
「別に名乗るほどのもんじゃない。お前たちがひた隠しにしている武器をよこせ。剣と槍と宝珠だ!」男は怒鳴った。
「あと、エルフの女の子!!」
「黙ってろ! デブ!」
外からはさらに別の声も聞こえてきた。
「隠している武器?そんなものワシらは知らん。」ディグドは大声で返事を返す。実際彼には本当に何のことか分からなかった。
「思い出すまでそこからは出れないと思え。」男はそう言って最後に扉を蹴飛ばすと見えなくなった。




