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クリムマギカの悲劇

 ディグドはご機嫌だった。


 久しぶりに自分のためだけの鉱石堀りにでかけ、近年ないほどの珍しい鉱石を掘り当てた。

 超高魔導率の鉱石だ。この鉱石があれば様々な魔導機器を小型化できる。いろんな所に引く手数多の鉱石だ。

 ディグドとっては役に立つことよりもレア鉱石を掘り出すことが重要だ。

 もちろん、ジャイアントたちから街を守るための大砲づくりを手伝っていた時も楽しかった。

 ただ、人の役に立つのも良いが、やはり、好き勝手に珍しい石を掘り漁っている時のほうが楽しい。ああいうヒリヒリするのはたまにで良いとディグドは思い知った。


 ご機嫌なディグドは鼻歌混じりに自分の鉱石倉庫件展示場へと帰る途中だった。

 背中のリュックは採掘してきた鉱石で重かったにも関わらず、ディグドの足取りはスキップを踏んでいるかのように軽やかだった。


 そんな足取り軽く、通路を進むディグドは、道の先に見知ったドワーフが倒れているのを見つけた。

 薬物系の研究者のトリネンだ。

 道に仰向けに倒れ伏したままピクリとも動かない。


「トリネン! どうした。」


 ディグドは慌ててトリネンの元へと駆け寄って身体を揺する。

 トリネンがゆっくりと目を開けた。


「良かった、無事だったか。いったい何があった。」


「突然殴られた。人間の冒険者が来とる。あいつらは凶暴だ。前の子らとはぜんぜん違う。」

「人間の冒険者?」

「3人組だ。ワシのスーパーミーツをくれてやったのに、殴り倒しおった。」

「立てるか?」


 ディグドはトリネンに肩を貸して居住区の方に進み出した。


 だが、ディグドたちの行く手に、再びドワーフが倒れていた。

 その周りの地面は水を吸ったように黒く染まっていた。


「ギーズ!」

「死んでる・・・。」


 肩や太ももに多くの刺し傷。

 そして、血で真っ赤に染まった服には心臓の辺りに剣で一突きされた大きな穴がある。

 死んでいるのはひと目で明らかだった。


 ディグドは死体にかがみ込むと、その目をそっと閉じてやった。


「何じゃ・・・これは・・・。」

「拷問されたのか?」

「これはまずいんじゃないのか?」


 ディグドはふと目線を上げて少し先にもう一人倒れていることに気がついた。

 慌てて駆け寄る。


「カザルフ・・・。」

 殴り殺されたのだろう、顔中が腫れている。

「可哀そうに、痛かったろうに・・・。」


「ディグド!」ちょうどそこにドワーフが駆けつけてきた。


「誰かがレントンを殺しやがった。」

「カザルフとギーズも殺されてる・・・。」ディグドは悲しそうにカザルフの死体を見下ろした。

「ああ、カザルフ。なんてことだ・・・。」

「襲撃者が居るのじゃ。」トリネンが。「わしも殴られた。」

「エルフもドワーフも皆、一旦集まろう。皆で居たほうが安心じゃ。エルフ共の魔法はなんだかんだで心強い。」ディグドが提案する。

「そうだな。どこかに隠れていたほうが良いかもしれん。」トリネンも同意する。

「相手が人間という意外どんなやつかよく分かっとらん。入り口ホールは何かあった時に守りようが無い。」

「わしらの足じゃ外に逃げるにも逃げられんしの。」

「そうじゃ、この間のケーゴが作ったBプランを使わせてもらおう。」ディグドが思い出して言った。


 Bプランとはジャイアントたちの襲撃の際に、ケーゴが最悪の場合にそなえて準備していた緊急避難用の作戦のことだ。


「確かに、Bプランの避難場所はこの街随一の頑丈な部屋だ。ちょっとした打撃や魔法でもびくともせんから安全じゃ。」トリネンが賛同する。

「皆にBプランに従うように広めてくれ。エルフの連中に頼むといい。魔法を使ってなんとかしてくれる。ケーゴが緊急連絡時の仕様を彼らに伝えていたはずだ。ワシはトリネンを避難場所まで届けてから、他の奴らにも伝えるようにする。」

「分かった。」通りすがりのドワーフは頷いて、もと来た方向に走っていった。

「気をつけろよ。」

「そっちもな。」

 ディグドはドワーフと別れるとトリネンに肩を貸して、ケーゴが指定していた避難場所へと急いだ。

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